力ずくといえばこの技
「……ならば力ずくよっ‼ 魔王に会わせなさいっ‼」
えっ⁉ サシャさん、魔王様討伐に来たの⁉ どどっどどど、どうしようっ!!!!!
お兄ちゃんとラウンツさんがそれとなくサシャさんの方へ近づいて警戒してる。
「おっ! 面白そうな奴が来たな、ははは!」
魔王様笑ってる場合じゃないよぅ! 狙われてるようっ!
「これで魔王を呼んで‼」
そう言ってサシャさんがビシ! とテーブルに打ち付けたのは……。
ひぇ! 大金貨二枚! 力ずくって大金貨の事ぉ⁉
へにゃり……と腰が抜けた。
良かったぁ……。でもなんでそこまでして魔王様に会いたいのかな?
「大変申し上げにくいのですが姫……」
「なによ? これで文句ないでしょう?」
「恐れ入ります……サービス料がございますので……実質260万ディル必要でございます」
「……ガビーン! な、なんという罠……。急いでキマイラをソロ狩りしてきたのに……」
ガビーンっていう人初めて見た……。でもサシャさん強いんだな。キマイラさんをソロでって事はキングバジリスクさんも……。
そして確かにサービス料は、今でも私は魔王様の罠だと思う。
「本日は初回料金でお遊びいただけますから、他のナイトと楽しまれるのはいかがでしょう?」
「……そ、そうね……まずは敵情視察を……」
サシャさん、殴り込みって感じじゃないなぁ……。魔王様を倒すなら不意打ちしかないと思うんだけど。
よく分からない人だ、うーん。
「サシャさんお久しぶりです! ヴァンです! ご一緒してもよろしいですか⁉」
「お久しぶりです! フィルです! 僕もよろしいですか⁉」
「え? ……あ、ああ……久しぶり」
先月6位のヴァンさんと11位のフィルさんが早速サシャさんの席に着いた!
何々? 二人も知り合い? そういえばヴァンさんもフィルさんも元冒険者だ。
三人は右手を掲げパンッパンッ「イエーイ!」とハイタッチしている……。サシャさんって顔が広いんだな。
そしてバレットさんが地味にイイ仕事してるぅ! 魔王様をエサにまずは入店させ、あとはナイトさんの手腕に任せ誰かに指名を取らせるつもりだ。その先発隊が共通点のありそうな元冒険者の二人、お客様をよく見ている。
「……えっと…………ごめん、どこで会ったっけ?」
サシャさんが申し訳なさそうに聞いた。
「さっき入口で!」
「……だよね?」
「「だよねーーー! イエーイ!」」
「あはははは! イエーイ!」
ちょっとぉ⁉ 知り合いじゃなかったの⁉
だが三人は再びハイタッチして何だか盛り上がっている。
そして他の席に着いているナイトさん達は、サシャさんの大金貨を見たからか悔しそうにヴァンさんフィルさんを見つめていた。
太客の初回争奪戦だ!
「でも俺、本当にサシャさんのこと前から知ってた!」
「あ、僕も! 遠目に見た事があります! 僕もヴァンも冒険者をやってたから」
「へぇ? そうなんだ」
「オルガで『涼風』のサシャさんを知らない人はいないって! 俺も『絶望の残像』って二つ名が欲しかったな……これでも前はシーフでさ……」
ヴァンさん……残念ながらあなたに相応しい二つ名はもう決まっている。
「シーフだったんだ? 君達はどこらへんで活動してたの?」
「俺はそこら辺で薬草採り!」
「僕も採集メインです! だからナイトに転職しました!」
うん、ヴァンさんとフィルさんはメイリアさんに薬草を貢いでたのを見た事がある。
「……ねぇヴァンくんさ……草むしりにシーフも何も無くない?」
「ヒデェ! ……なんてね! バレちゃったかぁ~あはははは!」
ヴァンさん……シーフは「そういう設定」だったんだね。アーニャと一緒で夢見るお年頃らしい。
なんだか楽しそうだからサシャさんの席は大丈夫だ、うん。
「魔王様、サシャさんって方の席、とりあえず大丈夫そうですね」
「おう。強い冒険者らしいから俺様と戦いてぇのかなー?」
「手合わせしてほしかったんですかね?」
「さぁな。まぁ誰かが死に物狂いで指名取るだろ、ほっとけ。あ、ジルー! そのフル盛りあの初回の席に出せ。あれは金持ってるぞ! 店ぐるみだ!」
キッチンに振り向いた魔王様がお皿の上の薔薇庭園をアゴでクイッと差した。
魔王様もサシャさんを狙ってる! 店ぐるみで恩を売るの怖いよぅ!
試作品まで売り上げに繋げるなんて、どうしてこう、魔王様はホストクラブの事になると抜け目が無いのぉ⁉
さて、私はお仕事が無いので店内把握に努めよう。アーニャとルルさんをチラリと見てみる。
「よーし……こうなったら全員ヘルプ指名で逆ハーレムを!」
「あらあら、うふふ」
……うーん、放っておいていいや。
「ニャーーーーー! すごいニャ! カッコイイニャ!」
あ、ミアさんが叫んでる。どうしたのかな?
フィルくん、小柄で緑の髪のナイトです。169話にちょろっと出た。
短かったので明日11/19(金)も更新します(∩´ω`∩)




