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ラウンツ:静かなる目覚め

先に謝罪します。ラウンツさん回想が七話くらい続いてしまいます。

だって私がラウンツさんの話読みたいんだもん! 大好きなんだもん!

 アタシは物心ついた時から斧や木剣を振り回していたケド、本当は女のコとおままごとや魔王様ゴッコで遊ぶ方が好きだった。

 でもなぜかいつもアタシは「お父さん」か「魔王軍」の役しかやらせてもらえなかったわ。ホントは「お母さん」や「魔王妃さま」がやりたかったのに。

 そんな漠然とした違和感を覚えながら過ごしていたケド、泣き虫なアタシが「女男」ってからかわれるようになってやっと気付いたの。


 アタシは「男のコ」なんだって。


 アタシの父は町の憲兵をしていたから、父は体格に恵まれたアタシに戦闘の才能を期待していた。父の夢であった魔王軍への入隊を切望され育ったわ。

 本当は料理人になりたかったケド、父によって無理矢理戦闘訓練をさせられた。「お前の女々しい根性を叩き直してやる」ってネ。


 そう、アタシはいつも泣き虫で、ビックリすると「キャッ!」って言っちゃうし、「クネクネするな!」ってよく怒られたわ。「そんな事で魔王軍選抜試験に合格できるとでも思っているのか!」ってネ。

 だからいつからか、「ちゃんと男のコっぽい喋り方」で話すようになったわ。家族の世間体のために。




 アタシは十二歳で学校を卒業したあと、木材屋で下働きをしながら鍛えていたわ。

 そして十五歳の成人を迎え、魔王軍選抜試験を目前に控えたある日のコト。魔王軍に入隊した従兄(いとこ)のバーラントお兄ちゃんが里帰りで帰って来たの。

 アタシはムッキムキでこの町最強だったお兄ちゃんが大好きだったし憧れていたから、それはもう嬉しかったわ!

 だって……きっとアタシの初恋はバーラントお兄ちゃんだったんだもの。


 そしてお兄ちゃんに手合わせをしてもらった後、お話ししたの。


「バーラントお兄ちゃん……僕、魔王軍に入ったら男らしくなれるのかな?」

「ラウンツは男らしくなりたいのか? 魔王軍に入りたいのか?」

「……ウウン、ただの料理人になりたい。だけどお父さんが魔王軍で根性を叩き直せって。でもバーラントお兄ちゃんみたいになれるならお父さんの言う通り魔王軍に入ってみてもいいかも……」

「……俺はラウンツの事をよく知っている。お前らしく好きに生きたらいい。でもな、そのためには自立する必要がある。その自立のためにこの町を離れて魔王軍に入隊してみるのもアリなんじゃないか? 魔王軍ではとてつもなく辛い訓練が待っているけどな。だが……現魔王様に代替わりしてから選抜試験には必ず魔王様が視察にいらっしゃっていて──」

「あ……そういえば試験の季節になると、お母さんが『魔王様を唯一拝見できる機会』って喜んでる」


 現魔王様は普通の魔族と違い、少ない魔力で転移魔法を一日に何度も使えるから、毎年各地域で行われる第一次選抜試験すべての視察にいらっしゃっていた。アタシも何度か遠巻きに魔王様を見たコトがあったわ。


「……ラウンツ、試験で魔王様のお目に留まれ。そうすれば魔王様とお話し出来るかもしれない。俺は軍に入隊する際、魔王様に面接をされた。魔王様は変わったお方だ。だが人を見る目はすごいものがある、人の本質を一瞬で見抜いちまうって感じだ。魔眼のおかげなのかな? とにかく、魔王様ならラウンツの生きる道を見つけてくれる気がするよ、俺は」


 バーラントお兄ちゃんの言っている意味はよく分からなかったケド、生まれ育ったモドラ町でどこか生き辛さを感じていたアタシは選抜試験を受ける事に決めた。

 お父さんは「魔王軍でシゴかれればラウンツの女男が治るな!」と嬉しそうだった。




 そしてアタシは近くのゴマイ街で行われる一次選抜試験に参加した。

 ……でも、アタシは魔族のクセに魔法が苦手で、戦士に必須の身体強化と一瞬で高速移動する〈縮地〉しか使えなかった。生活魔法も使えるケド、戦いでは目くらましくらいにしか使えない。


 ともかく、お兄ちゃんから「周りの目は気にするな。魔界では強者が勝者だ!」と励まされ、アタシはなりふり構わず選抜試験の試合で戦った。

 必ず魔王軍に入隊する、だからもうモドラ町でもゴマイ街でもどう思われようと関係ない! って腹をくくったの。




「それでは、5番と6番、試合開始!」

「イクわよぉっ! うおぉおおおおおーーー!」

「んなっ! 〈炎天〉!」


 「身体強化と〈縮地〉を極めろ! あとはお前の筋肉で押し通せ!」バーラントお兄ちゃんの声がアタシの脳内でエールを送ってくれた!


 ──ドンッ!


「おいっ! ウソだろっ⁉ 死ぬ! 降参!」


 アタシの大剣をスレスレで避けた試合相手が、アタシが地面に作った大きなクレーターを見て戦意喪失した。

 アタシは〈炎天〉をモロに食らって火傷したケド、そんなもの後でポーションで治せばいい。


「はははは! スゲー馬鹿力だな! 面白いから6番通そうぜ!」


 ハッ! ま、魔王様がアタシを見ててくださった⁉


「ラウンツは女男だ! 魔王軍にはふさわしくないです!」


 いつもアタシを泣かせていた幼馴染が声高に叫んだ。


「あん? 相応しいか相応しくないかは俺様が決める」


 魔王様の有無を言わせないその物言いに場は静まり、何事も無かったかのように選抜試験は再開された。




 結局モドラ町で二次試験に行けたのはアタシだけだった。

 試験会場である魔王軍の訓練場に集められたアタシ達二次試験者は約百人。

 また試合があったケド、魔法が苦手なアタシは健闘むなしく負けてしまった。


 でも二次試験はそれダケじゃ終わらなかった。魔王軍部隊長のうちランダムで一人と、魔王様による面接があったの。


(面接って……お話しするのよね? 何を話せばいいのかしら……バーラントお兄ちゃんは何も教えてくれなかったわ)


 面接会場は魔王城敷地内にある魔王軍本部の一室。

 筋骨隆々の魔王軍部隊員に入室を促される。


「失礼します! モドラ町出身、ラウンツ十五歳です!」

「おう! 座れ」

「はいっ!」

「リオルリオル! こいつ、ラウンツは脳筋だ! ははは!」

「魔法が苦手という事でしたね……あと第五部隊にいるバーラントの血縁者とか」


 魔王様にリオルと呼ばれた部隊長は、銀髪の短い三つ編みを左肩に垂らした、女性のように端正な顔立ちのお方だった。


(……魔王様もリオル様も美しすぎるわぁ! でもアタシはバーラントお兄ちゃんみたいなヒトが──アッ! いけないいけない、面接中だったわっ!)


「ま、魔法は苦手ですが、その分筋肉がありますっ! この体格を生かせと父に鍛えられてきました! 魔法ももちろん精進します!」

「おう、ラウンツの物理攻撃には目を見張るものがあるな! ところでよぉ、ラウンツっておネエ?」




 おネエ。


 それがアタシの属する新しい世界だってこの時初めて知ったの。




初めて知ったの。だそうです。

10/25(月)はお休みします(∩´ω`∩)

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