闇金ニーナちゃん
お待たせしました!
ゴンゾさんを「ハメる」と宣言した魔王様により、私は商業ギルドのワコフさんへ訪問予定の念話をする事に……。
「魔王様、ワコフさんは今からでも大丈夫だそうですよ。でもなぜ私も行くのでしょうか……」
「金勘定はニーナの仕事だろ。取り立て頑張れよ!」
ひぃ! 私がゴンゾさんから取り立てる事になってる! むむっ、無理だようっ!
取り立てってどうやるの⁉
──「あの、ゴンゾさん、今月の返済を……」
「今日はちっとな……明日払う!」
「え? でも、あの…………分かりました……」
「おいニーナ! なんで回収できなかった⁉」
「ぎゃぴっ⁉ あ、明日、明日にはっ!」
「ぁあん? ゼッテーだろうな⁉」
「は、はひっ! もちろんですっっっ!」──
あああああ! 私が魔王様に取り立てられる未来しか見えないようっ! シクシク……。
しかし従順な配下である私は抗議など出来る訳もなく、トボトボと魔王様の後を付いて行くしかなかった。
商業ギルドの立派な建物に着き、職員さんの案内でワコフさんのお部屋へ通される。
簡単な挨拶を済ませたら、ワコフさんがぷくぷくの身体を揺らしワクワクと話し始めた。
「それで本日はどのようなお話で? 新しい商売ですかな⁉ 毒見の魔道具はいつ取り扱いが出来るので?」
「ちょっとワコフに頼みがあんだよ。毒見の魔道具はうーん……毒のリストが国家機密になってるから難しいんじゃないか?」
ずっと前から毒見の魔道具に目を付けていたワコフさんのその目は、弧を描いたまま光を失った。とっても残念そうだ。
「裏を返せば暗殺に利用されかねないという事ですな……諦めましょう」
「悪ィな! んでよ、今日来たのはギルド発行の借用書を用意してほしいからなんだよ!」
「借用書ですか?」
そして魔王様が意気揚々と「ゴンゾさんに借り換えさせて知らぬ間に魔王様の配下にする作戦」をお話しし終わると、ワコフさんが首を傾げこうポツリと呟いた。
「……商業ギルドに利益が無いですな……」
魔王様のお顔がピシと固まる。
……あああっ! 確かにっ! ギルドが協力するメリットが無いっ!
そもそも貸付とは、利息で利益を得られるからお金を貸すのだ。利益が無ければ、ギルドという公的機関がわざわざ借用書など発行する理由が無い……。
つまり今回は、その場で魔王様が完済してしまうので利益ゼロ。むしろギルドは紙インク代、人件費がマイナスになる。
前に冒険者ギルドが借用書を発行してくれたのは、救援魔道具で冒険者の生存率が上がるというメリットがあったからだった……。
……魔王様ぁ!
「……クソー! しまった! ゴンゾと喋りながら即興で考えたからギルドの事まで考えてなかったぜ! ……ワコフ、ここは俺との付き合いでさ、頼むぜ。な?」
「……残念ながら私も雇われの身でして……意味のない借り換え記録を城から突っ込まれたら説明が出来ませぬな……」
「えー! せっかく俺様が考えた計画なのによー!」
ワコフさんは駄々をこねる子供のような魔王様を苦笑いで見ていた。
商業ギルドからすれば、魔王様が直接ゴンゾさんにお金を貸せばいいだけの話なのだ……。
「くっそー……もういい! ゴンゾの所に行くぞニーナ!」
「は、はいっ!」
「ワコフ、またな!」
「また良いお話をお待ちしておりますぞ!」
ギルドを出ると魔王様が盛大にため息をついた。寒風は容赦なくビュウビュウと私達に吹きすさみ、計画失敗に追い打ちをかけてくる。
私は「風が寒ぃ寒ぃ」と言いながらイライラしている魔王様に話しかける勇気も無く、魔王様に付いて行った。
ゴンゾさんのお店へ着くと、魔王様がバァアーーーン! とドアを開け、するりとカウンターへ上半身を伏せるように座った。
酔っ払いのような座り方だけど、なぜか魔王様がやると悪人が乗り込んで来たように見える。……まぁゴンゾさんからしたら間違いではないのかもしれない。
「こっ……こんちは……。まだ開店準備中で……」
カウンター内にいたゴンゾさんを下からしゃくりあげるように魔王様が睨んだ。
「おいゴンゾォ……俺様のホスクラをパクった詫びに俺の下で働け!」
ぎゃぴっ! アーニャが同じこと言ってた! 結局そうなるんですね⁉
魔王様ぁ……!
回収率0%のへっぽこ取り立て屋は魔王様が怖くて自腹切りそうw
そして珍しく魔王様の計画失敗。
明日12/31(金)も更新します(∩´∀`)∩




