全部ニーナのせい
「はぁ……でもさ、聞いてくれよ……俺、色々と考えてたんだぜ?」
魔王様はため息をつき、なにやら語り始めた……。
「ライバル店が出来たらよぉ……最悪、ナンバーが下のナイト半分は辞めるんじゃないかって思ったりもしてたんだ」
魔王様……やっぱりご不安で……。
「んでちょっとアンニュイな感じを醸し出したのは俺様の意外な一面アピールだ!」
……ん?
「ほら、強い男がたまに見せる弱さって色気があるだろ? お前らにアピっても意味無いけどよ、俺の習性っていうか? 人生常にイケメンでいないとっていうか?」
「分かるー! ちょっと魔王様を心配してトゥンク……しちゃったよ!」
「だろー⁉ さすがアーニャは分かってるな!」
……な、何の話……?
「まぁナイトなんてすぐ辞めるやつが殆どだと思ってたから別にいいけどな! むしろ今まで一人も辞めなかったから、逆になんで? って感じ? みたいな?」
「お給料がいいからね! 日払いが出る三ヶ月は絶対辞めないよ!」
「人を集めるために奮発したからなー! あとジルがいる前で『辞めたいやつがいても引き止めない』って言ったのも計算だ。これでナイトは安心して飛ばないぞー」
な、なるほど……。ジルさん、あの魔王様のしんみりとしたお言葉ならみんなに言うだろうな……。
そして実際は飛んだら店に戻すという算段ですねっ⁉
「でも魔王様、本当に飛んだナイトくんは放置するのー?」
「おう。飛ぶって事はこの街から出るって事だ。そこまで嫌がってるやつに俺は興味ねぇ」
「そうだね! いちいち魔王様が追いかける価値も無いね!」
えぇ……せっかくの配下なのにやっぱり逃がすのぉ? まぁ私もアーニャと同じ意見だけど。
「おう。んで話を戻すと、やっぱ万一の可能性は考えとくだろ? ガキを養ってて守るものがあるアレンはともかく、独り身のルフランは移籍金を積まれたら客をゴッソリ持ってライバル店へ移ってもおかしくない」
ほうほう、なるほど。お客様はうちのお店というよりナイトさんに会いに来るから、そういう事も出来るんだ……。
「ルフランくんお金大好きだもんね!」
「そこで! うちの店とライバル店との戦争が勃発する!」
でもあの……もうゴンゾさんのお店は潰れるんですけど……?
「それでそれで⁉」
「それでホスクラらしく、売り上げ合戦による店舗対決で決着をつけるんだ! 幌馬車に対抗戦開催の絵を描いて街中に宣伝もするぞー!」
「何それ楽しそう!」
魔王様とアーニャがずっとノリノリだ。
「だろ⁉ でも移籍したルフランはカリン不在により苦戦する……」
「ハラハラドキドキだね!」
「そこでだ! ルフランがカリンにすがりつく! そして弱ったルフランにクラクラしたカリンはライバル店を訪れる。んでやっぱりカリンはプライドが高いからな、なんだかんだルフランを勝たせるためにライバル店でめっちゃ金を使う」
「えー! うちのお店で使ってよー!」
まだ使ってないよ……。
「フッフッフ……だがよ、カリンがライバル店で大金を使っても、うちの店ほど気分が盛り上がらないのは明白だろ?」
「確かに! ディメンションより盛り上がるお店なんてあるわけないよね!」
「だろー? だからそれを思い知ったカリンとルフランはうちの店に戻って来るんだ!」
「ハッピーエンドだね!」
ハッピー……エンドなの?
「おう、これが今回のカリン祭りのラストその1だ」
「その2もあるのー?」
「もちろんあるぞ!」
これは長引くと判断したルルさんが椅子に座った……。
私もゴンゾさんに椅子を勧め、横目でそれを見ていたアーニャも座り、全員が着席する。
「その2はルフランがディメンションに残るパターンだ。こっちの方が確率は高い。ルフランとアレンは俺にライバル店の報告をしてきたし、カリン祭りの一環でカリンを偵察として送り込むって提案してきたからな」
「ルフランくんの作戦だったんだね!」
カリンさんの偵察が祭りにどう絡むの……?
「おう。んで未熟なライバル店で遊んだカリンは思うわけだ。『……ルフランのいないホスクラなんてつまらない』ってな!」
「いつもいる人がいないと寂しい作戦だね!」
「そうだ! 結局、超刺激的に遊べる場所なんてうちの店しかねぇんだ。俺様のホスクラは新しい商売なのにすでに完成されてるからな! 立派なホス狂いで金を持て余してるカリンは絶対に戻って来る!」
……確かに、魔王様のホストクラブは「すでにそういう形として出来上がっているもの」を持ってきたかのような完成度だ。
しかもライバル店のショボさじゃ、カリンさんはあっちで遊んだその足でディメンションへ帰って来るまである……。
ライバル店を利用してこっちに引き戻すなんて。ルフランさん、また捨て身の作戦を⁉ 恐ろしいっ!
「カリンちゃんホスクラ中毒だね! でもそれだと祭りは終わらないんじゃないのー?」
「終わりなんて無くていいんだよ。カリンはギャーギャー騒いでいたいだけなんだから」
「なるほどね! 常に修羅場なのがカリンちゃんの遊び方なんだね!」
常に修羅場とかやめてっ⁉ もっと平和に遊んでよぉ!
「ルフランがガマンできなくなったらカリンを切っておしまいだ。カリン以上の太客を見つけるまでの辛抱だな」
「ナイトくんって大変~」
「大変だから稼げるんだろうが」
「納得しかないよ!」
「はぁ……。っていうような事をな? 俺様はず~~~っと考えていたワケなんだが……」
傍観者に徹していたらふいにギロリと魔王様に睨まれた。
え……? な、なんでしょう……?
「へっぽこニーナ! お前のせいで全部台無しだ! せめてカリンが行くまでライバル店が営業してねぇと困るんだよ! なんで昨日の今日で潰してんだ⁉ ぁあ⁉」
「ぎゃぴっ⁉ おおお、お許しをっ‼」
ひぇえ! やっぱり怒られたっ! 処刑だっ!!!!!
「ったく……計画修正だ。そこのゴンゾだっけ? ちょっとお前、協力しろ」
「……⁉」
急に魔王様に名指しされたゴンゾさんがビクッとなり、震えながら首を縦にブンブン振った。
……魔王様、すっごい悪い笑みを浮かべてる……。
絶対、借金の肩代わりをしてあげるだけのつもりじゃないよねっ⁉
ゴンゾさんをどう料理するのーーー⁉
次回、闇金ハイドくん?
12/19(月)はお休みします。




