ラウンツ:魔王様の敗北と罪
やっと四天王戦に戻ります。
魔王様がアタシの部屋の椅子に腰掛け、膝に両肘をついてうなだれた。
「……はぁ。覚悟は出来てる、言ってみろ」
どんな人の話でもまず「聞く姿勢」から入ってくださる魔王様。魔界での人望が厚いだけの事はあるわっ☆
「ウン……あのネ、魔王様。アタシの四天王装備なんだケド……」
アタシは亜空間から、仕立て屋パウリーで受け取った勝負服と黒タイツを取り出した。
「……流石ラウンツ、俺様の期待を裏切らないぜ……。でもこれ装備じゃねぇだろっ‼」
「オンナの勝負服はコレよぉっ! ちゃんとタイツで妥協したわぁ!」
「彼氏の前でだけ着ろよ‼」
「人界征服中はカレシなんて出来ないものっ! そういう意味では魔王様にも責任があるわネッ☆」
「チクショウ‼」
「魔王様! アタシ……やっと勇気を出せるの! 勇者ちゃん、勇敢なる者と対峙するに相応しい装備はコレなのよぉっ! アタシが『オンナ』になるため勇気を出す機会、つまり四天王戦を逃したくはないのぉっ!」
「ッダァーーーーーッ! 勇者の勇気とお前の勇気は性質が全く異なるんだよっ‼ 女装の動機がなんで四天王戦なんだっ⁉」
魔王様がこう仰ることは予想していたわ。でも……ここからよっ!
「……魔王様、アタシ真剣なの。聞いて? ……近衛隊のアタシが人界に来て何を思ったか──」
魔王様はじっとアタシのお話を聞いてくださったわ。
「……あーもうー! わーったよ! アーニャ達だってコスプレしてるし好きにしろ!」
「魔王様もちょっぴりアタシを楽しみにしてるクセにっ☆」
「……くそっ! あ……そういえばアーニャが確実に死ぬぞ⁉」」
「アーニャちゃん達が本気でアタシを嫌がっていないのは分かってるわぁっ! ソコんトコ間違えたらおネエの人権が無くなるのは必至。ちゃぁんとアタシは敏感よぉっ! ウフッ♡」
「お前……パウリー達の事忘れてないか?」
魔王様が震えながら唖然とした。
アラッ⁉ どうしたのかしら? 忘れてないわよぉっ!
「パウリーちゃん達は勝負服を作る事に生きがいを感じてるから、アタシ達の仲間よぉっ! このタイツもアタシの貞操を守るため必死に……感激しちゃったわぁっ☆」
「お前スゲーな……まぁパウリーはいいや。でもよぉ、人界にいるおネエの魔族なんてラウンツくらいしかいないから流石にバレるんじゃねー? まだアレイルにはディメンション出店しないけど、オルガとルーガルに噂くらいは流れるぞ? そこんとこどうすんだ? ぁあ?」
「ソコはアタシの架空の姉が四天王ってコトで……。そしてアタシは姉を止めるため、そしてその罪滅ぼしのため人界へ来たのよぉっ☆」
「……もうそれでいいや。面白いし」
やったわぁっ! 流石魔王様、アタシの気持ちを受け止めてくれた! ジェニーさんがガチ恋なのも頷けるわネッ☆
「魔王様……ありがとうございます。魔王様がアタシを開放するために、ジェニーさんの班に配置してくださったのは分かっているわ……。本当に、本当に、ありがとうございます……」
ずっと魔王様に言いたかった言葉……。
アタシは魔王様の目をしっかりと見て言った。
そして右拳で左胸を叩き、改めて魔王様への忠誠をその心臓に刻み込んだわ。
魔王様への忠誠を誓う時は武器を捨ててでも右手で行う。それが魔王軍の敬礼よ。
「……別に、気の合うヤツがいた方が楽しいだろうと思っただけだ。チームワークは大事だからな!」
「アタシと気の合う人。その人を見つけるのがアタシにとっては最大の困難だったのよ、魔王サマ……。そして魔王様のおかげでアタシは今日! 本当の自分をさらけ出せるのっ! ありがとっ☆」
「……完全に俺とジェニーが開花させちまったな……。ここまで見事に咲くとは……俺は罪深い男だぜ……」
「四天王戦で一花咲かせるわよぉっ☆ 任せてっ!」
「誰うまだよ……。まぁ……頑張れ……」
「モチのロンよぉっ☆ じゃっ! アタシは準備があるからちょっち出掛けて来るわネッ!」
「おー行って来い……準備が出来たら念話しろ」
アタシは魔王様に飛びっきりのウィンクをバチコン☆かまして、「カマぱら」へと急いだわっ!
──────────────
思ったより時間がかかったケド、準備が出来たアタシは魔王様に念話してアレイル都市へ転移させてもらった。
そして無事四天王として登場し、アーニャちゃん達を喜ばせたわぁっ!
アトは……勇者ちゃんを探して広場で戦って死ねばオッケーネッ☆
「ンッン~……勇者ちゃんはど・こ・か・し・らっ? 今迎えにイクわぁっ☆」
勇者ちゃんくらい大きな魔力ならアタシでも感知できる。聖剣の強い聖魔力とセットならなおさらっ! 上空を真っすぐ飛んでイクわよぉっ☆
それにしてもこの格好……分かってたケド寒いわぁっ! でもモモちゃんが「寒いのは女子の宿命」だって……アタシ頑張るっ☆
そして一軒の大きな建物に辿り着いたアタシは入口ドアを引き──
バキッ! ──ドンッ!
そのまま力ずくでドアを外し右へ投げ放ったわっ!
だって魔王様から「適度に街を壊せ」って言われてたんだものっ! ゴメンナサイッ☆
「……うわぁあああ‼ 何なんだアンタ! っ魔族⁉ いや、オカマーーー!」
カウンターにいたおじちゃんがビックリしてる。ホントごめんなさぁい! アタシの美貌に免じて許してっ☆
「失礼ネッ! アタシは女子よっ! でもドアを壊したのと相殺してあげるわぁっ! ちょっちお邪魔するわよぉっ☆」
バチン☆とウィンクで非礼を詫びる。
「ひぃ!」
アッ! まずい! 勇者ちゃんの魔力が動いてる! アタシに気付いたのネッ⁉ 逃がさないわよぉっ!
階段を駆け上がり、勇者ちゃんがいるであろう部屋のドアをまた破壊し、ついにその人物を捉えた。
オシャレなモノトーンコーデのチャラい金髪の青年、リュー。
「ぎゃぁーーーっ! なんやあの恰好! 犯罪やろ‼ 死や! 死!」
「げぇーーーっ! 今度はオカマ‼ 目ェ腐る! ミルム! 俺が先ぃーーー‼」
窓に足をかけ、逃げ出そうとしているミルムちゃんを勇者ちゃんが引っ張ってるわっ! 相変わらず男の風上におけないクズネッ☆
でもこういうダメ男の面倒を見ちゃう気持ちも分かるわ……母性本能なのよねぇ。
「ンフッ♡ 勇者ちゃん見つけたわよぉっ! ちなみにアタシは女子よっ! 失礼ネッもう! そ・れ・で♡ ちょっちアタシに付き合ってっ☆」
「アカン! 俺にはミルムという嫁がおるんや!」
問答無用で勇者ちゃんの首根っこを掴んで引きずる。ミルムちゃんは逃げてもいいからアタシ達は入口から出ましょう。
「そういう意味じゃないわよぉっ! アナタ全然筋肉が無いじゃない! んもうっ!」
「細マッチョなんや俺は! って、ミルムーーー! 助けてーーー‼ 俺のケツの穴が危機やーーー‼」
「リュー……自分の事は忘れへん……今までありがとう……」
「ミルムー! ミルムー! 薄情モンーーー‼」
ジタバタする勇者ちゃんを引きずったまま外へ出たアタシは、〈飛行〉で勇者ちゃんごと広場へ向かったわ!
「げぇっ! 飛んでる! 俺高所恐怖症やからホンマやめてぇえええええーーー!!!!! タマがヒュッ! てなるねん!」
「んもうっ! さっきから女子に向かってお下品よぉっ! もう着くわぁっ!」
左手でウィッグを、右手で股間を押さえたポーズのままの勇者ちゃんを広場へと降ろす。
「改めて自己紹介するわ! アタシは四天王が一人! 『破壊の乙女』よぉっ☆ あ、金鬼を宿してるわネッ! おかげで全てをはじく鋼の肉体を手に入れたわぁっ☆」
ちゃんとレイスターちゃんが考えた設定をお話ししないと後で怒られちゃうわっ!
「魔王ーーー! 助けてーーー! 四天王来たーーー!」
でも勇者ちゃんは聞いてない……魔王様を呼んでるわぁ……。とにかくアタシと戦わせないとっ☆
「魔王……? やはり勇者ちゃんに加担し『片翼の堕天使』……いえ、風鬼を封印したのは魔王だったのね……愚かな王よ! アタシ達が魔王に代わり人族を殺戮してあげるというのにぃっ! キィイイイーーーーー‼」
アアンッ! ごめんなさい魔王様っ! いくら設定とはいえ、魔王様を貶める台詞は心が痛いわぁっ!
それでも……この戦いはアタシのため、そして人族のためやり切らなくてはならないの……ッ!
アタシは怒りの演技に身を任せ、広場の大きな樹のオブジェ、その根元を拳で殴った。
──ッドォン!
折れた金属の大木を肩に担ぎ、女性らしい妖艶な笑みで四天王らしくこうキメる。
「さぁ……殺りましょっ♡?」
「…………いややーーーーー‼ そんな太いのケツに入らんてぇーーーーー‼ 犯られるぅうううううう!!!!!」
寒くてもアタシ頑張るっ☆ だそうです。
解説者ニーナ死亡中のため次回もラウンツさん視点!
11/7(日)はお休みします(∩´ω`∩)




