新属性男子
ディメンションへ戻るとすでに営業を開始していた。
なのでいつも通りバックヤードのカーテンをくぐると、魔王様とアーニャがパッと私へ振り返った。
「ニーナおかえり! ノエルくんのスカウト成功した⁉」
「……えっ⁉ も、もしかして、ノエルさんをスカウトするミッションが発生していたの⁉」
「当たり前だよ!」
すると魔王様が片手でムニュ、とアーニャの両ほっぺを掴んだ。いつものアヒル口がひよこ口になってる。
「違ぇよアーニャ……。鉄板の『へっぽこで人族の警戒を解く作戦』だ!」
……またへっぽこ扱いされてるっ!
「なるほどね! ノエルくんは確実に仕留めたいもんね!」
「ダメ親父のおかげでやる気と根性はありそうだな~。ニーナ、ノエルはどうだった? まさか何も話してないとかねぇよな?」
「えっ⁉ ノ、ノエルさんですか? むしろいっぱいお話ししましたよぅ……」
「お? コミュ障ニーナにいきなり喋らせるなんてアイツやるな!」
「ニーナ! どんなお話ししたの⁉ ノエルくんってどうやって口説いてくるの⁉」
「ちょっとアーニャ! 口説かれてなんてないよぅ! えっと……お話は内緒です」
親についての話をしたら、絶対私の事まで話しちゃう!
すると魔王様とアーニャの片眉が上がり、ニヤニヤと楽しそうな二人からの尋問が始まった……やめてぇ!
「何を話したんだよー!」
「ノエルくんの好きなタイプ聞いた⁉ 私のこと可愛いとか言ってた⁉」
「あ、あの! あの! とにかく恥ずかしいのでダメですっ! でも色恋事とかそういう話は! 断じてしてないのでっ!」
ちなみにアーニャの話は一切出ていない。
「え~ニーナ怪しい~! もうノエルくんに唾つけたの~?」
「ちょ、ちがっ!」
「ニーナがここまで隠したがるって事は秘密でも暴露させたか? アイツすげぇなー!」
アーニャがぐりぐりと人差し指で私のほっぺを掘削し、魔王様は自身の顎を触りながらニヤニヤしている。
「ノエルさんはナイトとして働くことに前向きです! だからもうこの話は終わりにしてぇ!」
私が涙目で懇願すると二人はやっとからかうのをやめてくれた。
そういえばノエルさんは結構突っ込んだ質問をしてきたなぁ……。普通の人ならためらう事でも聞いちゃうっていうか。
確かにナイトの素質はある……? のかも……?
「ふ~ん、ナイトかぁ……」
宙を見たまま呟いた魔王様は何か思う所があるようだ。
あれ? 魔王様、ノエルさんをナイトにするつもりじゃないの?
「ニーナ! もっと儚い系男子のこと知りたいよ!」
アーニャが私の腕にまとわりついてきた。
「えぇ……。ノ、ノエルさんは儚い系っていえばそうなんだけど……」
「……そうなんだけど?」
ずずいっとアーニャの顔が近づいてくる。楽しそうだ。
「……突然笑ったかと思えば死にたいって言ったり、なんか不安と心配でしょうがないよぅ!」
「あっ! 病み系男子だね!」
闇系男子? アーニャが好きそうだ。
「おっ! 確かにアイツは病んでるっぽいな!」
魔王様までノリノリに!
なるほど、病気の方の病みですね。……確かにノエルさんは病的な何かを感じる。
アーニャにノエルさんが病んでいる原因をしつこく聞かれたので、仕方なくノエルさんが両親について語っていた事を少しだけ説明した。
「ふ~ん、なるほどね! ノエルくんはママに自分を重ねてるんだね!」
「俺はゴンゾの影響が強いと思うけどな」
「あの弱っちいおじちゃんが~?」
アーニャと魔王様はノエルさんに興味津々だ。
「休憩~!」
ダルそうな声が聞こえてきたと思ったら、ネフィスさんが紙巻タバコを吸いにキッチンへ来た。最近街で流行り始めた高級品らしい、さすが売れっ子。
タバコを咥えつつシンクに浅く腰掛け、邪魔な長い黒髪をかき上げながら空いている方の手でパチンと指を鳴らし、魔法で火を点ける。という動作がサマになっている。
……こういう無駄にカッコイイ仕草がヒモになれるコツなのだろうか……。だとしたら魔王様にも適性がある。
「ネフィスくんまたブヒエルちゃんの席抜けてきたの~?」
「おー」
魔王様の御前で堂々とタバコを吸うネフィスさんは強い……。まぁ魔王様が「好きに吸え」って言ってあるからなんだけど。
「ネフィス、ノエルとダチなんだって?」
魔王様がちょうどいいとばかりに話しかけた。
「ああ、はい。俺にもノエルのオヤジから引き抜きの声がかかったけど、俺は辞めないんで安心してください。っつーか俺がみんなに、あの店はやめとけって言っておきましたよ」
ネフィスさんが人を馬鹿にしたように「へっ」と笑った。
やっぱりネフィスさんだけでなく他のナイトさんにも声がかかってたんだ……。
「お? そっかありがとな。でもなんであの店がダメだって分かったんだ?」
「ノエルのオヤジはダメオヤジって知ってるからっすよ」
「……ぶはっ! なるほどな、ははははは!」
「あははっ! 納得しかないね!」
魔王様とアーニャが吹き出した。
「てかなんでさっきノエル来てたんすか?」
「三号店出店の際に俺らと来たいらしいぞ? その話だ。親元を離れたいんだってよ」
……彼は控えめな自殺で選んだだけです。最後はちょっとやる気を出してたけど。
「あーそうすか、ノエルはやっと目が覚めたんだな。そもそも本当のオヤジかどうかも怪しいんだから、さっさと家を出ればよかったんだよ」
えぇっ⁉ どういう事⁉
「あん? 母ちゃんは股が緩かったのか?」
「そっすね。母親は元娼婦。あのオヤジは、客の中で操りやすくて都合が良かっただけの男っすよ。俺の勘だけど」
「よくある話だな!」
えぇっ⁉ ……ノエルさん、お父さんは違う人かもって気付いているの……?
気付いていてもいなくても、ノエルさんのゴンゾさんに対する気持ちは複雑だ。だって、父親だと思いたい気持ちを持ってるもん。
あ……だとしたら、ノエルさんって私より複雑な心境なんじゃ……!
「ネフィスくんそろそろ戻らないとブヒエルちゃんが鳴くよ!」
「あーはいはい、じゃ行ってきまーす」
アーニャにせっつかれたネフィスさんはタバコをグシグシと消すと、いつも通りダルそうにフロアへ戻って行った。
「ネフィスくんは不良だね! でもそこがイイよ!」
不良どころか元ヒモです。
「アーニャはイケメンならなんでもアリなんだね……」
「あ、リサから念話だ」
魔王様へ念話が来たらしい。って事は……。
「……パウリーんとこの看板が仕上がったってよ。明後日の女神の休息日に設置工事だ!」
「やったー!」
「わぁい、楽しみです!」
ナンバー10の看板だ! ……もとい、バレットさんの指名手配看板の完成である。
『あと、工事が終わった後はニーナ戦な!』
ぎゃぴっ⁉ サラッととんでもない予定が念話で飛んできた!
念話で内緒話ということはすなわち、四天王戦の事だ。すぐそばに人族のジルさんがいるから。
……はみゅはみゅ語とカッコイイポーズを完璧に習得してないよぉおおお!
『ついにラスボスニーナの登場だね!』
『ま、魔王様……まだはみゅはみゅ語とカッコイイポーズの練習が必要なのでもう少し先に……』
すると魔王様にギロリと睨まれた! ひぇ!
『勇者がラウンツをおネエだと誤解したまんまなんだよ……その誤解を解くためにもそろそろ決行する!』
……ご、誤解も何も事実ではっ⁉
いや、おネエの魔族が四天王なのはマズいってのは分かってるんだけど……なんか腑に落ちないっ!
魔王様にムニュされたアーニャ ( o・з・ )こんな顔。
ネフィスくんの見た目はスラダンの不良時代ミッチーで大体合ってる。(歯は欠けてない)
1/8(土)はお休みします(∩´ω`∩)




