仕立て屋パウリー復活
今日は三週目七日、女神の休息日。すなわち、仕立て屋パウリーの看板設置と四天王戦の日だ。
アーニャからスパルタ演技指導を受け、血の涙を流しながらもついに私は……はみゅはみゅ語をマスターした!
カッコイイポーズ講座はお兄ちゃんという先生まで増え……これも半強制的にマスター!
これほど辛い修業は未だかつてなかった……。
でもっ! これで私はエタフォを使いこなせるはずっ!
勢い余りカス勇者を殺めてしまってもそれは事故なのだ、うん。
今朝は早くから工事のために、リサさんや大工のドワーフさん達と全員で仕立て屋パウリーへやって来た。
メイリアさんは、魔王様が看板設置を理由に無理矢理キキュー育成をお休みさせたらしい。「たまには一日ゆっくり休め」とディメンションでお留守番だ。……魔王様の目を盗んで魔界に行ってないといいな。
「看板ニャ! 早く見たいニャー!」
……ミアさんはいつの間にかリサさんに付いて来ていた。一番楽しみにしているのはミアさんだからいいと思う。
そして魔王様とミアさんが開店前のドアをドンドンと叩く。
「パウリーーー! 看板工事だ! 出てきやがれ!」
「ニャーーー!」
魔王様……パウリーさんに念話すればいいのでは。これではただの取り立てと変わらない。
しかし入り口ドアがバァアーーーンッ! と開くと、そこにはツヤッツヤ笑顔で待ち構えていた仕立て屋パウリーの面々がいた。
「魔王様ッ! 今日という日を! 我々一同心よりお待ちしておりました!」
「早速看板を出すぞ! ここでいいか⁉」
「ふぉおおおーーー! ミアさんっ! 本日も見目麗しく……ッ!」
「パウリー、マルロ、この子がリサニャ!」
ミアさんがパウリーさん達にリサさんを紹介してる。
……あ、そっか。リサさんは直接パウリーさん達と会ってないからはじめましてなんだ。
「よ、よろしくコン……」
「「「……き、狐っ娘……だと……ッ⁉」」」
「リサ、早く看板を見たいニャ!」
「うん、ハイド様が持ってるコン!」
「「「……コン……コン……狐っ娘ン!」」」
……うわぁ……仕立て屋パウリーの人達が輪を作ってこそこそ「コンコン」言ってる。両手を狐の形にして。
円陣を組みながらチラチラとリサさんミアさんを見ては震える狂信者達……。
二人専用の女性用装備が贈呈という名で押しつけられる未来はそう遠くないかもしれない。
そして大通りに面した店の入り口前で、魔王様が亜空間から看板を取り出すと歓声が上がった!
魔王様の背丈よりも高い看板は三枚もあり、それを魔王様が店前に立て掛け繋げると、その絵はひと続きになった。
十人全員が横並びで勢ぞろいしてる! 仕立て屋パウリーの服を着たナイトさん達はいつもの騎士服とまた違った魅力が!
「「「わぁーーー!」」」
「デケェ! 実物大じゃんか!」
「みんなカッコイイね! 服もオシャレだね!」
「キャッ! 誰にしようか迷っちゃうわぁっ☆」
「ニャーーー! 僕がいるニャ! 真ん中ニャ!」
等身大で描かれたミアさんの横にミアさんが並び、自分と絵を交互に指差しながら興奮してる。よかったね。
描かれたミアさんの服は、やたらフリフリの多い白いブラウスにベストを重ねている。
……ん? ……これ、パンツスタイルだけど女物じゃない? 一瞬ベストだと思ったけど、これビスチェだよね⁉ 腰をキュッと締め付けてるよね⁉ 絶対パウリーさん達がミアさんに女物を着せたくてやったよねぇえー⁉
……まぁいいや。二度全滅したパウリーさん達にはきっとミア教の聖画が必要なのだ。
そしてリサさん……ミアさんとルフランさんを真ん中に描いてる……。どこから情報を仕入れたのか知らないけど、ミア教徒への配慮だな。
描かれたナイトさんの並びはやはりナンバー順が影響しているようで、端に行くにつれナンバーが落ちていく。
バレットさんは一番右端におり、横向きでハットを手で押さえながらこちらを見ているポーズ。……看板でも隠れたい気持ちが滲み出ている。
文字は「仕立て屋パウリー」のみ。二つ名は無かった、よかった。
「よーし! モリス、やっちまえ!」
「工事ならお任せだよ!」
モリスさんを筆頭に、大工のひげもじゃドワーフさん達が〈飛行〉で建物の二階に飛び付く。
看板を持った魔王様も飛び上がると、トンテンカンテンと設置工事が始まった。
仕立て屋パウリーのお店は木造五階建てで縦長の建物、その一階と二階だ。二階の窓が潰れてしまうがそこに設置するらしい。
パウリーさん達からしたら、青空よりも看板の方が大事なのだろう、きっと。いや、絶対。
工事が始まると、街の人達は皆、驚いたりイケメンに震えていた。
「……ッキャーーーーー‼」
「えっ⁉ また街に大きな姿絵が!」
「スゲェ!」
「魔王の店にもあったやつか⁉ 盗まれないのか⁉」
ふふふ……人族よ恐れ慄くがよい!
ちなみに窃盗は、防水・防塵機能を備えたルル様の結界付きだから大丈夫です!
人族がぞろぞろと集まって来たと思ったら、もう設置は終わったらしい。ドワーフさんのおかげであっという間だ。
最後にルルさんが結界の魔道具を取り付け、工事は完了。
うん! やっぱりリサさんのおっきな看板は素晴らしい! 絵画でもこんなに大きいものは魔王城でしか見た事が無い!
……これ、たったの百万ディルなんだよね? 最初は看板で百万は高いと思ったけど、もしかして絵画としての価値はものすごいんじゃ……。
「おお……おお……魔王様ッ! 私の店が聖地に! ありがとうございます!」
「あー、うん。よかったな」
「魔王様! 店長! ありがとうございます! 一生働かせてくださいっ!」
「今日から住み込みで働きたいですっ!」
いつの間にかミア教の聖地となった仕立て屋パウリー。
従業員さんは皆涙を流し、その顔は生きる希望に満ち溢れていた。
「……アラ? ラウンツちゃん? 今日もお洋服のオーダーかしら?」
聞いたことのない声の主へ振り返るとそこには、水色の巻き髪が豪華な長身の女性が立っていた。流し目と口元のホクロが色っぽい。
「キャッ! ローズさんじゃなぁいっ☆」
背後から「ヒッ!」という声が聞こえ、振り返った先には怯えたパウリーさん達が。
……彼らに戦慄が走ってる!
という事はもしかして……新しいおネエの登場ぉおおお⁉
ラウンツさんどんだけおネエに顔が広いのっ⁉
1/10(月)、11(火)はお休みします_(。。)_




