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おうたの謎

 メイリアさんが死地に赴くような切羽詰まった顔で使用したユニークスキル……「のびのびたいそう」なるものはこの場にいる全員をほっこりさせた。

 さっきまで私達を疑っていた人族までラウンツさんのように「あらあらうふふ……☆」といった表情を浮かべている。


 でも……こ……これは恥ずかしい! 私も子供の頃、自作の謎の歌をお兄ちゃんにからかわれたことがある。

 メイリアさんもう大人なのに……いやきっとスキルの全力を出す詠唱|(?)がこれなんだろうけど……。絶対不本意だろうけども!

 こんな……こんな大衆の面前でぇえええ! ああん! 可哀そうだよぅ!

 誰も何も言わないの⁉ これはスルーしたほうがいいパターン⁉ でもツッコまれた方が救済になる場合も……。うわぁあん! どっち⁉ どっちが正解なの⁉

 思わずお兄ちゃんとアーニャを見たけど、二人は地面に転がって使い物にならない。

 ……ここは私が!


 まずはジャブでメイリアさんの体調を気遣おう。笑っちゃダメ、笑っちゃダメ……。


「メ、メイリアさん……大丈夫ですか?」

「……身体は大丈夫……全く……大変残念な事に……1ミリも……ダメージが無い……」


 しかし、俯いて顔を真っ赤にぷるぷると恥辱を我慢しているメイリアさんを見た途端、昨日の私の姿がメイリアさんに重なる。

 私の中の悪魔が「今日はメイリアさんの番じゃない?」と甘く(ささや)いた。


「そ、そうですか……よかったです……ぶっ!」




 そして私はメイリアさんに物理的に締め上げられ、彼女は魔王様と消えてしまった。恐らく次の場所だろう。

 オルガの役人さんの指示で、人族は一斉にキキューの刈り取りを始めた。


「んもう~っ! メイリアちゃんってば無邪気だわぁっ☆」

「ダメージが、無い……?」


 きゃぴきゃぴと体をくねらせているラウンツさんとは対照的に、ルルさんは眉間に寄せた皺に手を当てながらキキューを見つめていた。

 そういえばルルさんも完全バージョンを見たのは初めてだからそっちの方に興味があるのかな?


「メイリアさんのユニークスキルってすごいですよね! 農家が知ったら拉致監禁しそうです」

「……考えてみればそもそも植物が成長するなんて時間操作だけでなく気候も関係しているはず……確かにいくつもの属性は複合していたし、だからこそ体に負担がかかるものだとばっかり……。でも天候操作魔法が存在するなら……いえ、それはあり得ない。……術式のブラックボックスの部分は何……?」


 ルルさんは一人ブツブツと魔術式考察の世界に迷い込んでしまっている……。


「ノーダメージであれだけの技……人としての範疇を超えている……歌の詠唱……もしかして精霊──!」


 ルルさんの口がピタ。と閉じた。


「精霊? ……精霊魔法ですか⁉ 噂に聞くあの! 精霊に愛された者にしか使用できないという⁉ 本当にあったんですか⁉ 精霊って目に見えるんですか⁉」


 この世にほとんど使い手がいないという伝説の精霊魔法の名前を連想し、思わず興奮してルルさんの腕にまとわりついた。

 するとルルさんは「しまった!」と言わんばかりに眉を下げ私を見る。まさしく「ガーン!」って顔だ。


「……? な、何かマズいことでもあるのでしょうか……」

「……いえ、万が一そうであったなら、メイリアちゃんの誘拐確率が上がるって事よ……」

「そっ! それはいけません! 私、絶対に黙ってます! 墓場まで持って行くってやつですね!」


 なんてことだ! だからユニークスキルはあんまり人に見せちゃいけないんだ……。


「アラッ⁉ アタシも聞いちゃったわぁ☆ オッケーよっ! 乙女の秘密ネッ☆」

「俺らも聞こえた……」

「私も聞いちゃったよー! 黙ってるって辛い!」


 そばにいたラウンツさんだけでなく、いつの間にか起き上がっていた泥だらけのお兄ちゃんとアーニャも聞いてしまったらしい。


「ごめんなさい……口が滑ったわ……魔術式の事になるとつい……」


 そう言ったルルさんとみんなで相談し、ディメンションに帰ってから本人に聞こうという事になった。




 その後は、転移でサクサクッと「のびのびたいそう」の巡回をしてきたメイリアさんと魔王様が戻り、私達も採集を手伝った。

 私達魔族は道具がなくとも風の生活魔法でしゅぱしゅぱっと草刈りできる。魔力の多い魔族とは違って、人族ならすぐに魔力切れでバテるだろう。

 アーニャは邪龍クロウも駆使しものすごい勢いで刈り取っていたので、農家の人族がアーニャをスカウトしたそうにウズウズしていた。

 ……さっきまで私達に食べられるとか言っていたのに現金だなぁ。


 そして魔王様が私達と人族を十か所程転移させ、太陽が真上に来た頃には採集もすべて完了した。人海戦術ってすごい。

 オルガの役人さんが人族へ日当を支払い、ホクホク顔の人族を魔王様が転移で送るみたいだ。

 魔王様が人族へ声をかける。


「元の場所に転移するからな!」

「あ、あの……!」


 ぎゅっと銀貨を握りしめた人族のおじさんが魔王様に話しかけた。最初に「取って食われる」と言っていた人族だ。


「あん?」

「その……疑って悪かった……」

「疑われるのは慣れてる、気にすんな! じゃぁ行くぞー」


 私からは首に手をかけた魔王様の後姿しか見えなかったけど、容易にお顔が想像できた。いつものあのニヤッとした笑顔だ、絶対。




ホスト時代に客から散々疑われた魔王様、前世ですでに慣れてます(;´∀`)

次回、姿絵本発売まで行けるかな?

2/15(火)、16(水)はお休みしますm(__)m

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