ラウンツ:蛹(さなぎ)
その日アタシは近衛隊結成のお話で魔王様の私室に呼ばれた。
「ようラウンツ! お疲れ! まぁ座れよ」
「はっ!」
「ラウンツの事はジャン、ジェニーから聞いてるぞ。ははは! それでだな、近衛隊の件だけど、ラウンツにはハッキリ言っておく」
(エッ⁉ な、何かしら……)
「まずさ、俺様は最強なのに専属護衛の近衛隊なんて必要ないと思わないか?」
「言われてみれば確かにそうです……ではなぜ……」
(魔王様の発案よネッ⁉ どういうコトっ⁉)
ゴクリと唾を飲み込んだアタシに魔王様はこう仰った。
「近衛隊はな、過激派を監視するために作る。つまり過激派の疑いがあるメンバーを集めた、リオルとラウンツ以外はな。……ラウンツの役目は分かったか?」
「……リオル様とアタシは第二の魔王様の目……」
「ピンポーン! おネエのコミュ力は相手の懐に入り込みやすい。そしておネエは初対面の相手の判断を狂わせる。おネエを差別するような奴はそれはそれで分かりやすくていい。つまり、お前はリトマス紙だ!」
(過激派……ウワサには聞いていたケド……。何てこと……魔王様自らメスを入れる程の事態になっているのっ⁉)
「……かしこまりました」
アタシは魔王様に深く跪き、己に課せられた責任の重さで崩れ落ちそうになるのをグッと我慢した。
ちなみに、アタシが近衛隊に抜擢されたことを知ったジェニーさんは、ハンカチを歯で引きちぎりながら「魔王様とお近付きになれるなんて羨ましいっ! ランちゃんにオンナとして負けたわぁんっ! キィエエエエーーーーー!!!!!」と言っていたらしいわ。
ハンカチを噛むのではなく引きちぎったと聞いて、アタシは人生最大の覚悟をもってジェニーさんへ釈明しに行ったの。
でも仲間が事前に「落ち着けジェニー! ラウンツの好みは魔王様と正反対、ガチムチだ!」と根回しをしてくれていたおかげで、冷静になったジェニーさんから「頑張って魔王様にアチシのアピールをしてきてぇんっ♡」という追加ミッションを受けることになったわ。
近衛隊に配属されたアタシのおシゴトは、同じく各地から寄せ集められた近衛隊員と仲良くなることだった。
首都ラザファムではある程度「おネエ」の概念が浸透していたから、ジェニーさんのおかげもあって魔王軍本部でアタシがあからさまに邪険にされるコトは無かった。
ケド、地方出身者の多い近衛隊ではそうもいかなかったのが現実。
でもアタシはそんな事でヘコんだりしない。
だって「おネエはエンターティナー」。そう、ジェニーさんの言葉があったから。
アタシは変わらずおネエ全開で明るく振舞い、関わった相手の反応をうかがい、仲良くなればその人となりを記録し、魔王様に報告書を提出した。
それがアタシへの秘密指令だったんだもの。
……だケド、近衛隊の仲間を疑わなければならない事は辛かったわ。
だから定期報告書に、近衛隊員の長所も付記したのはアタシの罪悪感を薄めるため。そして「このコはきっと過激派という程ではない」、そんな願いを込めた。
幸い、近衛隊員は前魔王様とリオル近衛隊長にえげつない戦闘訓練を課せられ、戦闘欲求が満たされているようだった。
(最初は、近衛隊なんて結成してしまったらかえって過激派の結束が強まるんじゃないかって懸念していたケド……勘のイイ過激派は近衛隊が体のイイ檻であるコトに気付いているわ。もしクーデターが起きても魔王様が近衛隊を一掃すれば一瞬で終わる。いえ、むしろ膿を絞り出せる。魔王様はそれすらも見越していたというの……? コトが起こる前にもう、すでに魔王様の勝利なのだわ)
さらに月日が経ち二十三歳の初夏、アタシはまた魔王様の私室に呼ばれた。
「ようラウンツ! お疲れ! 人界に行こうぜ!」
「エッ⁉ 人界へ⁉ ついに人界征服かしらっ⁉ もしかして近衛隊を?」
(近衛隊を抑えきれなくなったのかしらっ⁉ でもそんな動きはまだ……。それとも魔王様の方針が転換してしまったのっ⁉)
「違う違う、近衛隊は現状維持だ。ホストクラブを開くぞ!」
「……ホストクラブ……とは……?」
そしてアタシは魔王様の「ホストクラブで人界征服作戦」のお話をじっと聞いた。
魔王様が仰るには、アタシのおかげで近衛隊員の思想調査も大体終わったし、ちょうどタイミングがいいから人界征服メンバーになれとの事。
「ラウンツはリーダー兼、賑やかし要因だ! ははは!」
「そういうことネッ! アタシがみんなを笑顔にするわよぉっ☆」
「おう! 期待してるぜ! あ、そういや人界ならオカマバーがあるかもな。魔界には無いけどたまに行きたくなるんだよ……怖いもの見たさっつーかよぉ……」
「……オカマバー?」
「ああ、ラウンツやジェニーみたいなやつが集まる酒場だ」
「……‼ イクッ! イキたいわぁっ! 魔王様お願いっ☆」
(そんな聖域があるのっ⁉ 人界にはあるかもしれないのネッ⁉ 絶対に探し出してジェニーさんと行きたいわぁっ!)
「ははは! じゃぁラウンツが探してみろ! 無かったら魔界にでも作るか~。まだまだトランスが生き辛い世の中だからな」
(トランス……? それよりっ!)
「魔王様っ! オカマバーの話をもっと聞かせてちょうだいっ☆」
「あん? 仕方ねぇな~。えっとな──」
──────────────
そしてアタシは人界征服メンバーとして人界に乗り出したわ。
ジェニーさんからは「絶対オカマバーを見つけてきてぇんっ! それがお土産よぉんっ⁉ あ、アト……魔王様へアチシのアピールも継続でシクヨロッ☆」という言葉で送り出された。
人界ではイロイロあってオルガ街でオカマバーを見つけて、モモちゃん達という新しい仲間も見つけた。
あとアタシがこなすべきミッションは、魔王様へキチンとお礼を言うコト。
アタシがおネエとして堂々と生きる道を与えてくれた事に。
今までタイミングが無かったのは……いつも魔王様のお側にリオル隊長がいらっしゃったからよぉっ!
やっと魔王様と二人っきりでお話しする機会があったと思えば、その度にビックリするニュースを聞かされるんだものっ!
近衛隊の発足とか人界でオカマバーとかっ! もうっ!
ジェニーさんからのミッションだケド……あれはおネエジョークだから、あえてスルーするのが相棒ってモノよぉっ☆
最後に……アタシ自身のミッション……。ついにこの時が来たわぁっ!
ディメンション二号店、二回目の決戦日の直前、勇者の地位確立のために噛ませ犬の四天王が発足された。
そこでアタシはピンときたわ。
(勇者に倒される悪役……つまり四天王は「裏の顔」でなくてはならない……三号店出店の際に、アタシ達イコール四天王だとバレないためには変装が必要ネッ☆)
そしてアタシはアーニャちゃんに変装の提案をした。アーニャちゃんは「正体を隠すための変装」って言葉に目を輝かせていたわぁっ☆
変装と決まれば、早速ジェニーさんへも相談をしなくっちゃ!
『ジェニーさんっ! ちょっちご相談があるんだケド……』
『あらぁん! ランちゃん昨日ぶりっ! 何かしらぁん?』
『これは魔王様の秘密ミッションだから詳しくは言えないんだケド……近々、勇気ある者と戦わなくっちゃいけなくって……。しかも変装が必要なのよぉっ!』
『……ランちゃんの言いたいコトは分かったわ……。つまり、ランちゃんも勇気を出してその者に立ち向かわなければ、相手にも失礼ってコトねぇん⁉』
『さすがジェニーさんっ! ……アタシの背中、押してくれるかしらっ⁉』
『モチのロンよぉんっ! ついにランちゃんの封印を解放する時が来たのねっ! キャァンッ☆ アッ! 装備はどうするのっ⁉ 例の勝負用のヤツかしらっ⁉』
『そ、そのつもりよぉっ! ……アトは……お化粧なんだケド……』
『ンン~……アタシがしてあげてもいいケド……アッ! ホラッ! モモちゃんだっけ? 人族に仲間がいるって言ってたじゃなぁいっ!』
『アッ! ……モモちゃん達ネッ⁉ 忘れていたわ!』
『そのコ達に任せた方がイイわぁっ! アチシは魔界だものぉん!』
『ジェニーさんありがとっ☆ 早速モモちゃん達に相談するわぁっ☆』
『ランちゃんっ! ガンバよぉんっ!』
二回目の決戦日の翌日、アタシとアーニャちゃん、レイスターちゃんは、朝早くから四天王の変装について改めて話し合ったわ。
途中でニーナちゃんとメイリアちゃんも参加して、各自四天王装備を用意するコトになったの。
アタシはモモちゃん達に相談しに行くから、レイスターちゃんを応援するため、彼がアーニャちゃんと二人っきりでお買い物に行けるよう差し向けたのはただのおせっかいよっ☆
そしてアタシは朝食後、早速モモちゃんのお店に行ったの。
魔王様が60話でオカマバーに行った理由が判明w
11/1(月)はお休みします(∩´ω`∩)




