ディメンション出勤!
さぁ十日ぶりの出勤だ!
みんなでいつもより早い時間からお掃除を始めると、内勤のバレットさんレオさん、キッチンのジルさんが出勤してきた。
「あっ! おはようございます!」
とととっと入り口の三人に駆け寄り挨拶をする。
「おや、皆さん今日は出勤ですか? 何だかお久しぶりですね」
バレットさんがそう言って目を細めた。
……くっ! イケオジ様の包み込むような優しいスマイルも危険だ! お父さんみたいでなぜか安心する! でもチャラ男の裏の顔を知っている私は騙されないぞ!
「急にコーディさんだけになっちゃって、僕ら大変でしたよ! でも皆さんがいなくてもお店を回せるようになりました!」
レオさんが腰に両手をあて、フンス! と言わんばかりに胸を張った。
私達魔族は月初めの営業前ミーティング以降、急にお店に出なくなったから……大変だっただろうな。
あれ? なんでお店出なくなったんだっけ?
……えっと、月初はネフィスさんとセシルさんの二つ名発表があって……それから……。
あああああっ! 私のせいだ! 私が言い出したムーバーイーツが急遽開始されたからっ!
魔王さまめっ! いつもフットワークが軽すぎるんだよぅ! でも私のせいだ! みんなごめんなさい! わあああああ!
「わっ! 私今日は頑張ります!」
おしぼりクルクルしかお仕事が無いけど頑張ろう! せめてもの償いだっ!
「メイリアちゃん! エルドラドから入った食材の取り扱いを教えておくれ!」
ジルさんがバックヤードのカーテンを開けながら叫ぶと、メイリアさんがキラリと目を光らせこちらへ向かって来た。
「……青果なら任せて……」
メイリアさん……植物も大好きだもんね。午前中は魔界でキキュー育成をしてたけど体調大丈夫なのかな?
私の心配をよそにトテトテとキッチンへ来たメイリアさんは、空中に投げたキウイに風魔法をかけお皿でキャッチした。
「な……なにぃっ⁉ キウイが薔薇の形に! どうやったんだ⁉ 教えてくれメイリアちゃんっ! 料理人は風魔法も覚えないと駄目な時代なのかっ⁉」
ひぇ! お皿の上には見事な薔薇がっ! どっどどど、どうやったの⁉ 私にも教えて!
「……ふふ……実は簡単……」
メイリアさんが包丁を手に持つと、今度は魔法を使わずキウイを切っていった。
……ほうほう、皮をむいて縦半分にしたキウイを薄くスライスして、ちょっとずらして……くるっと巻いたら出来上がり⁉
あああっ! 苺までっ⁉ ミニバラだっ!
「そんなに簡単なのかっ⁉ 俺にもやらせてくれっ!」
感化されたジルさんが次々と薔薇を作り、お皿の上に花畑が広がっていく! 卓上のプチ庭園だぁあ!
「おーいへっぽこ~! おしぼり作るぞ!」
ハッ! お兄ちゃんが呼んでる⁉ しまった! さっき頑張りますって言ったばかりなのにっ!
急いでフロアヘ向かい、おしぼり作業に入った。
お兄ちゃんラウンツさん、バレットさんレオさんとテーブルを囲んでおしぼりをクルクルしながら雑談開始。
十日ぶりなのにとっても懐かしい……。
「そういやニーナ、仕立て屋の看板はいつ出来上がるんだ? 今日リサさんに会ったろ?」
お兄ちゃんがニヤニヤしながら私に聞いた。
「あ……ごめんね、今日はニャンダフルしか行ってないから会ってないよ。いつだろうね?」
「看板が出来たら、バレットさんの新しい元カノ何人来るでしょうね!」
レオさんがワクワクしてる! お兄ちゃんも! そして視界の端に見えるバレットさんのおしぼりが小刻みに揺れている……。
「バレットちゃんっ! 一体この街で何人女のコを泣かせたのかしらっ☆?」
「……三桁は超えているかと……」
バレットさぁん……。
「今月はバレットさんがナンバー5入りするかもしれませんね!」
「二つ名は何になるのかしらぁっ⁉」
「魔王様に考えてもらおうぜ!」
「やめてください……」
……何になるのかちょっとだけ気になる。
「おはようございます」
「おざまーす」
「おざー……あれっ⁉ もしかしてダンスの練習復活してた⁉ ヤベェ!」
あ、アレンさんルフランさんヴァンさんが出勤してきた。
「おはよっ☆ 大丈夫よヴァンちゃん、ダンスの練習はもうないんじゃないかしらっ? ちょっちアタシ達は別件でおシゴトが忙しくって……」
まさかラウンツさんが女装で忙しかったなんてみんなに言えない……。
「マジすか⁉ いやーラウンツさんの練習無しかー。でも仕方ないっすよね!」
ヴァンさん、とっても嬉しそうだ。
「ナイトくんは命拾いしたね! あっ! 今日は私もルルさんと遊ぶからよろしくね!」
「えっ? アーニャちゃん遊ぶの? 指名されたヤツがレイスターに殺されたりしない⁉」
「あはは、大丈夫! 指名はまだ内緒だよ!」
……ルフランさんでしょ。
そして次々とナイトさんが出勤して来て、コーディさんが外のライティングの魔道具に魔力を込めたら営業開始だ!
私とメイリアさんはいつも通りバックヤードで待機。アーニャはルルさんと一緒に一般席に座っている。
「よう! お待たせ!」
「ぎゃみゅっ⁉ ままま、魔王様! なんで⁉ 今日はお休みじゃ……」
いつの間にか魔王様が背後に!
「メイリアに聞いた! 俺もたまには店の様子を見ないとな。エグゼクティブエンペラーとして!」
「そ、そうですか……。あ! 魔王様、バレットさんがナンバー入りしたら二つ名は何になりますか?」
「あん? バレット? そうだなー……『オルガの食いしん坊』、かな」
「う~ん……魔王様にしてはマイルドですね」
「バレットは存在自体が卑猥だからマイルドにした方がいいんだよ! 『歩く下半身』じゃそのまんまだろ」
存在が卑猥……。
ピポン!
「お客様ご来店です!」
「「「おかえりなさいませプリンセス‼」」」
「ニャー! アンナ、ルナ、ディアナ! 三人揃ってどうしたニャ?」
開店一番、決戦日でもないのにアルディナさんが集合して来たみたい。どうしたんだろ?
「ミアくんっ!」
「えっとね~えへへ!」
「内緒だよ!」
「ニャにニャに? 気になるニャ!」
四人はキャッキャしながら席へ向かったようだ。
ピポン!
「おはよー!」
「おはー!」
あっ、この声と魔力はカリンさんミミリンさんだ!
……いつの間にかミミカリンさんにまで「出勤したらおはよう」が定着してる。さすが常連。
チラリとフロアを覗いてみると、やっぱりアーニャはルフランさんを指名したようだ。
カリンさんの席へ向かったルフランさんの背中を見て、焦った様子でルルさんに「しまった! カリンちゃんの被りになる! 勝てないよ⁉」とか言ってる……。今気付いたの?
そしてその後も続々とお客様が来店。
瞬く間に店内は、ワイワイキャッキャと楽しそうな声で賑やかになる。この熱気! 懐かしい!
ピポン!
「「「おかえりなさいませプリンセス‼」」」
「おかえりなさいませプリンセス。お初めてでいらっしゃいますか?」
あ、初回みたいだ。バレットさんが対応してる。
「ええ、魔王はいるかしら?」
「魔王、おります」
バレットさん即答! 魔王様いるけど接客はしないよ? ちょっとは迷わないの⁉
魔王様目当てで来るなんてどんな人族だろう……。
再びカーテンの隙間からフロアを覗いてみた。
バレットさんに案内され歩いている女性の後姿は……ミディアムロングの青髪に毛皮のコートを羽織っている。腰に差していたレイピアっぽい物はソファへ置き、席に座った。おお、キリッとしたクールビューティーさんだ。
そして毛皮を脱ぐと……ビ、ビキニアーマー⁉ なぜっ⁉ ダンジョン帰りなの⁉
冒険者のお客様は珍しくないけど、みんなちゃんと装備を外しておしゃれして来るのに……。
「あっ! サシャさん!」
「え? サシャさんホントに来たの?」
「サシャさんだ!」
アルディナさんが、ホールを挟んで斜め向かいに座っているビキニアーマーさんへ手を振っている。
……お知り合いなの? お嬢様たちが冒険者と?
「こんにちは! 来ちゃった!」
サシャさんもアルディナさん達に手を振っていた。本当に知り合いらしい。
彼女達はそれ以上はしゃぐことはせず、バレットさんがサシャさんにシステムの説明を始めたようだ。
「最後に、こちらをご覧になって気になるナイトがいたらお申し付けください」
「はーい。ところで魔王は?」
「失礼、プリンセス。ここでは代表もしくはエグゼクティブエンペラーとお呼びくださいませ。代表は200万ディル以上のお酒が入ればいらっしゃいます」
バレットさんんん! いきなり魔王様出現の隠し条件をバラしてる! 初回に煽ってるよぉ!
「200万……やはり聞いた通り……そう簡単には姿を現さないって訳ね?」
サシャさんがギリッと歯を食いしばり顔を歪ませる。かと思った次の瞬間、シュバッ! と立ち上がった!
「……ならば力ずくよっ‼ 魔王に会わせなさいっ‼」
えっ⁉ どういう事⁉
……もしかしてこの人……魔王様討伐に来たの⁉ だから完全武装で⁉
どどっどどど、どうしようっ!!!!!
投げた食材をしゅぱぱぱぱっ! ってやるの、一度はやってみたいですよねぇ。
11/17(水)はお休みします(∩´ω`∩)




