魔王様のげきれい
呆然としたまま鏡の中の痛々しい私と見つめ合う。
なんて不本意な! くっ……しかし、これで私だとバレないハズだ!
「ニーナ、まだ時間あるからちょっとダンジョンで予行演習しよ! はみゅりながら戦おっ!」
「キメポーズしながら戦えないとマズいからな!」
アーニャとお兄ちゃんがガシッと私の肩に手を置いた。その握力から「逃がさないぞ」という意思を嫌でも感じる……。
「予行演習……なぜ私だけ……」
「へっぽこにぶっつけ本番が出来るとは思えない。魔王様のお顔に泥を塗る気か?」
お兄ちゃんの言葉に、腕を組んだアーニャがうんうんと頷く。
……確かに、必ずや魔王様のお役に立たなければ!
「ニーナ、魔王命令だ! へっぽこな負け方は許さない! アレイルのために強い勇者を演出しろ!」
くっ、魔王様まで!
でも……元々カス勇者は意外に強かった。そして卑怯だ。……近接戦に不安がよぎる。
「わかりました……」
三人がニヤリと口端を吊り上げた。
「あとラウンツ、分かってるな?」
「モチのロンよ魔王様っ! アタシは作戦の最終チェックをするわネッ☆」
えっ? ラウンツさんの作戦って何⁉ 私にも情報共有してぇ!
しかし魔王様はすぐさま私とお兄ちゃん、アーニャを連れ、ダンジョンへ転移してしまった。
「ガァァァアアアアアアアア‼ よくぞ来たな人間よ! 我を倒せばこの世界の半分をやろう! ……あっ! 魔王様……」
火竜さんがいる。ってことは50階層だ。そういえば前にエタフォを浴びせてしまった事を謝らねば。
「俺を倒せばこの世界全てをやるぞ?」
「ヒッ! これは人族用の演出で冗談ですッ!」
「俺も冗談、だ」
ホッとした火竜さんが私の顔を見つけた途端、その怯えた双眸はさらに恐怖の色を濃くした。
「ま……まさか今日はニーナさんの戦闘訓練で……」
「そうだが、対人戦だからお前の出番はない。ちょっと場所だけ借りるぞー」
「……‼ はいっ! では私は邪魔にならないよう散歩でも!」
……私のエタフォがよっぽど嫌らしい。火竜さんは一瞬で飛び去って行った。そして一抹の不安がよぎる……。
「あの、魔王様……。火竜さんに一発で私だってバレたんですけどっ⁉ この変装は本当に大丈夫なんですかっ⁉」
「……元のニーナを知っているとはいえ、確かにな」
「へっぽこさが滲み出ていたのではないでしょうか!」
「でもニーナは闇との共鳴が難しいみたいだよ!」
お兄ちゃんとアーニャのダメ出しが入る。
「キャラのブレか……よし! 練習相手はミアにする! ちょっと待ってろ」
そう言って魔王様はシュンッと転移してしまった。……なぜミアさん?
少しして魔王様がミアさんと戻って来たと思ったら、ニャンダフルのリリーさんも連れて来ていた。なぜ?
「ニーナ、戦うニャ! ……あれ? ニーナどこニャ?」
キョロキョロしているミアさんには変装がバレていないようだけど……もしかして天然のミアさんにしか効果が無いのでは?
「リリー休憩中だったのにぃ……プゥッ!」
リリーさんはうさ耳をピンと立て、プリプリ怒っているようだがその声色はいつも通り可愛い。
そして両手をグーにしながらさりげなく二の腕で胸を寄せてる……。養殖天然、恐るべし。
「魔王様、なぜリリーさんまで?」
「アーニャ、ニーナのキャラは何だ?」
無視されたっ!
「はみゅはみゅキャラだよ!」
「うむ、そうだ。しかし! ニーナは恥ずかしがっている! そこを変えなければいくら練習してもへっぽこニーナだとバレる!」
恥ずかしいものは恥ずかしいんだようっ!
「私とレイスターがいくら褒めてもダメだったよ!」
そうだろうな。と呟いた魔王様がジロリと私を見る。
「ニーナ、お前が魔王城に就職できたのは俺様の七光りだって、裏で言われているよな?」
魔王様、なぜそれを⁉
「し、しかし私は公正に試験をパスしたと、魔王様は仰っていましたよね⁉」
「そうだ。だがお前の事をよく知らない奴らはそう思わなかった。悔しくないのか?」
「くっ……でも、だからこそ私は魔王城の一員として恥じぬよう、日々たゆまぬ努力を!」
「努力など誰も見ていない! 結果を出せ!」
「はみゅっ⁉」
魔王様がギン! と私を睨み、ビシ! と指差した。
なぜ……今そんな話を……。
「……ニーナ、俺はお前に期待している。いつも言っていたよな、魔王城で一番俺様への忠誠心が高いのは……誰だ?」
魔王様は懐かしむように眉を下げ、優しく問うた。
「私ですっ!」
「そうだ! なら俺様のために、はみゅはみゅキャラを徹底しろ! 裏でも気を抜くな! 何のために人界へ来た⁉ 思い出せ! 人界征服のカギは今! ニーナが握っている! お前なら出来る! お前はへっぽこなんかじゃない!」
……ま、魔王様が私に未だかつてないほど期待してくださっている……⁉ 初めてへっぽこじゃないって……!
「必ずや! はみゅはみゅキャラをやり遂げます! 魔王様に勝利を捧げますっ!」
「うむ! じゃあもう恥ずかしくないな?」
「はいっ! 魔王様のご期待に応えられる事に何の羞恥心がありましょう⁉ むしろ誉れですっ!」
「よし! ミアと戦え! 今からはみゅれ!」
「はいっなのだ☆」
首を45度傾け、おでこに持ってきた手でぴし、と敬礼する。アーニャに教わった、はみゅカッコいいポーズだ。
どう? と問うようにアーニャとお兄ちゃんを見ると、二人は私と魔王様の絆に感動したようで、両手で顔を覆いプルプル震え泣いていた。
ふふふ……よぅし、頑張るぞ! もう、はみゅはみゅ語以外は封印だ!
「ミア! ミアはカッコよく戦え! この勝負はカッコいい方が勝ちだ!」
「ニャ、ニャんだってぇ⁉ これは負けられニャい戦いになるニャ!」
「みゅっふっふ……ミアしゃん、今までのわらわと同じと思わないでほしいのだっ☆ でゎでゎっ、行っくよぉ~♡」
「望むところニャーーー!」
私とミアさんは、跳んだ。互いにカッコいいポーズを見せつけ合うように。
「……リリー帰っていいプウッ?」
また笑い者にされてるへっぽこw
有難いことに姫ロリドリルツインテニーナの挿絵のご要望が多かったため検討中(`・ω・´)
1/19(水)はお休みします。




