カリン:怒ってるんだからねっ! 前編
カリン視点、前後編。
「カリンー! デートしようぜー!」
ルフランがさっきからずっと外で叫んでる! ああもう朝っぱらからうるさい! ウチのお店はママも女の子もみんな住んでるから迷惑なんだケドッ⁉
「カリンー! ずっとここで待ってるー!」
私は怒ってるんだからねっ⁉ いつも「今は仕事に専念したい」とか「ちゃんと好きになってからじゃないとカリンに悪い」とか誤魔化してばっかり! ルフランにはもう騙されないんだからっ!
……あれ? ルフランの声が聞こえなくなった。ずっと待ってるって言ったクセにっ! ウソつき! だから嫌いっ!
不意にトントン、と部屋のドアが鳴る。
「カリン、ルフランを店に入れたよ。入っていいかい?」
ママ⁉ 何してるのっ⁉
急いでドアを開けると、スッピンのママがすすすっと私の部屋に入ってきた。
「ママッ! なんでルフランを入れたのっ⁉」
「カリンがルフランに入れ込んでから真面目に働くようになったからね! 仲直りしてきな!」
ぐっ……! 確かに、ルフランに出会う前は月の半分も働けばいい方だった……。ママめ!
「でもママ、あんま男に貢ぐなって言ってたじゃん!」
「別にあたしは貢ぎに行けって言ってるんじゃない、仲直りしなって言ってるんだよ。近所迷惑だから早くお行き!」
……とにかく、寝ているみんなの迷惑にならないようにルフランを追い返そう。
急いで着替えとお化粧を済ませ、ママと一緒に部屋を出た。
「カリン、男は信じちゃいけないよ。自分を信じな」
「……? ならルフランを追い返してよー……ママなら簡単でしょ?」
「うるさいね! いいから行きな!」
「ぎゃ!」
ママにお尻をバシン! と叩かれ、一階へ向かった。
階段を降りると、カウンターに座り頬杖をついたルフランと目が合った。
うう……いちいち無駄にポーズがカッコイイ! 新しい服だ! ……でもそれ、私が使ったお金で買ったんだよね?
「カリン! どこ行きたい?」
「……なんで何事もなかったかのように笑ってるワケ? 昨日の事は無かったことにする気?」
「カリンに会えて嬉しいからに決まってるだろ。さてどこ行くか。まだ朝だからなー……あ! 俺ん家行く⁉」
「行くっ!」
はっ! しまった! つい反射的に! ルフランの家なんて先月の決戦日以来だよ!
……あの時は酔い潰れててあんま記憶ないけど。もったいない事した!
「よし、行こうぜ!」
ルフランに手を取られ店の外に連れ出された。
「チビ達に屋台でなんか買ってこ?」
いつの間にかルフランのペースに呑まれてる! 私怒ってるのに! でもあの子達の話を出されると毒気を抜かれる。
「……そうだね。可愛いよね、アレンの弟妹」
「俺いつも家で上半身裸だからさー、アシェリーが熱い眼差しで見てきて困るぜー」
アシェリーちゃんは確か13歳の妹、もう一人の妹は5歳のミシェルちゃん。後は弟くんが三人。
子供……私とルフランの子供が出来たら……。
「……ルフラン、裸は教育によくないよ」
「でもよぉ……アシェリーとミシェルが毎朝頑張って暖炉に火魔法かけてんだ……何でか分かる?」
「う~ん、節約?」
「部屋が寒かったら俺が脱がないだろ? だからだ! そして俺は二人の努力と期待に応えるため毎日服を脱──」
「はいはい、イケメンジョークね! ホラッ、屋台着いたよ!」
ルフランへ振り向くと違和感を覚えた。
「あれ? ルフラン、ネックレ──」
私があげたネックレスが無い。忘れた? いや、つけ忘れたことなんて無い。まさかもう私と縁を切るつもりで──
「ああ、もう必要ないから」
さっと血の気が引いた。身体が鉛のように重い、一歩も動けない。心臓がドクドクいってる! ……なんでっ⁉
「家に保管してある。あ! ネックレスを入れるちっちぇ宝箱みたいなのも買いたいな!」
ルフランの言っている意味が分からない。もう思い出にするって事……? なんで笑ってるの? なんで私が、私のあげたネックレスの棺桶を選ばなきゃいけないの⁉
「行くぞー」
ルフランが私の震える手をギュッと握って屋台へ引っ張る。
……ルフランの手、大きくてちょっと骨ばってるけどあったかい。手を繋ぐのなんて当たり前だったけど……もう出来なくなるの?
そしてルフランとアレンの家に着いた。
……そういえば石造りの豪華な家だった! さすがナンバーワン、ツー、稼いでるなぁ……。
「あ、ねぇ、アレンもいるの?」
ルフランが鍵を回しドアを開ける。
「アレンは出かけてる。……ただいまー! メシ買ってきたぞー!」
「るぅらんー! あっ! おねえちゃんー!」
「るふらんー! なにかってきたのー?」
小さい子二人がドタバタとルフランの元にやってきた。上の子三人は下働きに行ったのかな?
「あったかいうちに食っちまえ! 俺もよく分かんねぇけど新しいソースのホットサンドだってよ。じゃあ俺はカリンと部屋にいるから入ってくんなよ?」
「「うん!」」
子供達に手を振り、ルフランと一緒にリビングから部屋へ移動した。
ここがルフランの部屋だ。家具はベッドとサイドテーブル、クローゼットだけ。あとは床に服が散乱している。
「ベッドに座ってて」
ルフランは何やらゴソゴソと服を漁ってる。私は言われた通りベッドへ腰かけた。
……ここで一緒に寝たんだよね。その時はルフラン服を着てたなぁ……。そして私がルフランを襲ったらアレンが来て……あの日は酔ってたからアレンの家でもあるって忘れてたんだよー!
でも本当にルフランがアレンと子供達と住んでるって分かって安心したんだよね。ウソじゃなかった。
「ほら、こうやって保管しとく」
ボフン! とルフランが私の隣に座った。手にはさっき露店で買った小さな宝石箱、中に私があげたネックレスが入っている。
「カリンはさ、俺と繋がってるのを目に見える形にしたかったんだろ? でももうそれ必要無くない?」
「……どういう意味……」
「もう俺達は物のつながりなんて無くてもちゃんと繋がってる。逆に、俺がこれをつけてればもっとカリンを好きになるのか? 違うだろ」
よかった……お別れとかそういう話じゃなかった。
止めていた息を、ルフランにバレないようにゆっくり吐き出す。
確かに、もう今さらネックレスがどうのこうのって小さなことを気にするほど、薄い繋がりじゃないかも。
「……うん……言いたいことは分かる。でもなんでわざわざ外すの? あっ! 他のお客さんにもらったとか⁉」
「違う、俺はアクセサリーが嫌いなんだ。特にネックレス。束縛されてる感じが嫌だ!」
「……えっ⁉ そうなのっ⁉ 最初に言ってよ! じゃあ私はずっとルフランの嫌いな物を──」
「そう、最初に言えばよかった。ゴメンなカリン。でも最初は言えなくねー? でも今の俺達なら何でも言える関係だ!」
……ルフランが私に心を開いてくれてる感じがする! すごい! なんで⁉ 今までは何を言ってもはぐらかされてる感じがしてたのに! 頑張ってきた私の気持ちが通じた⁉
「そうだね! もっと何かない⁉」
「カリンがヒス起こすと逃げたくなるからやめてくれ!」
「ヒドイ! 私ヒスってないもん! ルフランが怒らせるんだもん!」
「男からしたら、女が大声上げるだけでヒスに感じるんだよ! マリンちゃんとか大きい声出さないだろ?」
「マリン……確かにマリンはそうだね……。でもっ! マリンは気が弱いからお客さんに嫌な事されても言えなくて、よく泣いてて!」
「うん、仕事の時は今のままでいいよ。それがカリンの身を守る術なんだろ? でもさ、仕事以外でも気が強いと女として損するぞ?」
「仕事以外……?」
「男はか弱い女の子を守りたいんだよ」
ルフランがため息をついた。
そうなのっ⁉ 男ってそうなの⁉
「……私、か弱くなるっ!」
「大声で宣言する事じゃないけどな……」
「う……。ってゆーかルフラン、なんで今まで隠してたの?」
「うん……やっぱりカリンは店に来てるからさ、俺もナイトとしてカリンを喜ばせたかったっつーか。要はカリンを否定しないで、そのままのカリンのいい所を褒めるべきなんじゃないかって思い込んでた。みたいな」
「んん~? 最初の頃、思いっきり私を否定された気がするんだけど……」
「……それはそれでだな。とにかく今のカリンと俺は、もう一回話した方がいいと思ったんだ」
「……うん! なんかぶっちゃけてもらえてスッキリした! ……でも、やっぱりお店はこれからも来てって事でしょ?」
結局ルフランは売り上げのためにこうやって私と話をしてるんだ。多少二人の関係が良くなっても、恋人にはなれない……。
「それさ……よく考えたんだけど……カリン、今の仕事もう辞めれば?」
えっ⁉ 辞めるなんて考えた事なかった! いいの⁉
でも……稼げなくなった私はルフランにとって……どういう存在になるの? 怖い!
12/3(金)はお休みします(∩´ω`∩)
ママの名前はオリヴィア、実は60話からいる古参キャラ
「るぅらんー!」って言うのがミシェルちゃん(5)
「るふらん-!」って言えるのがシモンくん(6)
あとはテオくん(9)、アシェリーちゃん(13)、リアンくん(16)
アレンとルフランは(18)




