四天王戦 証拠隠滅
「わたくしの闇に潜む風鬼をもう抑えきれそうにない……呑まれ……る……ぐぁあああっ‼」
アーニャの左手の隙間から赤い光線が!
うわぁ……これ、アーニャが子供の頃からコッソリ練習してた魔眼演出だ……。発光魔法で左眼を光らせてる!
赤い光を出すのって火属性も必要だから熱いのに。さらに眼から魔力を放出させるのも難しいし、魔力で綺麗な直線を作るのも制御が大変だ。
うわぁ……うわぁ……アーニャ、十年かけて「魔眼演出」を完成させてた! ただ光るだけの意味がない魔法に十年もっ!
そして「ヤツ」って、闇に呑まれたの? 鬼に呑まれたの? 封印の設定が被っててどっちか分からないようっ! どっちでもいいけどっ!
「なんや⁉ よぉ見えん!」
「リュー! ヤツの目が光ってる!」
「えっ⁉ それヤバない⁉ この壁大丈夫やんな⁉」
「知らん!」
「……アカン! 逃げる! ミルム解除!」
「あいよ!」
ガラガラガラッ! と土壁が崩れ、中から出てきたカスはすぐさま結界の端っこにいるミルムさんの方へ逃げて行った。
「痛い痛い! 頭打った! 骨砕けたわ~慰謝料やな!」
「ちょけた事言ぃなや! セレネー様のヅラで無傷やろ⁉」
「あっ! この時のためにヅラくれたんかな⁉」
違う! チャラ男になるため──ああっ! 魔王様がアーニャの前に転移した!
「『片翼の堕天使』……やっとお前らの尻尾を掴んだぞ」
魔王様の右手から伸びた黒い鎖がジャラララッ! とアーニャを縛り付け、空中に捕縛した。
……拘束してるのは〈空間固定〉で、鎖はただの演出だ! わざわざ宙に浮かせたのも演出だ! 絶対!
「──ッ! 魔王! ……様っ……」
アーニャが顔面蒼白でブルブル震える。
魔王様が謀反を起こした四天王を処理するターン開始だ!
……ここからまた茶番が始まるのっ⁉ 帰ろうよぅ!
「他の四天王はどこへ行った!」
怒りをあらわに叫ぶ魔王様、やっぱりノリノリだ。
「う……うぁあああ! ガァアアアアアーーーッ!」
拘束されたアーニャが天を仰ぎ叫ぶと、左眼の赤い光線が集束してゆきガックリと頭を垂れた。
そしてゆっくり顔を上げたアーニャの左眼は……赤く色付いてるけど光線は出ていない。「ヤツ」が完全にアーニャを取り込んで落ち着いた演出だ、きっと。
……度重なる四天王会議のせいで私も厨二パターンに詳しくなってしまった……クッ!
「……フ、フッ、『残夢の呪縛』か? 『片翼の堕天使』だったこの人形が跡形も無く……な。次はお前の番だっ! フンーーーッ!」
アーニャが体に力を入れると黒い鎖がバンッ! バンッ! と音を立て徐々にちぎれていく。
たぶん、いや絶対、魔王様が演出してる。あとアーニャも魔王様も二つ名を連呼しててしつこいよぅ……。もうわかったからっ!
「クソッ! 呑まれちまったか! ……おいっ! そこの坊主、こっちへ来い! 封印しろっ! 勇者だろ⁉」
魔王様に呼ばれたカスがビクッとなったけど、結界の端に張り付いたままだ。結界外のアレイル兵たちに紛れようとしてる……バレバレだよ。
「俺封印なんてできひんし……人違いやんな……?」
「魔王とかエグない……? 死や。死」
カスとミルムさんがヒソヒソ話してる……未だに勇者の自覚がないらしい。人族には言いふらしてたくせに。
「ダァーーーーーッ! 早く来いよ! 俺の拘束が持たねぇ! 鬼を抹殺するには聖魔力が必要なんだよ! おいっ! コラッ!」
魔王様直々の呼び出しだというのにカスはそっぽを向いて知らんぷりしてる……カスめっ!
「聖天術式は俺が持ってる! この術式に魔力を込めるだけの簡単なお仕事だ! やれっ! お前がアレイルを救え!」
魔王様が頭上で紙をヒラヒラさせカスに就職斡旋を……。
『……ルルさん……あの魔術式……本物? ……』
はっ! メイリアさんの念話! いたんだった!
『ああ、あれはそれっぽいダミー術式で隠したただの発光魔法よ。そもそも四鬼や聖天術式なんて実在しないもの』
『……ん……でもちょっとじっくり見てみたい……』
『あら、じゃあ後で同じものをあげるわ』
『……ありがと……』
え……メ、メイリアさんまで厨二病に⁉ 四天王戦の情報収集はその勉強で⁉
「なんで魔王が抹殺するんや? 手下やんな?」
カスがまだ結界の端でヒソヒソしてる。……そういえばカスはお兄ちゃんの宣戦布告を聞いてないんだった! 都市にいなかったから。
「そういえばレクサスが念話で言うとった……魔王は人族に友好的て。アメドクロ達だけ魔王を裏切ったみたいな? 知らんけど」
レクサスって人族、ナイスだ!
「あーレクサスさんが言うならホンマやろなぁ」
「……リュー、チャンスちゃう? 国王様に褒美とかもらえるんちゃう?」
「マジか⁉ よっしゃ……魔王ー! 俺が勇者リュー様や! 殺してあげてもええでー?」
なぜ魔王様に上から目線⁉ 死刑だ!
「うるせぇ! 0秒で来い!」
「……ヘヘッ! 来たで!」
0秒で来なかったから死刑!
「ウググググ……」
アーニャの必死の演技は地味に続いている。早くしてあげて!
「ほれ! 『片翼の堕天使』ごと抹殺してくれ!」
「聖魔力やな? ほな聖剣から出すわ! ……ハァーーーーーッ!」
魔王様がアーニャに向けて広げた紙に向かって、カスが聖剣から聖魔力を放出した。
すると紙のあった場所からアーニャへ光が伸び、どんどん大きくなっていく! 大木より太い光の柱は膨れ上がり辺り一面真っ白に!
目を開けていられないっ!
『アーニャ、石板は足元だ』
『オッケーだよ魔王様!』
「やめ……やめろォーーーッ! ……クッ! まだ! 金鬼と陰形鬼が残っている! その強さは我々の比ではないからな⁉ 『残夢の呪縛』の呪いはどこまでも追いかけ──クソッ! 冥府の闇王よ我の魂を喰らい災禍の扉を開け! 千陣の風が一切を砕き朽ちさせ死にゆく世界へ! ああっまだあるのに! もうっ! 〈闇爆炎〉ッ……! ──ギャァアアアーーーーーッ!」
ババババンッ! キュィーーーーー! ──
アーニャのめちゃくちゃ早口厨二詠唱と断末魔の後に破裂音と超高音が聞こえ、やがて音は遠ざかって行った。
なんか詠唱を最後まで唱える時間が無かったっぽい……。そして「風が一切を砕き」とか言ってたけど、さっき風じゃ土壁すら壊せないって言ってなかったっけ? まあいいや。
……うっすら目を開けると、さっきまでの白い光は消えていた。
うう……目が痛いよぅ……。ハッ! アーニャは⁉
……魔力感知をしたらちゃんとディメンションにいる。光のドサクサに紛れて転移できたみたい。きっと転移石板も魔王様が回収しただろうな。
目が落ち着いてきたのでアーニャのいた所を見ると血糊と肉片が散らばっていた。
「おおっ! やったか⁉」
それフラグだから言わないでっ⁉
「成功だ! よくやったな、リュー!」
魔王様がカスの背中をバシバシと叩く。よくやったのはアーニャと魔王様だ。
そういえば、結局魔王様っていつも美味しい所をかっさらってく気がするんだけど。……まさか……一番目立ちたがりなのは魔王様なんじゃ……? ありえすぎるッ!
「ヘヘッ! 勇者リュー様にかかればちょろいもんや! ……あれ? なんで俺の名前知っとんねん」
「あん? ……お前ほどの腕の持ち主だとオルガまで名が轟いてんだよ!」
まっっったく轟いてませんっ! ってかさっき自分で名乗ってたよね⁉ 記憶力鶏なの⁉
「ホンマ⁉ 俺も有名人になってしもたかー!」
「あー……そういえば残りの四天王二人の魔力を感じないな。ったく、どこに隠れてやがんだか……。俺様はこの荒れた場所を直して帰る! またな!」
「おっ! ありがとさん~魔王ってええヤツやったんやなぁ。んじゃ俺は国王様に報告行って来る! ほなな~!」
カスは魔王様に手を振りミルムさんの元へ走って行った。
魔王様にタメ口をきくなど死刑だ!
そして魔王様は血糊と肉片を空間魔法で操作し亜空間へしまい始めた。これを人族が調査したら偽物だってバレてしまうからだ!
土をならすフリをしてお兄ちゃんの転移石板の残骸もコッソリ回収。
証拠隠滅完了、完全犯罪成功!
街道はお兄ちゃんとアーニャが手加減した事により無事だった。人族よ、感謝するがよい!
「魔王~! この結界解除できひん~? 何でアメドクロ倒したのに消えてへんの~⁉」
カスが魔王様の張ったバトルフィールドなる結界をバンバン叩いている。
『あ……ヤベ、忘れてた……』
魔王様ぁ……。
10/16(土)はお休みします(∩´ω`∩)




