もうひとつの着せ替え人形【挿絵有】
2022/1/25 ついに挿絵完成! 素敵なイラスト著作:八十八様 Twitter @88_Hattoya 転載・無断使用・自作発言等禁止。
……あああああ! 四天王戦! すっかり忘れてたようっ!
「魔王様、ニーナちゃんの変装準備があるから早くムーバーイーツへ行きましょう! みんなのお昼はそこにあるホットサンドよ!」
ルルさんがキリリと表情を引き締め、びし! と、今朝作っておいたホットサンド(もうホットじゃない)を指差した。
「お、準備いいなルル。じゃあひと休みして──」
「先にムーバーイーツよ! 時間が無いわ!」
え? 準備って、あのピンクのフリフリに着替えるだけだよね?
ルルさんがニーッコリ魔王様へ振り返ると、魔王様は諦めたようにため息をついた。さっさとムーバーイーツを終わらせることにするらしい。
そして私は諦めていつも通り倉庫としての役目を全うし、片手を上げるおまじないをしながら連続転移の酔いと戦った。
ディメンションへ戻って来たらダイニングテーブルの椅子にぐでんと座る。
頭がぐわんぐわんって気持ち悪い……やっと休憩できる……。
テーブル上のホットじゃないサンドに手を伸ばそうとしたら、誰かがサッとバスケットごと取り上げた。
「ニーナちゃん、先に髪を染めるわよ! その後ゆっくり食べられるわ!」
顔をあげると、爛々とした瞳のルルさんがバスケットを抱きかかえていた。
──愚かな私はフラフラと人質を追いかけたがために、ルルさんの部屋に拘束される事となったのであった。
ルルさんの部屋に入るとまず、浴室でメイリアさん特製の染毛剤で髪を染める事に。
ルルさんが茶色のビンから取り出したナニカを私の髪に付着させると、みるみるうちに色が変わった!
「はみゅっ⁉ 髪もピンクですかぁ⁉」
「色だけじゃないわ、髪型もアリアちゃんみたいにするわよ!」
お姫様? ……あ、あの「ドリルツインテ」とかいうクルクルにっ⁉ 私が⁉ しかもミュリエルさんみたいなフリフリを着て⁉ やだようっ!
でも……くっ! 変装のためだ、仕方ない!
髪を染め終わり浴室から出ると、いつの間にかメイリアさんが来ていた。
彼女はすでに、濡れた髪を乾かすための送風魔法をその手に準備している……。
「あ、あの……そういえばなぜルルさんは気合いが入っているのでしょう……? メイリアさんまで──」
「ニーナちゃんを好きなように飾り立てる事が出来るのが今日だけだからよ!」
「……ニーナ、世の中にはこんな言葉がある……。………………羞恥プレイ」
二人は私を着せ替え人形にして辱めを受けさせる気だッ‼ イヤァアアアーーーーー!!!!!
そういうのはミアさんの聖像でやってようっ!
しかし私の心の叫びも虚しく、ルルさんの化粧台に座らされた私はあれよあれよという間に髪をクルンクルン巻かれ始めた。あのルルさんの熱い棒の魔道具で。
「ル、ルルさん……髪が終わったらご飯食べていいですか?」
「あ、ごめんなさい。今、食べて大丈夫よ」
ルルさんの許可が下りると、メイリアさんがホットじゃないサンドを魔法で温めてくれ、ミルクとお砂糖たっぷりの紅茶まで出してくれた。
ルンルンで私の髪を巻くルルさんと、珍しく微笑みながら給仕をしてくれたメイリアさん。至れり尽くせりで二人がまるでメイドさんのようである。
……いや! 私で遊んでご機嫌なだけだッ! 騙されないぞ⁉
……しかし私に逃げ場など無い。
ドリルツインテが完成すると着替えを促され、リボンとフリフリ満載のピンクの服を亜空間の封印領域から引っ張り出した。
……これを、着るのかぁ。
膝上ワンピースを被り白のニーハイを履き、無駄に厚底の靴を履いた途端──
「へぶっ!」
ズデン! とコケた! 横に!
足首があらぬ方向へ! ぐにっと!
「何ですかこの靴⁉ まともに歩けないんですけどっ⁉ やっぱりいつものブーツで──」
「ダメよっ‼」
ひぃ!
「オシャレは気合いよ!」
「……可愛いは正義……」
二人の手が私の肩に食い込む……。この装備を外したら絶対二人に怒られる!
それにしてもアーニャは同じ厚底靴でどうやって戦闘を……。まぁ私は魔法メインだからいっか。
再び化粧台に座らされると、ルルさんがヘッドドレスを付けてくれた。
「これで完成ですね! 確かに準備に時間がかかりました。あぁ疲れたぁ」
「まだまだこれからよっ!」
ひぃ!
そしてそこから一時間、たっぷりと時間をかけて私はルルさんにお化粧をされた。
……何がどう変わったのかよくわからないけど、はみゅエルさんのようなメイクじゃない事にとりあえず安堵する。ルルさんの美的センスは絶対にそれを許さないもんね。
「……ふぅ、完成よ。やっぱりアリアちゃんより可愛いわ!」
「今度こそ完成ですね!」
「まだよっ!」
ひぃ! まだ⁉ 今「完成」って!
するとメイリアさんがボソッと呟いた。
「……ルルさん……ついに例のブツを……?」
「ええ……思ったよりニーナちゃんの出番が遅かったから……製作日数が17日もあったわ……」
「……17日……ルルさんが17日もかけて……」
な、何々……? 二人が深刻な顔でお話ししてる……。嫌な汗が背中を伝った。
「……さぁ、ニーナちゃん、これで今度こそ完成よ……」
ルルさんが亜空間からそっと取り出し私へ渡したのは……何やらピンクでフリフリキラキラしていている。手のひらサイズで、左右には穴が。
これは……あああああっ⁉ 仮面んんんっ‼ 二人にお願いしてたの忘れてた!
でもこれ仮面なの⁉ 確かにハーフマスクっぽいけど原型をとどめてなくないっ⁉
「あ……あの、これは……仮面……ですか……?」
一縷の望みをかけて問う。
「ご依頼の品よ、お姫様」
依頼したけど依頼してないっ!
「なっ! なんでリボンとか羽根とかラインストーンが付いてるんですかっ⁉ このちっちゃいくまさんはなんですかっ⁉ ハッ! うささんまでっ⁉ 可愛い! なにで出来てるんですか⁉ ……じゃ、なくってっ! なぜ仮面をデコってるんですかぁーーーーー⁉」
「可愛いからよ!」
「……飾りボトルからヒントを得たってルルさんが……」
……くっ! ダメだこの二人! ラインストーンの応用でくまさんうささんのデコ素材まで作った!
デコ素材のひとつひとつは可愛いんだけど……可愛いんだけど……私が身に着けるのは恥ずかしいんだようううっ‼
仮面を乗せた私の両手は震え、くまさんうささんが残像により楽しそうに動いている。まるで私をあざ笑っているかのように。
「震えるほど喜んでもらえて嬉しいわ! ではお披露目よ!」
「はみゅっ⁉ むむむっ! 無理ですっ!」
ルルさんとメイリアさんに背中を押され、私はダイニングへ強制送還された!
「みんな! お姫様が出来たわよ!」
ルルさんがダイニングへのドアを開けると、なぜかディメンションメンバー全員が勢揃いしていた。
さっきまでいなかったよねっ⁉ ……ハッ! 二人が念話で呼んだね⁉
「ぶはははは! ニーナはピンクゴスか! 似合ってるぞ、うん! 頭の弱そうな感じがぽくていいな! ……ぶはっ!」
くっ……魔王様めっ! 頭が弱いとは失礼な! ぽいってどういう意味っ⁉
「ニーナ可愛い! ルルさんメイリアちゃん、グッジョブだよ!」
「キャッ! 本当にお姫様みたいだわぁっ☆」
一応、魔王様以外のみんなは可愛いと褒めてくれた。
「こ、これは変装ですからね! 人界征服のために今日だけ恥辱を我慢しますっ!」
「おう、そうだ! 人界征服のために頑張れ!」
そう言いながら魔王様が亜空間から全身鏡を出した。
あ、そういえば全身像を見てなかったな。どれどれ……。
鏡に写っているのは首から上がアリアお姫様、下はミュリエルさん。
悲しきかな、とってもとっても見事な──
「フリフリピンクドリルツインテ電波ちゃんだな! ぶははははは!」
──であった。
ルルとメイリアが企てていた完全犯罪はこれです。
1/16(日)、1/17(月)はお休みします。4月の引っ越しまでバタバタしてますm(__)m
前話「死亡フラグと生存フラグ」 2022/1/13 19:30 加筆修正しました。
147話「2回目の決戦日前哨戦! 後編」 詠唱についての説明を少し修正しました。
184話「ディオルフィーネへの接触」 設定の矛盾があったので修正しました。→魔王様の魔眼は透視可能。




