コード「まじプリ」
満天の星の下──。
闇夜に浮かぶ私の白い吐息は、まるでこれからアレイルに立ち込める暗雲を示唆しているかのようだ。……なんてね、くふふっ!
私達は今、アレイル都市から少し離れた平原にある木の上に待機している。前にお兄ちゃんが四天王最弱として華麗に散った場所だ。
「破壊の乙女戦」からちょうど一週間……今夜、ついに四天王戦が決着する!
「じゃぁこの辺りにオーガを配置するから、勇者が来たら俺様がバトルフィールドを展開する。あとは任せたぞ、ニーナ」
「はいっなのだっ☆」
ぴし! と敬礼し、敢えてもたもたと仮面を装着する。意味も無く「ふみゅ」などと鳴くことも忘れない。裏でもはみゅはみゅ動作に気を抜いてはいけないのだ!
「「……ブフォ!」」
「……ッ! ニーナちゃん、可愛いわ!」
「これがウワサのルルさんの傑作ネッ☆ 可愛いわぁっ!」
今までの私であれば恥ずかしさで逃げ出していたであろう。しかし! もう羞恥心などないのですよ!
「みゅみゅっ? ありがとなのだ☆」
両手のグーでほっぺをムニュッとし、礼を述べる。
……ふふ! このキャラ作りの精度の高さには自分でも怖いくらいだっ!
そしてマントを素早く脱ぎ捨てられるよう、装備の最終チェックを。
「ニーナ、頑張ってね! アシストは任せて! か、仮面、も、バッチリだね!」
「四天王最強羨ましいぜ! バッチリみ、魅せてくれ、よな!」
「……ニーナ……エタフォ楽しみにしてる……っ……」
アーニャ、お兄ちゃん、メイリアさん……。私、やるよ!
ふるふると期待に満ちた目でエールを送ってくれたみんなの顔を見渡しながら私は頷く。そして皆にサッと背を向け、勿体ぶってから首だけで振り返り、パチンとウィンク☆
「……メロディの! はみゅはみゅショータイム☆はっじまっるよぉ~♡」
腰を落とし枝を踏みしめる──
──ギシッ……!
まずは月めがけ、私は跳んだ!
「……行ったね。もう笑っていい⁉ もう笑っていい⁉」
「いいぞアーニャ。『裏作戦名:まじっく☆プリンセス』、成功だ! ぶはははは!!!!!」
「「あはははははははははは! ……ヒィーーーーーッ!」」
「……ついに待ちわびていた時が……」
「クッ! なぜ私は動いている風景を記録する魔道具を開発しなかったのかしら⁉ 過去の自分を悔やむばかりよ!」
「ウフッ♡ アタシ達の目に焼き付けまショッ☆」
身体強化で空高く跳んだ私は〈飛行〉で空中に留まった。
そしてすぐ眼下に多数の黒い点々が現れる。魔王様が転移させてくれたダンジョン・ディアブロの赤いオーガさん達だ。
お兄ちゃんが一生懸命考えた呪いの設定、「鬼がアレイルを埋め尽くす」の演出である。
今まで散々お兄ちゃんに聞かされた裏設定は、四天王最強で「陰形鬼」である私だけが召喚できるとか、本来は他の四鬼と力を合わせて召喚する儀式だから今回は不完全召喚だとか、色々あるけど省略する。「マニアウケが!」とか言ってたけど知らない。
要は、人族は早く私を倒さないといけないという事だ。
「「「うぉぉおおおーーーーー!!!!! 姉御ぉーーーーー!!!!!」」」
「姉御ぉーーーーー!!!!! おれたちの雄姿、見ていてください……ッ!!!!!」
「「「姉御! 姉御! 姉御!」」」
暗闇の中、地表に響き渡る「姉御コール」……。
そうだった! 前に〈紅霧〉の実験で、トロールさん達とオーガさん達を一思いに殺ってしまったらなぜか「姉御」と呼ばれ出したんだった……。
今日も元気にムッキムキである彼らが、私に向かって何度も拳を振り上げながら叫ぶその熱量。シャンコの時のナイトさんの比ではない。
ちなみに一人だけ饒舌に喋れるのがオーガさん達のリーダーだ。
「「「姉御! 姉御! 姉御!」」」
あ、あの……ちょっとお静かに……。
「「「姉御! 姉御! 姉御!」」」
……ああん! もうっ! やっぱりオーガさんって暑苦しいようっ!
私がオーガさん達の熱狂コールをどうしようか悩んでいると、やっと城壁から馬に乗ったアレイル兵が出て来た。
うまくあのカスを連れて来ていてくださいよ……頼みます!
祈るように魔力感知をする。
…………いない。やっぱり逃げてるね⁉ アレイルを救わないカスめっ!
アレイル兵を見つけたオーガさん達は、チラチラと振り返り私を見上げながら城壁の方へ突撃して行った。
……ああ、うん、見てます。ちゃんとあなたたちの雄姿を見てますからっ! むしろこんな茶番に付き合わせてごめんなさい!
再びカスの魔力を探そうとしたら、アーニャから念話で台詞の指示が入った。……えぇ……やだようっ!
『士気を上げろ! 魔王命令だ!』
はみゅっ⁉ 魔王様まで! ……くっ! そうだ、私は魔王様のご期待に応えるって決めたんだ!
……スゥーッと大きく息を吸う。
「……みぃんなぁーーーっ☆ メロディのためにあれいりゅを滅ぼすのだ! ぃいっけぇーーーーー♡!」
「「「……姉……御……ッ⁉ ……うぉぉおおおーーーーー!!!!!」」」
「きょうはむちゃくちゃかわいいぞーーー⁉」
「姉御のために! このいのち! つきるまで!!!!!」
私の呼びかけに足を止め、どうやら感動したらしいオーガさん達は今までの三倍のスピードで再び走り出した。
……あの、オーガさん達は死ぬ直前にコアに還ってダンジョンで復活するから、寿命まで死ぬ事は無いよ……。アレイルからしたらたまったものではない。
そして再び魔力感知に意識を集中させると、ゾワゾワと気持ち悪い魔力を見つけた。カスだ。集音魔法でカスの声を拾う。
「もぉ四天王は嫌やーーー! 魔王助けてーーー!」
……魔王様に助けを求めるカス。勇者として完全に不適合だ。でも今日も見事なカスっぷりで逆に安心したよ。
「ボス戦楽しみだな! 私達なら倒せる! 頑張ろう!」
「リュー! ウチの服離してや⁉ ウチ関係あらへん! 行きたないぃーーー!」
ハリのある爽やかな声はイケメン勇者(になれなかった)レクサスという人族だ。芋づる式にミルムさんも来ているらしい。
カスの移動速度は騎兵に近い。ガタガタと車輪の音が聞こえるから馬車にでも乗せられてるのかな? さっさと終わらせたいから早く来て!
地上ではすでにアレイル兵とオーガさんが接触し、交戦し始めていた。
命を賭して戦うアレイル兵とオーガさん達を眺めながら、カスが平原に到着するのを待つこと数分。
やっと来た。幌の無い荷馬車で運ばれている。
「月夜に浮かぶ双角──あれが四天王の首魁、か。行くぞ! その仮面、剥ぎ取るのは私だッ!」
立ち上がりながらキリッととっても勇者らしい台詞を言い、刺すように私を見つめるレクサスさん。
……なぜっ! 貴方が勇者ではなかったのですかぁーーーーー⁉
1/23(日)はお休みします(∩´ω`∩)




