完成! 魔王様名刺
うぅ……頭が……頭が痛いぃいいい! 完っ全に二日酔いってやつだ!
ナイトさん達は毎日こんな辛い思いを⁉ そしてメイリアさんのユニークスキルはこれより痛いんだろうな……。
ともかく、飢えた身体を満たすため、水魔法でコップに出した水を一気飲みする。
……今日は確かエルドラドで看板作り。でも行くのはナイトさん達だけかぁ。看板が出来上がったらリサさんに見せてもらおうっと!
あっ! 私の魔王様名刺は⁉ もう一週間経つから出来てるかも!
ドルムさんに念話したら、ちょうど出来上がったとの事。魔王様に内緒で取りに行かなきゃ……メイリアさんと作戦会議だ!
急いで身支度をしダイニングへ出た。メイリアさんとラウンツさんコーディさんがいる!
「ニーナちゃんおはよっ☆」
「おはようございますラウンツさん! 魔王様の今日の予定ってご存じですかっ⁉」
「ンン~、いつも通り午前中はメイリアちゃんと魔界で、午後からムーバーイーツと四天王戦じゃないかしらっ☆」
……くっ! 魔王様はずっとメイリアさんか私と一緒だ! メイリアさんと一緒に魔王様名刺を取りに行きたかったのにぃ! 魔王様邪魔ぁ!
メイリアさんと念話で、どうやって魔王様を撒くかの作戦会議を始めたら魔王様が転移でいらっしゃった。
「おはよう! いやー昨日はめでたかったな、ははは! レイスターとアーニャは早めに親への報告をさせたいな~。こういうのは会ってするモンだからな!」
ハッ⁉ これはチャンス!
メイリアさんへ視線を送ると、聡明な彼女は瞬時に私の意図を理解してくれた。
「……魔王様……本日の魔界キキュー育成終了後、私をここへ送って下さった際にその二人を連れ、再度魔界へ行かれるのはいかがでしょう……」
メイリアさんナイス! 絶対に結婚報告に付き合うであろう魔王様が人界にいない間に、私とメイリアさんがドブグロに行ける!
メイリアさんの体調が心配だけど、メイリアさんの忠誠心なら這ってでも名刺を取りに行くはず! 誰にも彼女を止められないっ!
「あん? あー……そうすっか! メイリア、ニーナ、ちょっと厨二夫婦を起こしてこい」
「はいっ!」
「……はい……」
やったぁ! ウッキウキでお兄ちゃんを叩き起こしに向かった。
「んじゃその後ムーバーイーツと四天王戦だな。ラウンツ準備はいいか?」
「バッチリよっ☆ ケド一つだけ魔王様にご相談が──」
メイリアさんが魔王様と魔界へ行ったので、私は一足先にドブグロへ! うへへへへ……先に行ってる分には問題ないよね?
一階バックヤードからディアブロに転移し、隣のドブグロへと走る。
リサさんは今日、看板ナイトさんのデッサンで忙しいからまた今度挨拶に行こう。
「ドッ! ドドドッドルムさ──」
「ニーナ、待っておったぞ! こっちに座れ!」
奥からバッ! と顔を出したドルムさんが悪い笑みを浮かべている。ククク……頼もしい共犯者だ!
「人族からの受注もあったぞい! そっちから見るか? お主らの分はメイリアを待つんじゃろう?」
「はいっ! えと、もう人族から発注があったんですか?」
「見ればわかる……」
不敵な笑みを浮かべたドルムさんが、私の前に三つの豪華な姿絵名刺を置いた。
…………。
うん、知ってた。忘れてただけ。
っんんんんんーーー! 見事なミアさん名刺! 三つ全部装飾も表情も違う! 宝石まで使ってる! 絶ッッッ対! アルディナさんだっ!
「リサさんからミアさん経由でアンナさん、ルナさん、ディアナさんが発注したんですね……?」
「そうじゃ。今その三人のハイド名刺も作成中じゃ……」
「本来の目的の魔王様名刺も普及しているならよかったです……」
「あの三人娘はちと怖かったのう……いい子なんじゃが……」
キラッキラ☆ミアさん名刺を眺め、時間を潰す。
落ち着いてよく見ると、名刺には金属チェーンが付いており首にかけておくことが出来そうだ。
常時推しの顔面を装備するためだな……。さすがドルムさんです! もしかしたらアルディナさんのアイデアかもしれないけど。
魔界の錬金施設からも怒涛の発注が来ているらしく、ドルムさんがデザイン画などを見せてくれた。
……そういえばメイリアさんが布教したんだった。メイリアさんが毎日魔界から発注をもらってくるらしい。なんと予算一千万の人もいるのだとか。……絶対キール会長さんだよね?
お昼が近くなってきたので、亜空間から取り出したホットサンドを食べメイリアさんを待つ。今日はみんな予定がバラバラだからルルさんがお昼を持たせてくれたのだ。
私の魔王様名刺……楽しみだなぁ。
多分今、私の顔は昨日のルルさん達以上にニマニマしてる気がする。フフフ……。
「ニーナ! お待たせ!」
メイリアさんがハキハキ喋ってる! 肩で息してる! めちゃくちゃ楽しみにして来た!
「ドッ! ドルムさんっ! ついに御開帳の時間です! 早くっ! 魔王様が帰ってくる前に早く!」
私とメイリアさんのギラギラした熱視線を受け、パイプをふかしていたドルムさんが慌てて布に包んだ魔王様名刺を持って来てくれた。
メイリアさんと二人で、包んでいる布を震える手でそっとめくる……。
「ついに……封印、開放……ッ! ……ぐぁあああーーーっ! 神々しい! 神々しすぎますっ!」
「……クッ! 直視できない……っ!」
二人でふぁさり……と布を元に戻した。
「っ……ふぅ……。メ、メイリアさんっ! これは禁書に等しいほどのものですっ! どうしましょう⁉」
「……ッ! 少しずつ……少しずつ布をずらして目を慣れさせれば何とか……」
「……悪いが家でやってくれんかのう?」
ドルムさんに半目で脱力され、私達はおいとました。
ちなみに私達の魔王様名刺にもチェーンを付けてもらった。
そしてディメンション二階の自室でコッソリじっくりねっとり魔王様名刺を愛でる事に……。
……くぉうううんんんっ! 魔王様っ! 魔王様が優しい笑みを私に向かって……ッ!
そしてピカピカの黒地に赤の線が魔王様をより映えさせる……ッ! 金細工の精巧な装飾と、全体的にちりばめられたルビー、もはやこれは宇宙ですっ! 魔王様により創造されし満天の魔眼の星空! もう自分で自分が何を言っているのか分からないっ! とにかくこれは簡単に人に見せられない! 魔王様への忠誠心が高いほど一瞬で殺られてしまう殺傷能力の高い特殊兵器だっ……!
コンコン。
「ニーナちゃんいるかしら? 今日は私と魔王様と三人でムーバーイーツよ」
ハッ! ルルさんの声!
首にかけていた魔王様名刺を急いで服の中へしまい、部屋を出る。でも何で三人なんだろ?
ダイニングで待ち構えていた魔王様に速攻拉致られた私とルルさんは、オルガ国内の街で食糧を受け取りアレイルへ。
もう仕分けも慣れたものだ。もはや私達が運んでいる事は知れ渡っているので今日からメッセージは無しにするとの事。
「……よし、終わりです! 魔王様ぁ、なんで今日は三人なんですか?」
「ああ、レイスターとアーニャがまだ魔界だからな。ラウンツは四天王戦の準備だ。メイリアはいつも通り休憩」
「あっ! 今日ラウンツさんの番でしたね! ……ってことは……わ、わた、私も今日ですかっ⁉」
「……多分ラウンツだけで疲れるからニーナは期間を空ける」
「あ、よかったです……心の準備が……」
ホッ……。私の出番はまだ先らしい。
ラウンツさんの四天王戦までまた魔王様名刺を拝まなければっ! 出来ればメイリアさんのも見たいっ!
そして連続転移でのムーバイーツが終わり、魔王様はお兄ちゃんとアーニャを迎えに魔界へ。
その間に私はメイリアさんの部屋で魔王様名刺を拝ませてもらい、再び悶え死ぬことになった。
メイリアさんは今日、ユニークスキルの行使と魔王様名刺鑑賞で一日中苦しんでいたのは言うまでもない。今も私の魔王様名刺を見て、顔を真っ赤にプルプル震えながらずっと「……クッ! はぁ……はぁ……」って言ってる。
「メ、メイリアさん、興奮しすぎです……。休んだ方がいいのでは?」
「……魔王様名刺が何よりの特効薬……」
「……愚問でした。ところで、なんで本物の魔王様を見ても興奮しないのに名刺だと興奮するんですかね?」
「……確かに……。……多分……名刺だと好きなだけ魔王様を愛でられるから……つまり名刺の中の魔王様は私だけのもの……絶対強者を支配してしまった感じが……ふふふ……」
「な、なるほどですね……」
メイリアさんが魔王様名刺をどう使うつもりなのか怖くて聞けない……。
「おーい! 四天王戦行くぞー!」
魔王様の召集だ! メイリアさんと共に魔王様名刺を服の中に隠し、ダイニングへ。
ふふふ……魔王様の目の前で魔王様名刺を隠し持っている何とも言えない背徳感がクセになりそう!
「あれー? 魔王様、ラウンツさんは?」
「アーニャ……先に謝っておく。ラウンツは後で合流だ」
「嫌な予感しかないよ!」
「……アーニャは俺が守る。封印を解くまでもないから安心しろ」
「レイスター……いざとなったら私の目を潰してね!」
「あらあらうふふ……」
なんか新婚の二人がイチャついてるけど、それより私は魔王様名刺所持のドキドキで大変なのだ!
メイリアさんとアイコンタクトでニヤニヤし合う。
ふふふ……たまりませんね! メイリアさんっ!
この時、私とメイリアさんは完全に油断していた。本物の四天王最強の登場に。
なんという不穏な流れ!
10/21(木)はお休みします。
風邪なので22(金)もお休みするかもしれませんm(__)m
Twitterで更新情報発信しています。




