ラウンツ:四天王戦 死蝶
アタシは樹のオブジェを担ぎながら魔力感知をした。
……広場をぐるりと囲む家屋に生き物の魔力は無い、魔王様達以外は。一般人は避難したようね。
ああでも、近付いてくる魔力をかすかに感じるわ。固まっているのが兵士で、バラバラなのは勇敢な冒険者でしょう。
「さぁ……殺りましょっ♡?」
「…………いややーーーーー‼ そんな太いのケツに入らんてぇーーーーー‼ 犯られるぅうううううう!!!!!」
改めて広場を目視で確認。広場に面し、連なる建物の前には小さな屋台がずらりと並んでいる。
……建物の代わりに犠牲になってもらいましょう。
「んじゃっ! イクわよぉっ! うぉおおおおおーーー!!!!!」
「アカンて!」
アタシは手始めに大振りの攻撃を仕掛けた。
大木を両手で振り上げ勇者ちゃんへ突進! これくらい避けられるわよネッ⁉
「いやぁあああーーーーー!!!!!」
ドガァッ!!!!!
大木が広場の石畳を舞い上げる。
「んもうっ! 避けるなんて情けないわネッ!」
「当たったら死ぬやんけぇーーー!」
「リュー! 今回は間に合ったぞ!」
「あっ! レクサスさん! 助けてや⁉ 俺のケツが狙われとる‼」
アラッ? ……昨日いたイケメン人族ネッ! ギャラリーは歓迎よぉっ☆
「尻? ──ぐあぁっ‼ なんて凶悪な装備だ! 防御力0なのに最狂の破壊力……っ!」
「せやねん! あんなん卑怯やろ⁉ 目から摂取するタイプの毒や‼ いっそ裸ならええのに!」
「これは……手強いぞ! 私が隙を作る、リューは急所を狙え!」
「おうっ!」
勇者ちゃんとレクサスちゃんが剣を抜きアタシに跳んでくる! いいわよぉっ! 頑張んなさいっ!
アタシは勇者ちゃんとレクサスちゃんの剣を大木で受けながら、ついでに屋台を破壊した。
続々と集まってきた冒険者達、兵士達も四方八方から武器や魔法で攻撃してくるケド……第三部隊の地獄の特訓で泥水をすすったアタシには屁でもないわぁーーーっ‼
「おいっ! ヤツに当たってないぞ⁉」
「違います! 魔法は当たってます! ヤツに効かないだけですっ!」
「はぁっ⁉ そっちの方が問題ではないかっ‼」
「隊長! アイツの身体、剣をはじくんですッ! チマチマやっても倒せませんっ!」
「クソッ‼ 大砲はまだ来ないのかっ⁉」
「移動中ですっ!」
アレイル兵ちゃんも焦ってるわネッ! 金鬼の設定はバッチリ☆
それにしてもあの隊長さん、アタシのタイプ──アッ! いけないいけない、戦闘中だったわっ!
「アンタ達の本気はそんなモノなのぉーーーーーッ⁉」
アタシはまず、勇敢にもこの場で戦う事を決めた冒険者達に狙いを付けた。
「アタシの攻撃っ! かわしてみなさいっ!」
屋台の近くにいた一人の冒険者に向かって大木を振り下ろす!
──ドンッ!
屋台がぺしゃんこ! 気持ちイイわぁっ! ……ギリギリ避けさせた冒険者は逃げた。
「まだまだイクわよぉっ! うぉおおおおおーーー!!!!!」
アタシは右腕に抱えた大木で屋台をなぎ倒しながら、円形の広場を一周した。途中、飛びかかってきた人族は左手でハエ叩きしたわっ☆
「……ふうっ! ちょっち広場が広くなったわネッ☆」
パチン☆ と可愛らしくウィンクして人族を見回す。
「ダメだ……魔族……強すぎる……」
「これが……『破壊の乙女』……」
「隊長! 四天王が出現したら魔王が責任を取ってくれるんですよね⁉ 魔王はまだですか!」
「うろたえるな! アレイルを守る最後の砦は私達だ! 魔王なんぞに頼るな! ……一斉攻撃だ! 物量を一点に集中させる一斉攻撃しかないっ!」
「「「……はいっ!」」」
アレイル兵が移動を開始した。
めげずに次の作戦ってコトね? ンッン~……イイわぁっ!
「おいっ! 勇者! 我々が協力するっ! 魔族を倒せ! 聖剣の力は本物なのだろう⁉」
「……え? 俺? いやぁ、隊長さんに任せ──」
「リュー! アレイル軍との共同戦線だ! 聖剣を持つリューだけが頼りだ! 頑張るぞ!」
「えっ⁉ ちょっ、レクサスさ~ん!」
ンフッ! 勇者ちゃんもレクサスちゃんに引っ張られてアタシの目の前に戻ってきたわぁっ!
アタシは地面を蹴って跳び上がり、大木を構えた。
視界の端々に大砲と人族が見える。どうやら到着したみたいね。
人族よ……この奇怪でおぞましい魔族の姿に驚きなさい。そして慣れなさい。
人族よ……魔族の力に怯えなさい。そしてその身をもって実感しなさい。
人族よ……この四天王戦を後世に伝えなさい。そして備えなさい。
なぜなら……現魔王様が崩御された後の未来、もし過激派が人界へ来たら……アナタ達は理解する間もなく炭と化するのだから……っ!
アタシの仲間がたくさんいるオルガ街……きっとこの街にだって仲間がいる。おネエは魔族だろうと人族だろうと仲間よぉっ! 過激派なんかに負けないでっ!
この四天王戦はそう、人族にとって過激派との模擬戦。
魔王様がこんなにも深く魔界と人界の事をお考えだったなんて……アタシもその意志、引き継ぐわぁっ!
「勇者ちゃんっ! イクわよっ☆‼」
アタシは下にいる勇者ちゃんめがけ大木を投げ放った。
「今だっ! 撃てーーー!!!!!」
上空で丸腰のアタシに向かって砲弾と魔法が一斉射撃される。身体強化だけでドコまで耐えられるか勝負ネッ☆
ドドドドドドドドンッ! ドドンッ! ドンッドンッ! ドドドドンッドンッ!
──くぅーーーーっ! 流石に一斉射撃はキツイわぁっ! 魔力で撃ち放たれた鉄球と数々の攻撃魔法、ジェニーさん並みの攻撃力よっ! 合格だから落ちてあげるっ☆
ドゴォン……! ──
「リュー! 大丈夫かっ⁉」
「レクサスさ~ん! 何とか避けたわ~……アイツは⁉」
「アレイル軍の砲撃で落ちた! トドメだリュー!」
「よっしゃ! トドメなら任せてや!」
アタシは仰向けで地面に落ちる際、コッソリ転移石板を背中に隠した。
準備は万端! さぁ! 勇者ちゃん来てっ♡
ダダダッ! と勇者ちゃんの足音が聞こえる。
「げぇっ! 胸のリボン吹っ飛んでるやん! 目ェ腐った! 死ぬっ‼」
「負けるなリュー! その呪いの装備ごと破壊してくれっ!」
「汚れ仕事やんけぇ! 触りたないぃ! 激アツ勇者ストレートフラーーーッシュッ! 激アツ勇者ストレートフラーーーッシュッ!」
勇者ちゃんのトドメが斬撃じゃなくて聖魔力の放出、つまり魔力攻撃なのはラッキーよぉっ☆ 楽に転移できるわぁっ!
さすがに聖剣で斬り付けられたら大ダメージは免れないもの……。
「ぐぁあああーーーーーっ!!!!!」
断末魔を上げると共に最後の悪あがきっぽく闇魔力を放出。
アタシは〈黒霧〉を使えないケド、黒い闇魔力を放出するだけなら出来る。聖魔力を中和する効果しか無いケド、仕込み道具を隠す目くらましにもなるわっ!
さぁ魔王様に合図しなきゃ!
『魔王様っ! 転移するわぁっ☆』
『了解』
闇に紛れて仕込みの鶏肉と血糊をばら撒き、転移石板に魔力を込める。石板の回収は魔王様が上手くやってくれるハズ。
アタシのメッセージ……人族ちゃんへ届け、この想いっ☆
届け、この想いっ☆ だそうです。
ラウンツさん視点終わり(;´Д`) ご馳走さまでした。
11/9(火)はお休みします(∩´ω`∩)
あらすじと11~13話を改稿しました。




