元の場所に帰してきなさい
魔王命令違反で処刑だっ! どどどどどどどどどどっ! どうしよう……っ!!!!! 「必ずや成果を持ち帰って参ります!」なんて大口叩いちゃったのにぃいいい!
ルルさん……ゴンゾさんの借金を肩代わりしようって私に言いたいの?
「ル、ルルさん……ここを潰さないようにするって事ですか……?」
「魔王様はライバル店を潰すなと仰ったのでしょう? そしてニーナちゃんはこの店によってホストクラブのイメージを壊されたくない。でも私達では何も思いつかないわね」
確かにそんな事言ったけどぉ! まさかこんな事態になるなんて思ってもいなかったんだよぅ!
このお店も系列店にするの……? ルルさん……ずっとおっとり笑っているだけだ……。失敗した時の「報告・連絡・相談・死ぬ覚悟は大事」って事かな……ああああ!
とにかく何でもいいから魔王様に釈明できる情報が欲しい! 融資の話があるかもしれないなら最低限、信用調査を……。
「ゴ、ゴンゾさん、失礼ですが犯罪歴はありますか?」
「は? ……昔は喧嘩くらいしたけどよ、俺ァオヤジのこの店を継いでから真面目にやってきた! それなのに借金のせいで……クソォッ!」
「あ、あの……借金はおいくらですか? ここは賃貸ですか?」
「全部で六百万だ! 店はオヤジの代から借りてる!」
「最後に……健康ですか?」
「病気ひとつした事ねェ! 残念ながら奴隷にはうってつけだよ!」
……虫歯はひどいよね? まぁいいや。
「ニーナ、おじちゃんをディメンションに連れてくのー?」
「えっ⁉ むむむっ無理っ!」
アーニャは何もしてないから高みの見物だ! 羨ましい! あああ、この場でどうにか終わらないかな⁉
「魔王様ならきっと何とかしてくれるよ! ちょっと待ってね……。オッケーだって!」
ひぃいいいいい! 誰になんて念話したのっ⁉
「じょ、冗談はよしてくれ……魔王なんて殺されるに決まってる! 勘弁だ! 頼むっ!」
「そっ! そうです! ゴンゾさんの言う通りですっ! 私も処刑の危機なんだようっ!」
私の味方はゴンゾさんだけだっ!
「大丈夫よニーナちゃん、行きましょう? ナイトくん達はお店番をよろしくね。ゴンゾさん、ニーナちゃんは結界が得意だから怖かったらニーナちゃんの近くにいるといいわよ」
「行くのか……連行か……」
「むっ、むむむっ! むっむっ! むむっ!」
無理だってぇ!
しかしルルさんとアーニャに背中を押され、私とゴンゾさんはディメンションへ強制連行された……。
ついにディメンションの前まで来てしまった。
ドアホンを押してもいないのに開いた扉はまさに地獄の門が如く。そして私の心の準備など待ってくれないアーニャが先頭になって入店する。
……ゴンゾさん、私のローブをつまむのやめてくれないかな? 私だって怖いのにぃ!
途中、通路の壁に空いているキャッシャー用の小窓からコーディさんのニチャァ……とした笑顔が見えた……。
絶対アーニャがコーディさんに念話したっ!
「……スゲェ……中もスゲェ……想像以上だ……」
ゴンゾさんがキョロキョロと店内を見渡し感嘆の声を上げる。
そして異質なお客様がいても反応せずいつも通りのナイトさん達はさすがだ。
「魔王様は二階のダイニングにいるって!」
アーニャの誘導で断頭台への階段を上る……。
「魔王様! おじちゃん連れて来たよ!」
ダイニングテーブルにふんぞり返って座っている魔王様を見て、ゴンゾさんが私のローブをぎゅぎゅっと握りしめた。
……離れてよぅ! 私だってルルさんにしがみつきたいのに!
「よぉニーナ……。お前にオッサンを拾う趣味があったとはな。うちでは飼えないからダメだぞー? 元の場所に帰してこい」
「あははっ! 人族をペットにするならイケメンがいいよね!」
アーニャにツッコむ気も起きない……。ひぇえ……どうしよう……とにかく何か言わなければ!
「まっ! ままっ! ままっ!」
「俺はママじゃねぇ」
「……うわぁーーーんっ! 魔王様ごめんなざいっ! ライバル店潰しちゃいましたぁっ! でも悔しくてですね⁉ 魔王様を想うあまり……っ! 覚悟は出来ています! ひと思いに処刑を! せめて最後は魔王様の最終奥義、〈魔王炎殺黒──」
「ダァーーーーーッ‼ ニーナ! その技はマズイッ! 若気の至りだったから言うな!」
……? どうせ死ぬなら魔王様の秘義を見たかったんだけど……それすらも叶わない、か……。
「魔王様の黒龍波はカッコイイよね! レイスターがコッソリ練習してるよ!」
「その話はやめろアーニャ! ……それで、何があった?」
「うんあのね! ライバル店は超ショボかったよ! ただの場末の酒場だよ! 実はブヒエルちゃんのママに脅されておじちゃんがイヤイヤやってたんだって! ブノワ商会だよ! 魔王様、潰しに行く⁉」
アーニャの物騒な発言でゴンゾさんがブルブル震え、はぁはぁ言いながら私にしがみついてる……やめてってばぁ……。
「……ルル」
「はい。この方は『恋騎士倶楽部~花乙女~』の経営者ゴンゾさん。他にはナイトが四人。全員、借金を理由に無理矢理あの店をやらされているわ。ゴンゾさんはブノワ商会への借金がかさみ、バルブス夫人により経営の方向転換を強要され、追加融資により経営していた酒場をホストクラブへ改装した模様。バルブス夫人はディメンションのプレオープンにだけ来店したブノワ商会の奥様。誰かからバルブス夫人へ情報が流れているようだけれど、そこはまだ不明瞭よ。そしてあのお店は魔王様のジンクス通り、放っておいてもきっと潰れていたわ」
ルルさんが淀みなく魔王様へ報告を……さすがだ。
「あー……うん、なるほど。ルルご苦労。んで? 何でニーナはオッサンを拾ってきて処刑されそうになってんだ?」
「まっ! 魔王命令違反をしたからですっ! ゴンゾさんになんでホストクラブを開いたのかお聞きしたら、もうやめるって言われて……潰しちゃいましたごめんなさいっ!」
魔王様は頬杖をつき、ずっと首を傾げてる……。
あれ……? 意味不明って思ってるお顔だ……。
「ルル、翻訳して」
「はい。ゴンゾさんのお店は勝手に潰れていたでしょうけれど、ニーナちゃんは自分のせいだと思い込んでいるわ。お店ではニーナちゃん、一言も喋らなかったのよ? でもあまりにも悲惨なお店を見て、ホストクラブのイメージを汚されたと思ったのね。それでゴンゾさんの所へ戻ったの。ただ、ニーナちゃんはお店の事情とゴンゾさんの前科の有無、借金額の聞き取りしかしていないわ。ゴンゾさんは前科が無いから借金さえどうにかなれば国境を越えられるわね」
「ルルが拾って来たのか……」
え? え? どういう事……?
魔王様は目を細め呆れたようにルルさんを見ている。そしてルルさんはおしとやかにニコニコしているだけだ。
「手駒の人族ゲットってか……。ルルに先回りされたぜ! まぁギリギリ褒めてやる!」
「ありがとうございます。うふふ……」
……えーーー⁉ なんでルルさんが報告すると褒められるの⁉ 伝え方の問題なのっ⁉
救世主様お願いっ! 私の名誉も挽回してください!
そして手駒ってどういう事?
「はぁ……でもさ、聞いてくれよ……俺、色々と考えてたんだぜ?」
そしてため息をついた魔王様により、長い長いお話が始まった……。
魔王様、異世界で邪〇炎殺黒龍波を完成させ厨二病ライフを謳歌してました。
これはもう書籍化できないw
12/17(金)はお休みします(∩´ω`∩)




