三人称:強制三国会談 いいまおう
「ルーガルを抑えりゃいいんだな? 勇者がいるだろ勇者が!」
「勇者は四天王を倒すために啓示を受けた! 国相手にどうこう出来る力など無い! そもそも魔族すら倒しておらぬのだぞ⁉ 本当にあの阿呆にそんな力があるのかさえ疑わしい!」
アレイル国王の的確なツッコミは裏で魔王をフルボッコにしていた。ナイスおじいちゃんである。
「さ、さっき魔族は一騎当千の軍事力って言ってたのはじいちゃんだろ⁉ その魔族の中でも強い四天王を勇者が倒せたら軍事力って認めるんだな⁉」
「ぐ……倒せるものならな!」
魔王がアレイル国王の言葉尻を捉えた。ただではやられないのがこの魔王という男である。
「ほう……じゃあアレイルはルーガルに対抗できるな」
魔王はすぐさま自分のターンを取り戻しニヤニヤしだした。
「……勇者が四天王を倒せば検討の余地はある、というだけの話だ」
「四天王ならあぶり出してやる。……じゃあ四天王が倒されたら戦争やめるな?」
「…………オルガとの戦争はルーガルと約束している訳ではない、であるから我が国もしなくてよいならしたくはない。我が国がそうせざるを得ない状況に追い込まれているだけだからな。だが武器輸入は停止できぬ……。そして戦をやめたとしても、蝗害と食糧問題は手詰まりだ。これだけ大規模な蝗害……数年は続くであろう」
「戦争やめても金が足りないって事か。オルガからの食糧だけじゃ足りないか?」
「……バルフレア国王よ、すまない。我が国は最初から食糧代を支払う力など無かったのだ……」
「わかっておる。……のう、ハッシュウェート国王よ、金の問題が無ければ食糧は足りるのか?」
「金こそが問題であろう……いや、二人の問いに答えるか。そうだな、金の問題が無ければギリギリオルガからの支援で国は保てるであろう。何年も武器輸入と並行して食糧輸入を継続する金が無いという事だ」
アレイル国王は魔王とオルガ国王の問いの意味が分からない。だが少しでもアレイルの希望となる話をするのはほんの一時の慰めにはなった。
フッと笑みをこぼしたアレイル国王を見て、オルガ国王は魔王へ頷く。
「じいちゃんよぉ……バッタ、春までに殺してやろうか? もう虫害は終わりだ!」
「魔王よ……魔法で焼き払うつもりか? 駄目だ、土が死ぬ」
アレイル国王は薄々気付いていたが信じられなかった魔王の善意を、真面目に会話をするくらいまでには受け取れるようになっていた。
だがそんな事、アレイル国内でもすでに議論済だ。
焼き畑をすれば最初の二年は作物が育つ、だがその後最低三年は休耕期間になる。その間、農民を町ごと別の土地へ移動させるなど現実的ではないし、移った土地でも蝗害は再び起こる。
「俺様の有能配下メイリアってやつが土を殺さない夢のような殺虫剤を発明した。だから畑は死なないぞ」
「……なんだと⁉ そんなものがあるのか⁉ いつ発明した⁉」
(ずっとこの話は後回しにしてたけど、メイリアの実験は間に合わなかったか。さてどうすっかな~!)
『おいニーナ! 何とかしろ!』
『ぎゃぴっ! 魔王様⁉ ななな、何とかって言われてもぉっ!』
有能配下メイリアとエルドラドに待機している、へっぽこ配下ニーナへ無茶振り念話をしてすぐ切る魔王。その意図とは。
(多分俺の主人公補正でピンチになったらバッタが孵化すんだろ! んで「たった今いいニュースが入ってきたぜ……」このセリフだな!)
謎の自信。
魔王はキリッとした顔でそんな演出を考えつつ、殺虫剤について詳しく話をした。
アレイルの護衛達は微動だにしないものの、その目は期待に満ちている。だがアレイル国王や家臣達は難しい顔をしていた。
『ま、魔王様! 飛蝗孵化しました! 気持ち悪いですぅううう‼』
『……魔王様……実験成功です……十体すべて死滅、これから──』
魔王が国王達に話しをしている間にすぐ朗報が飛び込む。ニーナとメイリアからの念話だ。
『えぇ……早ぇよ……今じゃなぁい……早ぇよぉ……』
脱力し眉の下がる魔王。口を開けたままピタリと話を止めた魔王に二国の王が首を傾げる。
『えっ⁉』
『…………』
『……何でもねぇ。メイリア、ニーナお疲れ……よくやった!』
(へっぽこぉ! こっちの空気読めよ! 超スムーズに話が進むだろうが!)
心の中でニーナに八つ当たりする魔王。なんとも理不尽である。
「あ、あ~……それでな、さっき言ってた実験だけど、今念話が来て……成功したってよ……」
なぜかしょんぼりしている魔王の話がひと段落したようなのでアレイル国王が重い口を開いた。
「……蝗害が起こってすぐに開発をしていたとは……よもや蝗害まで魔王の仕業ではあるまいな?」
魔王のマッチポンプはいつもの事だが、蝗害だけは本当に違うのである。魔王、狼少年状態。
「俺のせいじゃねぇ! 魔界はアレイルを困らせて得する事なんかひとっつもねぇんだよ! いーか? 改めて言おう。俺様は人界中にディメンションを作りたいだけだ! だからあちこちの国でドンパチやったり飢饉で人が死ぬと娯楽どころじゃなくなるからそれが困るんだよ! 頼むから平和に金稼いで俺の店を盛り上げてくれ! 俺はホストクラブに専念したいからじいちゃん達は国王の仕事頑張ってくれよ! あとメイリアに謝れっ!」
「……すまない……」
(魔王の配下が本当に善意で食糧輸送と殺虫剤開発をしていたのなら……。私はアレイルの民を想うあまり魔族を警戒しすぎていたのかもしれない。いい魔族が本当にいるとしたら……。私は、私は、色眼鏡でしか物事を見られない王であるのか……?)
アレイル国王の胸に罪悪感が溢れてくる。
「お主は本当に酒場の事ばっかりじゃのう……酒場のために国を動かすなど天地がひっくり返っておるぞ。他にもっともらしい理由は無いのか?」
魔王にだけ終始呆れているオルガ国王を見て、アレイル国王は魔王がいつもこの調子なのを悟る。
「ねぇよー……あ! あった! ディオルに言ってやったんだ、戦闘狂の魔族を抑えるために俺様が人界征服に乗り出した振りをしてるってな! だから人界に滞在できないと困るんだよー」
「「ディオルーフィーネ⁉」」
二国の王の声が重なった。最も、オルガ国王は知っていたので腹芸であるが。
そう、アレイル王太子妃であり、オルガ第一王女であるディオルフィーネの事だ。
「ね、念話先を知っているのか……?」
アレイル国王は「まさか会ってないよね?」という願いを込めて恐る恐る聞いた。
「直接会いに行った! シュッ! と転移でな、ははは! 内緒だぞ⁉」
内緒もクソも無い。
「魔王よ! ハッシュウェート国王が放心しておるぞ!」
「俺様がここに転移した時点で予想できるだろ! 王の私室にだって入れるぜ? 見つかるからやらないけど」
アレイル国王は脱力しぼうっと魔王を見ていた。
この魔王、王族の寝首を搔こうと思えばいつでも実行できるのだと。そしてそれをしないのは、圧倒的な暴力で王の首をすげ替えても国民の忠誠を得られない事をきちんと理解しているからだと。
(……魔界は一見恐怖政治に見えて実はそうではなく、魔王は人界を支配するつもりはないのか……? むしろ面倒臭がっているような……)
今までの話からそう推察したアレイル国王の魔王を見る目が変わった。
魔王は見た目とやっている事は破天荒なのに実は計算高く、しかしその根幹は計算で動いていない……。
一見、子供がその純粋さから思い付きで政治に口を出しているかのように見えるが、実は入念な下調べと準備を整えてこの場にいる……。
まるで世界が俯瞰で全て見えているかのような為政者としての頭脳、思い付きを恐れず実行できる行動力、瞬発力、そして無礼と紙一重の気安さ。いくつもの魅力を持ち合わせた魔王につい期待したくなってくる。
この魔王ならもっと上手く自分達を納得させるような話の持って行き方が出来たであろう。
しかしどこかほころびのあるふわふわとした謎理論を包括しながらも、事実を元に展開される魔王の話は深刻な事態の渦中であるのに悲壮感など一切なく、むしろ驚きの連続で……楽しかった。
もっと話をしてみたい、もっとその頭に描いている未来予想図を知りたい。
ティーカップを持つアレイル国王の手に力が戻る。
「んで、ディオルには何もしてねぇ、ちょっとアレイルの事を聞いただけだ。何も知らなかったけどな」
ルーガルの事は少し知っていたが、ディオルフィーネが責められないよう魔王は口にしない。
「そういう問題では無い……勝手に城の敷地内に侵入……いや、もうよい、お主に何を言っても無駄じゃの……」
オルガ国王の必死のお芝居は続く。これも知っていたとアレイル国王にバレたらまた話がややこしくなるのだ。
「おう、無駄だ! 俺様はいい魔王だから安心しろ! あと俺以外の魔族は転移陣が無いと転移できないからそれも安心しろ。んでよぉ、俺が過激な魔族を抑えてるのは魔界と人界のバランスを保つためだ。魔族ってどうして人族を支配下に置きたがるんだろうなー! ……魔界が平和でつまんねぇのか? ……強いダンジョン作ってやるか」
魔王がまたよからぬことを考えているとアレイル国王が恐る恐る口を開いた。
「魔王……お前の望むアレイルは何だ?」
このなぜか悪者に見えなくなってきた魔王の真意を探るため、アレイル国王が問いかけた。
三国会談あと二話です。長くなりました(´;ω;`)
9/22(水)はお休みします(∩´ω`∩)
ちなみにバッタの実験が間に合わなかった場合、魔王様はこう考えてました。
実験結果が出るまで魔界のキキュー分だけ費用魔界持ちで殺虫剤製造
実験成功→オルガへ売ってアレイルへ散布
実験失敗→魔界の農家へ販売(普通のバッタには効くから)




