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ニーナのターン?

「はぁ……はぁ……おじさん、お話を聞かせてください」

「……ひぃっ‼ 魔族っ‼ 殺されるっ‼」

「殺すに値しません! はぁ……はぁ……」


 走って来たから息が苦しい! ……しまった! 〈影移動〉で来ればよかった! 横っ腹が痛いよぅ! ……まずは落ち着こう。


「すみません、暴力はしないです。このお店に危害を加えるつもりもないです」

「…………」


 周りを見渡すとナイトさんしかいなかった。お客様はいない、良かった、ノーゲスだから営業妨害にならない。


「ニーナ攻撃しちゃダメ!」

「ニーナちゃん落ち着いて!」


 アーニャとルルさんも店内に入ってきた。


「ごっごめんなさい。私はただ、どんな気持ちでホストクラブを開いたのか聞きたかっただけなんです……」


 私の言葉にホッと息をついた二人が私をテーブル席へ誘導した。


「店長さん、悪いけれどニーナちゃんとお話ししてくれないかしら? ニーナちゃんには消化できない気持ちがあるのよ」

「は、はい……」


 ルルさんに促されたおじさんは真っ青な顔で、汗を拭いたタオルを握りしめながら私の前へと座った。

 おじさん、歯を食いしばっているけど歯抜けだ……。涼しげな髪とは反対に黒々とした眉毛……何ともいえない哀愁が漂う。


「あ、あの……私はニーナと言います。ディメンションで経理などを担当しています」

「……ゴンゾだ」

「ゴンゾさん……それで……なぜこのようなお店を……?」

「…………おっ! 俺ァ悪くない! 借金が膨らんじまって! それで羽振りのいい魔王の店を真似しろって強制させられたんだ! 許してくれ!」


 なんと……おじさんの意思ではなかったらしい。


「誰にやらされているんですか? 別に私達も魔王様も、他のお店を潰そうとはしません。むしろその逆です」

「逆……? よく分からねェが、全部話すから命だけは助けてくれ!」


 ああもう、殺されると思い込んでるよぉ! まずは誤解を解かねば!


 ゴンゾさんやナイトさん達に、お互いの店にお客様が回りホストクラブが発展していくというメリットを伝えた上で、同業者は歓迎だという魔王様のご意思をお話しした。皆さん半信半疑だけどとりあえず落ち着いてくれたみたい。


「その話が本当ならいいんだが……。(せがれ)もこいつらもみんな親が借金持ちでよ、いつ魔族に殺されるかってビビッてたんだ……」


 ゴンゾさんが、(うつむ)いている黒髪のナイトさんの腕を叩いた。この気弱そうな青年が息子だったらしい。


「皆さん借金のせいでディメンションの模倣をする事になったんですね……。誰が指示したんですか?」

「……ブノワ商会のバルブス夫人だ」


 ブノワ商会……? 確かそれは……。


「あっ! ブヒエルちゃんのママだね!」


 アーニャもうちょっと言い方を考えて⁉


「ブノワ商会のご婦人ならプレオープンにいらっしゃったけれど、その後は来店していないわね……。なるほど、うちのお店にヒントを得てこのお店を作っていたと……。ミュリエルちゃんとシュリエルちゃんの事は知っているのかしら? ブノワ商会の双子のお嬢様よ」


 ルルさんが話しながら私の隣に座り、おじさんへ問いかけた。色々な意味で。

 というのは、はみゅエルさんは親に内緒でディメンションに通っているのだ。はみゅエルさんも協力しているのかな……?


「俺ァそのお嬢までは知らねェ。でもバルブス夫人は、おたくの店でどれだけの金が動いているかとか、どんな仕組みでやってるかとかを詳しく知っていた。でもよぉ! 耳で聞いただけのモンをいきなりやれって言われても無理だろォ⁉」

「は、はい、無理だと思います。魔王様のホストクラブは前例のないことばかりですから……」


 はみゅエルさんのホスト通いはすでに母親にバレているっぽいな。でもはみゅエルさんから情報は流れてるけど、あくまで母親主導?

 はみゅエルさんならアレンさんとネフィスさんを引き抜いていたとしてもおかしくないけど……とりあえずこの話は後。ゴンゾさんとのお話を続ける。


「ところで改装資金でまた借金が増えてしまったのではないですか?」

「……改装費用で半強制的に貸し付けられた。最初は一千万って言われたんだ! でもそんなに借りるのは怖くてよォ! なんとか百万ディルだけにしてもらったんだ!」


 だからこの程度の改装しか出来なかったと……。


「百万の改装だけでどうにかおたくの店みたいに儲けなきゃならねぇ……でも初回の客ばっかりだ! ずっと赤字だ、どうすりゃいい⁉ このままじゃ(せがれ)もろとも借金奴隷だ!」


 ゴンゾさんがテーブルをバンッ! と叩くと、ナイトさん達も身体を震わせた。

 ゴンゾさん……完全に詰んでいる……かける言葉が無い。


「初回のお客様がリピートしないのは、このお店に通常料金を払うだけの価値を見出せなかったからね……。ゴンゾさん、ディメンションのオープン費用は想像がつくかしら?」


 ルルさんがズバリ言ってしまった!

 そしてディメンションのオープン費用……。えっと……確か街の職人さんとドワーフさんに依頼した内装・家具が三千万くらい。


「……建物だけで五千万はくだらねェだろ?」

「軽く四億よ」

「「「四億⁉」」」


 ルルさん以外、全員の声が重なった!


「えっ⁉ よよよっ四億⁉ ルッ、ルルさんっ! 私の記憶では内装費で三千万──」

「そう、内装費で三千万。半分はドワーフの作品だけれども、お友達価格だからこの金額で済んだの。内装を売ったら一億になるわよ? さらに言うと、内装費とは別に計上されている私の魔道具作製代もあるわ。照明、外のライティング、動く扉、涼と暖の魔道具、その他諸々……魔道具だけで人界なら一億の値が付くわね。建物は魔法で作ったけれど、人族が作るとしたらこれも一億はかかるでしょう。ここまでで軽く三億」


 ルルさんが控えめに指を三本立てた。

 そういえばルルさんとメイリアさんには作製代として魔王様がポケットマネーを渡していた……。ルルさんが魔道具でお金持ちなのは知ってたけど、人界だとそんなに値が付くのっ⁉


「さらにお酒や食材の仕入れと飾りボトル。飾りボトルも高度な魔法で作っているから、人族が同じものを作るにはひとつ百万ディルかかるかもしれないわね。そして最後にナイトへの投資よ。騎士服の支給に三か月間の日当など、全部で一千五百万。ああ、あと借地代もあったわ。……実際はね、魔王様の人脈のおかげで七千万しかかかっていないの。でも人族が同じものを用意しようとしたら四億はかかるのよ」


 全員のゴクリ……と唾を飲み込む音だけが聞こえた。

 私、経理なのに全然ディメンションの価値を分かってなかったようっ! あああああ!


「……ケタが……違ェ……」

「そうよ。でもゴンゾさんへの当てつけで言ったんじゃないの。魔界の王が全力でお作りになったお店だもの、桁違いで当然よ。『ディメンションに似た店を作る』、たったこれだけの事のように感じるかもしれないけれど、ゴンゾさんにはそれに必要な全てが何もかも足りない。つまり、バルブス夫人の見積もりが甘すぎたのね」


 そうなのだ! ホストクラブだけは全力な魔王様がお作りになったディメンションは付け焼刃で真似できるものではないのだ! お客様があの空間に大金を使えるのはこれだけの資材を投入したからこそ!

 ルルさんのおかげでスカッとした! でも……私が論破したかったよぉおおお! 私にもっと想像力と語彙力があれば……っ!


「ついでに言うとナイトくんの教育もね! 店だけ立派でもホスクラは成り立たないよ!」


 アーニャ! トドメを刺さないであげてっ!


「もう……俺ァ手を引く……。これ以上やっても赤字が続くだけだ……。でもよォ! ブノワ商会への返済が出来ねェ! 奴隷落ちだっ! クソッ!」


 あわわわわ! どうしようっ! 私のせいで奴隷落ち⁉ 結果的にお店を潰しちゃったようっ! 魔王様になんとご報告すれば……っ!


「ニーナちゃん、魔王城で融資の経験はあるかしら?」

「へっ⁉」


 融資? 確かに魔王城は公的資金の貸し付けも行っていたけど、新任の私にそんな大役が回ってくるはずない。

 ルルさんの言葉の意図が分からず、助けを求め目で訴える。

 ……が、ルルさんはおっとりと笑っているだけだ。


 ……魔界の資金をゴンゾさんに融資する話に持っていけって事……?

 つまり魔王様に、ゴンゾさんを助けてあげてくださいってお願いするの……?


 イヤァアアアアアア! 魔王様の言いつけを破ってこのお店を潰しちゃった上に、その尻拭いを魔王様にお願い⁉

 処刑だっ! 魔王命令違反で処刑だっ!


 どどどどどどどどどどっ! どうしよう……っ!!!!!




あんなにカッコよく駆けだしたのに、不完全燃焼な上にやらかしたへっぽこw

ノーゲス=ノーゲスト。お客様がいないという意味です。

12/15(水)はお休みします(∩´ω`∩)

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