ニーナ、カモられる
ニーナ視点 → ルフラン視点
「ルフラン、一回カリンちゃんと付き合ってみたらいいのに」
アレンさんさすがです! しかしルフランさんは大きなため息をついた。
「アレンお前なぁ……もし付き合ったら、次は『なんで抱いてくれないの⁉』って言われるに決まってんだろ!」
「抱いてあげればいいじゃない」
「そしたら今度は『なんで毎日抱いてくれないの⁉』ってなるだろ……キリがないんだよカリンは」
カリンさんなら絶対言う! ルフランさんの言う通り、カリンさんの要求は青天井だろう……。
「カリンちゃんは愛が深いだけで悪い子じゃないと思うけどな。ルフランがカリンちゃんの事を真剣に考えてあげれば気持ちは伝わるよ、きっと」
「……カリンの事か……。確かに俺の事ばっかり考えてたかもな」
おお! ルフランさんがしんみりしだした! さすが親友、アレンさんすごい!
「最悪カリンちゃんがいなくてももうルフランは食べていけるでしょ?」
「そうだけどナンバー維持するにはよ……」
そしてルフランさんが「カリンの事はよく考える」と言ってこの話はおしまいになった。
私はその後も入れ代わり立ち代わりやって来るナイトさんのテンションに押され、バックヤードに戻るタイミングを失ったままナイトさんのキラキラ攻撃を必死に耐えて時間を過ごした。
「よーし! ラストオーダーも終わったし、そろそろチェックで!」
ホッ。アーニャがやっと帰る気になったようだ。帰ると言ってもバックヤードだけど。
すかさずお兄ちゃんがこちらへ来て亜空間に準備してあった伝票を取り出す。
お兄ちゃん、やっぱりちょっとはヤキモチ妬いてたみたい。ふふふ。
「ほいアーニャ、伝票。こっちはルルさんのです」
「レイスターありがと! えっと……ニーナ、19万ディルちょうだい」
「ぎゃぴっ⁉ 19万⁉ ななな、なんで⁉」
「ニーナが割り勘でいいって言ったんじゃん……」
ハッ⁉ そうだった! だからアーニャ、モエリ赤なんて大奮発を⁉ 罠だったようっ! 私の親友は非情だ!
でも仕方なくアーニャにお金を渡す。
しくしく……魔王様から逃げるためとはいえ19万ディルも……。私、ジュースしか飲んでないのに……。しかも結局魔王様名刺はバレたし! 払い損だ!
「ありがと! はいレイスター、お釣りはチップで!」
「釣りなんかねぇよ」
「一回言ってみたかったんだよ!」
「そういうのは釣りがある時に言うからカッコイイんだろ……」
「疑似体験させてくれるのがホスクラでしょ⁉」
「うちはそういうのやってない」
「もうー! いいから持って行って! ルフランくん、外まで送りお願いね!」
「あ、うん」
アーニャ、また店内に戻るのにわざわざ一回外に出るんだ……。
ルフランさんにエスコートされるアーニャを視線で見送り、私とルルさんはこのまま席で営業終了まで待機した。
お客様全員がお帰りになったので、私は魔王様のいるバックヤードに戻る。
「魔王様ただいまです……」
「おっ! 楽しかったか? ニーナ」
「ジュースに19万も払わされて悔しいです! 魔王様とアーニャの罠に引っかかりました!」
「ぶはははは! ちゃんとアーニャと伝票を分けなかったニーナがへっぽこだっただけだ!」
くっ……! 何も言い返せない! 私はこのお店のシステムを知っていたはずなのに! 一人なら3万で済んだのに! あああああ!
「どうせならアレンを指名してやればよかったのに」
「なっ! 何を言ってるんですか⁉ アレンさんなんて私は興味ありません! そんな事より魔王様ぁ……ルフランさんどうするんですかぁ?」
「あん? ルフランがどうにかするだろ」
「魔王様冷たいです!」
「俺がいちいち口出ししたらウザったいだろ? 本人も一人で何とかするって言ってんだから信じてやれよ」
「カリンさんが心配ですよぉ……」
「ルフランに人の心が無ければカリンの男を見る目が無かったってだけだ。いいんだよ、それも人生経験になる」
「そんな経験しなくていいですぅ!」
魔王様はニヤニヤしたまま私を無視し、コーディさんに話しかけ始めた。
……そうだ、メイリアさん! キッチンを見るとメイリアさんは食器に洗浄魔法をかけている。念話しよう。
『メ、メイリアさんごめんなさい。私のせいでなぜか魔王様名刺がバレました……』
『……大丈夫……ニーナの挙動不審で魔王様がいじめにいくのは分かってた……』
『い、いじめ……』
『……魔王様はニーナをいじるのがご趣味……』
『なんか改めて人に言われると悲しいです……。今日アレンさんとルフランさんにもフラれたし! 別に好きじゃないのに!』
『……ニーナ、ごめん……』
『謝らないでくださいぃいいい! もっとみじめになります!』
『……ふふ……』
メイリアさんまで私で遊んでるっ⁉ ルフランさんに選ばれたメイリアさんがちょっと羨ましい! でも人族に好かれても嬉しくないし! ぷんだ!
そして片付けをして久しぶりのディメンション出勤は終了となった。
アレンさんとルフランさんが魔王様と何かお話ししてたけどカリンさんの事かな? あ……もしかしてメイリアさんと仲良くなりたいとか?
……ハッ! まさかまさか、私を体よく振る方法の相談じゃないよねっ⁉ もうこれ以上はやめてっ⁉ 分かってるから! ってか私はアレンさんなんかこれっぽっちも好きじゃないってばぁあああああ!!!!!
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今日の営業は疲れた……。
更衣室で騎士服を脱ぎ、私服のシャツを手に取る。
……なんで今日に限ってボタンの多いシャツを着てきたんだよ俺は! めんどくせぇ!
「はぁ~~~! カリンどうすっかなーーー! めんどくせーーー!」
俺が更衣室の椅子にドカッと座るとみんなの視線が集まった。
着替えたらカリンに念話しなきゃだよな……いや、今日はしなくていいか?
「……また放置でいいかなー」
「あ! ルフラン! ミミリンがさー、『試しに一回付き合ってみたらいいのに』って言ってたぞー。カリンちゃんも同じ事言ってくるかもだから頑張れよ!」
今日同卓だったヴァンが教えてくれた。
「マジか、サンキュ。アレンもそんな話してたな……試しに、か……。でもそれで『やっぱり元に戻ろう』なんて言ったらカリンぜってー怒るだろ! ……あーもう!」
「ルフラン、僕が家で相談に乗るからまずは服を着ようよ」
アレンはいつも俺の母ちゃんみたいに口うるさい。……アレンの家に住む時点で分かってたけど。背に腹は代えられねぇ。
「俺は裸の方が落ち着くんだよ」
「もう冬だよ?」
「なぁルフラン! ミミリンが俺の事好きみたいなんだけど色かけた方がいいかな⁉」
ヴァンがいつもの人懐っこい顔で聞いてきた。嬉しそうだ。
ミミリンはとっくにヴァンを好きだろ。でも上手くいってるなら急がない方がいいんじゃねー?
「ヴァンの勘違いだからかけなくていい」
「違うんだよー! 今回は本当っぽいんだよー!」
「ヴァン、詳しく教えて!」
「おおアレン! 聞いてくれよ今日さ──」
アレンとヴァンは無視して着替え、カリン以外の客に念話をする。
確かに、カリンがいなくてもナンバー5は維持できるかもしれない。どうすっかなぁ……。
「ルフラン、念話終わった? 帰ろうよ!」
「おう」
そしてその晩、俺は家でアレンと「第二回カリン祭り会議」を開いた。
ニーナのアレンルートは無いです。
次回、カリンちゃん視点。
12/1(水)はお休みします(∩´ω`∩)




