ニーナ、解せぬ
お待たせしました!
ええっ⁉ ヴァンさん、サシャさんから指名もらったのぉ⁉
「ヴァンくん太客ゲットだね!」
アーニャが拳を握りしめ興奮している。私達の席に着いているナイトさんは悔しそうだ。
アーニャの全員ヘルプ指名、今日に限っては迷惑になったんじゃ……。
いたたまれない気持ちになり何となくルルさんの表情をうかがう。すると微笑んでいたルルさんのグラスを持つ手が止まった。
「あら? ミアちゃんも呼ばれたみたい」
「「えっ⁉」」
首をグルンッと回して右の席を見る。
「ご指名ありがとうございますニャ、『伝説 と書いて 僕 と読む物語を一緒に紡がないかニャ』ミアですニャ!」
「ぐあっ! ミアも指名⁉ サシャさんは俺だけのものだと思ったのに!」
「えっ⁉ なんかごめんね、ダメだった? ダンジョン・ディアブロの話が聞きたくて……」
どうやらサシャさんはダンジョンに詳しそうな二人を呼んだらしい。今日指名しても次回は変えられるしお金持ちだもんね。
「いや全っ然! ご指名ありがとうございます、プリンセス!」
「ありがとうニャ! ヴァン、永久指名をもらった方が勝ちニャ! 勝負ニャ!」
「ミアに勝てる気がしねぇ!」
「永久指名ってなに?」
サシャさんに永久指名をもらったらナンバーワンも夢じゃないな……。
「クッ……! サシャさん、初回でダブル指名なんて高度な技を! ニーナ、手強いよ⁉」
アーニャがコソコソっと私に話しかけてきた。
「アーニャは通な遊び方に興奮するんだね……。多分バレットさんとか内勤が教えたんじゃないかな? 絶対に逃したくないお客様だもん」
「……なるほどね! そうだよね、誰かが教えたんだよね?」
「アーニャ……何に悔しがってるの? 目立ちたいならルフランさんにペガサスデコ入れてあげたら?」
「それを入れるならドルムさんの武器が欲しいよ! でもルフランくんどうするんだろうね~?」
ルフランさん……まだ店内に戻って来ていない。ずっと外でカリンさんとお話ししてるのかな?
「ルフランくんが戻ってこないからシャンパンも来ないわね」
ルルさんの言う通り、カリンさん祭りによってモエリ赤を持って来てもらうタイミングが無かったのだ。
「せっかく入れたのにー! あっ、そうだ! もう一回ルフランくんとカリンちゃんの会話聞こうよ!」
「えっ⁉ アーニャさすがにそれは──」
「集え、鎮魂歌──」
あーもう。私は聞かないぞ! さすがに外でのお話までは聞いちゃいけない気がする……。
「うわ~……カリンちゃんずっとブチ切れてるよー! ……あっ、カリンちゃんが叩いた! あはははは!」
アーニャはよく笑って聞けるなぁ……。そして外の音まで拾えるなんて集音魔法の精度が上がっている、なんという野次馬執念。
「……あー面白かった!」
「ア、アーニャ、二人の話は終わったの?」
「うん! 結局カリンちゃんが『もうお店いかない!』って言って終わったよー。後はプライベートで会って話すんじゃないかな?」
「またケンカイベントかぁ……やだようっ!」
「あっ! ルフランくん戻ってきたね。モエリ赤よろしく!」
入口に目をやると、ルフランさんが外から帰ってきたのが見えた。
「本当だ、じゃあ僕はご馳走さまです」
アーニャに返事をしたセシルさんがバックヤードへ向かう。代わりにまたアレンさんが、ルフランさんと一緒に私達の席へ来てくれ、続いてお兄ちゃんがモエリ赤も持って来てくれた。
「アーニャちゃん放置してごめんなー……あっ、モエリ赤ありがとう!」
「大丈夫だよルフランくん! カリンちゃん祭りが始まったんだからしょうがないよ!」
「カリン祭り……はぁ~~~~~!……」
ルフランさんがものっすごいため息を……。
「あはは、やっぱりカリンちゃんはカリンちゃんだね。ルフランどうするの?」
アレンさんがシャンパンをグラスに注ぎながらニッコニコの笑顔で聞いた。他人事だからか楽しそうだ……。
「とりあえず今月は店に呼ばないで、来月からまた来させればいいだろ」
「ルフランくんエグい! 怖い!」
アーニャは一緒に楽しんでて他のナイトさんは引いている……。そこへアレンさんが問いかけた。
「……ルフラン、そんなにカリンちゃんの事嫌いなの?」
「え? ……嫌いっつーか苦手なだけ。そもそも俺は女が全員嫌いだ! アレンなら知ってんだろ?」
えっ⁉ ルフランさんこんなにイケメンなのにもったいない!
「えー! ルフランくんなんで女嫌いなのー?」
「あはは、ルフランは女の子のヒステリーとかワガママにうんざりしてるんだよ、アーニャちゃん」
「あーなるほどね! まさにカリンちゃんだね!」
「カリンが叫ぶと逃げたくなる……」
「でもルフラン、カリンちゃんがルフランのためにここまで頑張ったのは評価してあげてもいいと思うんだけど」
アレンさんがカリンさんの味方だ! その調子でお願いします!
「はぁ? 俺がナイトとして楽しませてるんだから当然の対価だろ」
「そうだね。ただ、カリンちゃんも沢山お金を使ってるから感情的になってる部分もあるんじゃないかな? お金が絡まない場合のカリンちゃんをじっくり見てあげたらどう? ルフランの気も変わるかもしれないよ?」
「……なんでアレンがカリンの味方してんだよ」
「ルフランに恋愛を楽しんでもらおうと思って」
くっ……! アレンさんの爽やかな笑顔が眩しいっ! 親友とカリンさん二人の事を本当に想って……!
「アレンが俺を見て楽しんでるだけなのを俺は知っている」
そうなのっ⁉ アレンさんって魔王様と同じで人をもてあそぶタイプ⁉ ショックです!
「あはははは! だからニーナはアレンくんがお気に入りなんだね! 魔王様に似ってる~!」
「ぎゃぴっ⁉ アーニャ何言ってるのっ⁉」
私はアレンさんを配下としか思ってないもんっ!
「アレンくん! ニーナみたいな子はどう⁉」
「ニーナちゃんは妹みたいで可愛いよ。家で保護したいな!」
私は捨て猫⁉ 「妹みたい」ってベタな断り文句だし!
あああああ! また好きじゃない人になぜかフラれてるっ! 実家で魔王様にフラれた時みたいだ!
「俺はニーナちゃんみたいな子なら付き合えるかも……?」
「やったねニーナ! ルフランくんに脈アリだよ!」
えっ⁉ ルフランさんっ! あなたは見る目があります!
「あ、でもやっぱりメイリアちゃんだな! 料理上手いし!」
「ニーナまたフラれたね!」
アーニャに無言で肩パンする。もうこれ以上公開処刑はやめてぇ!!!!!
「じゃあ私はどう⁉」
アーニャ、なんて答えにくい質問を!
「アーニャちゃん人妻じゃん!」
「まだギリ結婚してないよ!」
「レイスターに殺されるから完全にないなー」
「ルフランくんヒドイ! 指名してモエリ赤まで入れたのに!」
「ははっ! ごめんごめん、ありがとう!」
「あ、じゃあじゃあルルさんは⁉」
「ん~……ルルさんはナイト全員、高嶺の花って意識だよ。なんつーかこう……もっと大人になって激しい恋をしたくなったらぜひお願いしたい。みたいな……?」
「なんかわかるー!」
「うふふっ、高値の花だなんて光栄だわ」
確かにルルさんならナイトさん相手でも手のひらで転がしそうだ……。
「話を戻すけれど、ルフランくんはカリンちゃんの事をどうするのかしら? 魔王様に相談するの?」
ルルさんが軌道修正をしてくれた。
「俺からはわざわざ代表に相談しない、かな……」
「ルフラン、一回カリンちゃんと付き合ってみたらいいのに」
アレンさんさすがです! ミミリンさんがそう言ってました!
しかしルフランさんは大きなため息をついた。
11/29(月)はお休みします(∩´ω`∩)




