偽イケメン魔法使いの本気
「ところでニーナ、ナイトの姿絵本はまだ出来ないのか?」
…………ああああっ! 忘れてたようっ! どどどっ、どうなってたっけ⁉
魔王様の目は「おうおう、進捗報告がねぇぞ? 進めてんだろうな、ぁあん?」と言っている!
「ももっもうすぐ出来ますです! えええっと……確か……」
急いで亜空間からメモを取り出す。……よかった! 抜かりない!
「明後日が製本納期なので、それはもうバッチリと! 本屋のボンドさんにも伝えてあります!」
過去の私、グッジョブ!
「ボンドは金用意してあんのか? 俺様の優秀な部下のニーナなら当然発売日も決めてあんだよな?」
えっ?
「そ、それはですね……」
「明日までにやっとけ。もうナイトが客に宣伝してっからそろそろ発売日を告知しなきゃならねぇ」
「はひぃっ!」
そ、そうだった! お客様が待ってるんだった! ボンドさんに早くお金用意してくださいって言わなきゃ……でも20冊分の60万をすぐに払ってなんて言いにくいよぅ……シクシク。
「一番に買いに行くから早く教えてね、ニーナ!」
「う、うん……」
アーニャ、ホントに買うんだな。今すぐにでもボンドさんへ念話しておこう……。
「そういやコーディ、パウリーの急用って何だった? どうせミアのフィギュアの事だろ?」
魔王様がキャッシャーカウンターにいるコーディさんへ声をかけると、彼はクックッと笑いながら教えてくれた。
「ええ、そうです。リサさんに着色して欲しいらしく、今日僕がリサさんに付き添って画材屋へ行ってきました。リサさんは今魔王様名刺の絵で忙しいので、フィギュアの方は日程調整中です」
看板にはメイリアさん特製の塗料を使ったけど、最近メイリアさんが忙しいからコーディさんは気を使って画材屋で調達してくれたのかな?
そして魔王様名刺……たくさん受注してるんだな。ふふふ……人族への普及は順調だ!
「リサさんも張り切っていたのですごい作品になりそうですよ。なので作業代は百万ディルから交渉開始したのですが……」
「速攻受けたろ、パウリーのやつ」
リサさんが色を塗るということは、本物そっくりのフィギュアになる事が約束されているも同然である。
「ええ……仰る通りです。即、前払いしていました……」
仕立て屋パウリーの皆さん……ミアさんの事となると狂乱状態になってしまってお財布のひもがガバガバだ。ミアさんはなんて罪なナイトなんだろう。
「思わぬところでミアのアイドル化計画が進むな! リサ一人で街を歩かせないようにだけ気を付けてやってくれ」
「もちろんです」
リサさんがまた人族に攫われたらと考えるとゾッとする。
「あ! そうだ、ニーナが付き添ってやってくれよ。どうせ姿絵本の件で街に行くだろ?」
「ふぇ? 私ですか? まぁリサさんのためなら……かしこまりました」
街を歩くくらいならいっか。よくよく考えれば、私とリサさんは魔王様名刺の共犯という固い絆で結ばれている。……よぅし、護衛、頑張るぞ!
「あっ! ニーナ、サシャさん今日はヴァンくん指名だよ! ヴァンくんミアくんに勝てるといいね! 二つ名のためにも!」
お尻をフリフリしながらフロアを覗き、後ろ手で私を呼ぶアーニャ。
魔王様指名希望の冒険者サシャさんは、あれからミアさんとヴァンさんを交互に指名している。でもまだ魔王様召喚の供物ユニコーンは卸していない。
私も気になったので覗いてみよう。
「ミアくんにドタキャンされちゃったわ……」
「えっ! マジ⁉ 何で⁉ 超ガビーン! じゃん!」
何やらサシャさんはミアさんにドタキャンされたらしい。……あのミアさんが⁉ ありえない!
「私と一緒にダンジョンへ行くってお姉さんに話したら、ボス部屋直行の転移陣は人族に使わせちゃいけないって言われたんだって……」
「あーマジかー! 確かに裏ルートだもんなー。ダンジョンで店やってる魔族と獣人しか使えないって事かー!」
い、いつの間にかそんな決まりが……。でも考えれてみれば、守銭奴の魔王様なら「冒険者がボス部屋に直行出来たら儲からねぇだろ!」って言いそうだ。
「あと、獣人のミアくんと一緒に攻略すると他の冒険者が面倒な事を言い出すからダメだって。魔王様からも言われたらしくって……」
「あー、獣人は強いから楽に進めるもんなー。他の獣人もがめつい冒険者に誘われて巻き込まれるなぁ」
お人好しに付け込まれた獣人さんが人族に利用される不幸な未来が見える……。それはダメだ!
「そういう事。はぁあああ~~~ホント、超ガビーン! よ! ソロで21階層往復は二週間かかるのよ⁉ 準備期間とミスリル採掘日数も数えれば三週間。魔王様にお会いできるのはせいぜい月一ね……」
人族ってそんなに時間をかけて攻略してたんだ。パーティで行けばもっと速いんだろうけど、サシャさんはソロで攻略できるから結果的に一人の方が稼ぎがいいのかもしれない。
「ヴァンっていうボスの部屋なら直行できるしクソ雑魚だぜ! どう⁉ サシャさん行ってみない⁉」
「……あはははは! 宝箱ゴミしか無さそう!」
「あるぜ! 立派なご神木が!」
……言うと思った。
「輪切りと千切りどっちで切り刻もうかしら」
「……めっちゃしぼんだ。ごめんなさい! 許してください! 代表呼ぶ⁉」
「えっ⁉ 魔王様来てくれるの⁉」
「ユニコーン入れようよぉ~!」
「もう~懲りないね~! それはミアくんとヴァンで迷ってるんだって! 二人とも今月に賭けてるんでしょ⁉」
サシャさんなりに指名ナイトさんの事も考えてくれていたらしい。だから今まで入れなかったんだな。とっても魔王様に会いたいだろうに。
「ホント優しいなーサシャさんは。ミアは天然な所が好きなの?」
「いえ、むしろ会話が成立しなくて疲れる時もあるわ」
「ダンジョンの情報はもう全部聞いたでしょ?」
「そうねぇ」
「俺は女の子にドタキャンしないけどな~」
「……ミアくんは知らなかったんだからしょうがないし」
「俺は出来ない約束もしない」
「…………」
おお……ヴァンさんが本気で落としにかかってる!
最後はキリッ! とキメ顔で、不覚にもカッコイイと思ってしまった……。ヴァンさんなのに。
「俺、サシャの事もっと知りたい、〈涼風〉のサシャじゃなくて女の子のサシャが好きだ。……もっと一緒にいたい」
「…………」
サシャさんの顔がわずかに下を向いた。
「いきなりの呼び捨て出た! 勝ったね! ヴァンくんの方が上手だー! ミアちゃんに駆け引きは出来ないもん~!」
アーニャの中でもう勝負は決したようだ。
サシャさんのあれって頷いたってことなの⁉ 恥ずかしくて下を向いただけじゃなくて? どっち⁉
「アーニャちゃんの言う通りね。ミアちゃん、ダンジョンの情報を出し惜しみできれば勝てたんでしょうけど……それが出来ないからいいのよねぇ」
いつの間にか一緒に覗いていたルルさんもヴァンさん優勢と判断したらしい。全くその通りだ。ミアさんは駆け引きしない所が魅力なのだ。
今回はどちらが強いとかではなく、単純にサシャさんと相性がいいのがヴァンさんだったって事かな。ナイトはお客様との相性も大事だと魔王様が言っていた。
ヴァンさんから耳打ちされたお兄ちゃんが、スンとすまし顔でカツカツとこちらへ歩いて来る。
そしてバックヤードのカーテンから覗き見している私達の目を見てニヤリとこう言った。
「8卓ユニコーン入ったぞ!」
「えぇっ⁉」
サシャさんの席! そんなすぐ⁉
「やったねヴァンくん! コールいっくよー!」
「出番よ? 魔王様」
ルルさんが悪戯に笑う。
「店の売り上げのためだ、行くか!」
ああああ! ついにサシャさんがユニコーンをー! 魔王様召喚をー!
魔王様名刺の発注者、ほとんどが魔界の錬金術師な件。
2/20(日)はお休みします。
そういえば1/29は「まおホス!」一周年でした。(三週間も忘れてた……)
執筆を続けてこれたのは、いつもお読みいただき応援してくださる皆様のおかげです。
ありがとうございます! (*- -)(*_ _)ペコリ




