死亡フラグと生存フラグ
「キャッ! ローズさんじゃなぁいっ☆ アタシは看板を設置しに来たダケよぉ!」
「アラ、ここの看板も作ったの? あたくしの看板も作ってほしいわ」
「それいいわネッ☆」
「……待って⁉ アレ……バレットじゃないっ⁉」
ローズさんがキッ! と看板のバレットさんを睨んだ! この流れはもしかして……。
「バレットさんを知ってるのかしらぁ?」
「知ってるも何も! あたくしに史上最大の屈辱を味わわせたオトコよっ!」
ぎゃぴぃっ! やっぱり!!!!!
バレットさん、おネエにまで手を出したのぉ……? 確かにローズさんは美人だけどっ!
……あ、いや、ラウンツさんの知り合いってだけでおネエと決めつけるのは失礼だ。まだローズさんがおネエと決まったワケじゃない!
「ンフッ! 何があったのかしらっ?」
「あたくしには付いてると知りながらベッドへ誘っておいて、土壇場で逃げやがったのよ! 会ったらブッ殺すッ!」
はいっ! おネエでした!
「アアンッ! それはバレットさんがヒドすぎるわぁっ!」
「でショ⁉ ただの興味本位なら最初から手ぇ出すんじゃないっての! ンもうっ!」
「……ぶはははは! バレットはマジで食いしん坊だなー!」
魔王様が爆笑しながらローズさんへ話しかけ、ディメンションのエグゼクティブエンペラーであるという旨の自己紹介をした。
「ローズなら女にしか見えないから一人でうちの店来ていいぞ! バレットも指名出来るからな!」
「カマぱらへ行く時にでも寄ってネッ☆」
「モチのロンで行くわ! またねっ♡ アッ、パウリーちゃん達もっ!」
ローズさんは私達へ投げキッスを降り注ぎ、去って行った。
……パウリーさん達も?
震えているパウリーさんへ恐る恐る話しかけた。
「あ、あの……パウリーさん、ローズさんももしかして……」
「ラウンツさんがご紹介してくださいまして、はは……。今では週二でご来店くださるお得意様です、はは……」
あああああ! ラウンツさんのせいで仕立て屋パウリーがおネエの集会所になってるぅ!
こ、これは看板の他にも浄化が必要だっ!
誰か作戦を……。ウチのブレーンは……お休みだっ! なら救世主様──
ルルさんの姿を探すと、ぶるぶる震えているアーニャに目が留まった。
アーニャもおネエ増殖に死の恐怖を感じてる……。
野生のラヴィをなだめるようにそっと話しかけた。
「アーニャ……」
「ニーナ! どうしよう! 仕立て屋パウリーがおネエの聖地になっちゃう! 悪魔祓いが必要だよ!」
「アタシ達を祓うのは大変よぉ☆」
ラウンツさんは私達と戦う気だ! どうしよう⁉
……ハッ⁉ そうだ、アーニャなら悪魔祓いの方法を思いつくかも!
「アーニャ! ラウンツさんに勝てる悪魔祓いを考えて! もっとここをミア教の聖地にしよう!」
「あっ! ミアちゃんで上塗りするんだね⁉ ちょっとパウリーさーん!」
アーニャがパウリーさん達を呼ぶと、みんな何事かと集まって来た。ミアさんリサさんまで。
「パウリーさん! ここをミア教の聖地にするんでしょ⁉ ミアちゃんの聖像とか必要じゃない⁉」
「ニャ⁉ 僕が聖像に? やったニャー! またアイドルに一歩近づけるニャ!」
聖像! なるほど!
アーニャの呼びかけに、先ほどまで死にかけのセミのようにじっとしていた仕立て屋パウリーの人達の目が再び輝きだした! 聖属性にも似たそれはちょっと気持ち悪い!
「是非っ! 是非お願いします!」
「オッケーだよ! じゃあニーナ作れる?」
「えっ⁉ むむ、無理だようっ! メイリアさんみたいに器用じゃないもん……」
「えー……あっ! じゃあ魔王様が作って! ここがおネエの聖地になったのは魔王様の考えたベビードールのせいなんだからねっ!」
「そうネッ☆」
アーニャが魔王様の腕をぐいぐいと引っ張り、「悪魔祓いだよ魔王様!」と連呼し続ける。
祓われそうになっているラウンツさんは、「魔王様っ! ついでにガチムチの聖像もお願いっ☆」と体をくねらせおねだりを……。ラウンツさんは身体だけでなくメンタルも最強だ。
「魔王様っ! お願いします! このままでは私の店が聖地から再び地獄に! 私達に明日を生きる希望を……ッ‼」
「「「お願いしますッ‼」」」
パウリーさん達全従業員が魔王様にひれ伏し、今度は命乞いの涙をポタポタと石畳に落とした。
「あん? やだよめんどくせぇ。メイリアにでも作ってもらえ」
「「「そ、そんな……っ!」」」
再び絶望したパウリーさん達を見て、ラウンツさんがキリッとした顔で魔王様へ提言した。
「魔王様っ! アタシからもお願いよぉ! 前にパウリーちゃん達はアタシの貞操を守ってくれた……。今度はアタシが力になる番よっ☆」
「「「ラウンツさん……!」」」
なぜだかよくわからないけど、加害者が被害者を救済してる。
「黒タイツの恩か……。わーったよ!」
黒タイツの恩? ……ハッ⁉ もしかして、黒タイツで世界滅亡を防いだのはパウリーさん達なのっ⁉ 影の勇者がここにいた!
そしてため息をついた魔王様がミアさんに向かって右手をかざすと、ミアさんの隣にシュルシュルッと本人そっくりの石膏像のようなものが出来た。
……えええっ⁉ 魔王様ぁ! なぜ裸の像にしたのっ⁉ しかも肌色ぉ!
「「「う……うぉおおおおおーーーーー!!!!!」」」
「ニャッ⁉ 裸ニャーーー! やめてニャー!」
ミアさん涙目になってるようっ! 可哀そうだようっ!
ミアさんは聖像に抱き着き、胸などの局部が見えないよう必死だ。
「……ミア、これがアイドルの試練だ!」
「ど、どういうことニャ⁉」
多分試練でも何でもないっ!
「アンナ達が勝手に姿絵名刺を作ったろ? そしてそのうち名刺だけじゃ物足りなくなる……」
「つ、つまり……どういうことニャ……?」
「いつかはミアの人形を作る事を思いつく。そして人形といったら着せ替えるだろ? さらには等身大で作りたくなるだろ? つまり! アイドルの裸のフィギュアが作られるのは至極真っ当な自然の摂理だ!」
うん、やっぱり真っ当な理由では無かった。
「ニャ……ニャんだってぇーーー⁉ でも……アイドルの試練なら僕は乗り越えてみせるニャ!」
ミアさんは「アイドルの試練」という魔法の言葉により、キラキラの笑顔とともにガッツポーズを。
そしてその後ろでパウリーさん達も笑顔でコッソリ拳を握り締めていた。
「よし! ミアはもう立派なアイドルだ! 頑張れよ、ははははは!」
「ニャー!」
パウリーさん達はすでにどの服を着せようかコソコソと相談し始めている。
……聖像に紳士服が着せられることは永遠に無い。そう確信した。
「ミアちゃんの毛並みまで再現されてるね! さっすが魔王様!」
「尻尾が折れニャいか心配ニャー……」
「俺様の土魔法で作ったフィギュアだぞ? 壊れるワケねぇだろ」
アーニャとミアさんが改めて聖像を鑑賞し始めた。魔王様の言う「ふぃぎゅあ」とは肌色の裸の像の事を言うのかな?
ミアさんの聖像は局部以外リアルだ。つまり、ちゃんとおっぱいがある。……魔王様、見たことあるの⁉
魔王様に言いくるめられたミアさんは私が守らねば!
「ま、魔王様ぁ……。ミアさんは男性の服しか着ないので、その……胸は必要ないのでは? というか見たことあるんですか?」
ジト……と魔王様に提言する。
しかし魔王様が私の話をまともに聞いた事など無い。今回もニヤリと笑い、私を鼻で笑った。
「フン! 想像に決まってるだろ! そして胸には男の夢が詰まってるから絶対に無くせない!」
「……はい、諦めます」
「ハイド様、見損なったコン」
リサさんがボソッとジト目で抗議を! もっと言ってください!
「あ、やべ」
魔王様、小声で「やべ」って言った。
「……コホン。リサ、お前の気持ちは分かる。裸を売りにしたくないよな。だが! これはエロではない! まさに芸術だ!」
「……芸術……コン?」
「そうだ! どうだ? 俺様のフィギュアは! 芸術的だろ⁉ なんならリサが色を塗ってやれよ、もっと芸術作品として昇華させろ!」
「……はいっコン!」
あああ……リサさんまで言いくるめられた。魔王様の極悪人めっ!
「パウリー、フィギュアの出所を聞かれたら俺様の所有物とでも言え。泥棒対策だ」
「はいっ!」
魔王様の私物を盗む人族は自殺志願者のみだ。最高の防犯機能……。
そして魔王様に返事をしたパウリーさんは、早くミアさんの聖像に服を着せたくてウズウズしている。
すでに従業員さんが聖像を聖堂へ運び始めてるし……。
その空気を感じ取った魔王様は、私達をエルドラドとディメンションへ転移させてくれるようだ。
去り際にラウンツさんがポツリと呟いた。
「パウリーちゃん……この貸しは新作のランジェリーで手を打つわっ☆」
「……は、はい……」
ラウンツさん、ちゃっかり貸しにしてる……。私は聞かなかったことにした。
さて、一休み。と、ディメンションの自室に戻ろうとしたら魔王様に首根っこを掴まれた。
「おいニーナ、今日はお前の番だ。準備はいいな?」
「……? あっ! ムーバーイーツですね!」
「違ぇ! それもだけど、夜は四天王戦だ!」
……あああああ! すっかり忘れてたようっ!
ちなみに魔界の図書館の本は国の所有物になっています=魔王様の物=返却しなかったら死刑w なので図書館が成立しています。(いつかどっかに加筆しよう……)
家の契約で多忙のため1/13(木)、14(金)はお休みしますm(__)m




