三人称:強制三国会談 ずっと俺のターン!
「アレイル国民はニーナに泣いて感謝しろ!」
「な! ……ん……だと?」
「あん? まだじいちゃんの耳に入ってねぇのか? 俺様のへっぽこ配下ニーナがアレイル国民が死ぬのは嫌だっていうからよ、オルガからの食糧を北部にバラ撒いてた。『いいまぞくより』ってメッセージ付きだからすぐに確認取れるだろ。オルガ国王にはアレイル国境まで運ぶって約束したけどよ、結局アレイルでは南で流通が止まるだろ? だから俺達魔族がここ一週間ヤバそうな町と村100ヶ所くらいに転移して運んだ! その方が早いからな! 回った所のリストを渡すぜ」
なぜ魔王がそのような事を⁉ だがまずは事実確認だ!
アレイル国王は魔王からピッと渡された町のリストに目を通す……まさに蝗害の被害が甚大な地域だ!
「おい! 事実確認を! まずは転移陣のある町へ!」
そう叫んだアレイル国王からリストを渡された大臣がバタバタと会談の間を出ていく。
オルガ国王は、ちゃんと魔王が「オルガが許可したのは国境まで」と言ってくれてよかったとホッとため息をついた。アレイルに不法入国を命じたとでも捉えられたら、またアレイル国王はオルガに余計な疑惑を待たなければならない。
それでもとりあえず腹芸だけはしておこうと魔王に話しかける。
「魔王よ……アレイル国内に直接お主らが運んだなど儂は聞いておらぬぞ……」
「あー悪ぃ悪ぃ! だって知ってたら食糧渡してくんねぇだろ? まぁちゃんと運んだから安心しろ!」
魔王とオルガ国王のやり取りを横目に、アレイル国王はじっと黙ったまま思案し始めた。
……オルガから奪った食糧は魔王がバラ撒いていただと? 民を毒殺するに決まっている! しかしそれを口にすればまた魔王は屁理屈をこねるのであろうな。どうしたものか……。
アレイル国王、すでに魔王の性格を把握していた。さすがは一国の王である。
「アレイルの民は混乱するであろう⁉ 魔族が運んだなどとわざわざ知らせては、毒を疑われるに決まっておる!」
オルガ国王の指摘に、アレイル国王はいいぞもっとやれ! の心境である。
「毒なんてみみっちぃ事しねぇよ! 魔族は派手に戦うのが好きだからな! だからちゃんと食える食糧だ。……んでよぉじいちゃん」
魔王の視線がオルガ国王からアレイル国王へと移る。
「…………」
「俺らはアレイルへの食糧供給を絶ったんじゃねぇ、その逆だ。調べればわかる事だから今は置いておく。んでよぉ、四天王は俺のあずかり知らぬ所だ、でも責任をもって排除する」
魔王、平然と噓をつく。しかし相手に嘘を信じさせるには、嘘を真実の中に混ぜるとその信憑性が増すことをこの男は経験から知っていた。
「…………」
アレイル国王の予想通り、魔王は人を言いくるめる事に特化して生きてきた人間だ、沈黙は正解。
だがこの魔王が沈黙を許すはずがない、まだまだ事情聴取はこれからなのだ。
「なぁ、そもそも何でルーガルに関わっちまったんだ? あいつらが本当に生誕の地を手に入れてから味方についても良かったろ」
「…………」
「だんまりか。今さらルーガルの事を隠してももう遅いだろ。オルガのおっちゃんは知ってんだからよ」
魔王の指摘は尤もであった。ルーガルの事を隠していたのは、オルガへ戦争を仕掛ける際に警戒されないため。騙し討ちをするためだったのだから。
「ハッシュウェート国王よ……アレイルはなぜこのような事態になったのじゃ? 魔王はの、この無益な戦争にいち早く気付いたのじゃ。そして魔王の目的は戦争回避、酒場のあるオルガが戦場になっては困るのじゃろう。……ハッシュウェート国王……まずは我が国とアレイルが共に平穏を取り戻そうではないか……共にルーガルに対抗しようではないか……!」
「そうだ俺様は酒場をやりたいだけだ! なんなら俺がルーガルをやっつけてやろうか? とりあえずアレイルとオルガは仲直りしろよ~!」
アレイル国王の頭がだんだんと整理されてくる。
確かにオルガに隠すべき事など無くなってしまった。そしてなぜかアレイルとオルガの仲裁に入っている魔王の言う事が全て本当であったとしたら……アレイルは虫害復興だけを考えればよい。しかしルーガルとの契約は……。
再び会談の間に沈黙が訪れる。聞こえるのは未だ激しい雨音だけ。
魔王もオルガ国王も、そしてこの場にいる全ての者がアレイル国王の苦悩の時間を待った。
やがて雨音は次第に弱くなり、それに代わるようにアレイル国王の口元が動いた。
国王は何かにすがるようにポツリポツリと声を絞り出す。オルガ国王でも魔王でもなく、神に答えを求めるかのように。
「……単純な事。最初はただ、ルーガルが今まで特秘してきた武器を輸出すると持ちかけてきたのだ……。ルーガルはオルガに魔族が出現し南側の防衛を固めたくなったのであろう、つまり我が国を防衛線にする事に決めた。我が国も最初はルーガルの軍事力に少しでも近づけるならと、ただ魔族に備えて武器輸入を決めただけであった……オルガを害そうなどとは微塵も思っていなかった……。だからルーガルが提示した『向こう五年間、一定量の武器の輸入を約束する』という条件を飲んだ……それほど魔族は怖く、ルーガルの武器は魅力的であった。アレイルの民を守るためにな」
「無理もないの……」
「……そして実際に契約が履行されてからルーガルが持ち込んで来たのが生誕の地の情報……そこから何かが崩れてきた……」
「ん~、なんだよ、じゃあ今カケでオルガから食糧を輸入してんのは、ルーガルとの契約で武器輸入を止められないだけか? 本当は武器輸入を停止したいんだな?」
「……そうだ。しかし我が国が契約を破棄するならば、エルフの里への侵攻準備をしているルーガルがアレイルを落とせば済む話……。実際にそうなればルーガル側は計画が遅れるからやりたくないであろうが、アレイルからすればルーガルと戦うかオルガと戦うかの二択になった……」
「ルーガルはエルフの里を見つけたのか⁉」
オルガ国王はお伽話でしか聞いたことのないエルフの里をすでにルーガルが発見していた事に驚いた。
「……そうらしい……ルーガル国王がボケるにはまだ若すぎる……」
「ふ~ん、ルーガルの研究者の世迷言じゃなくてもう見つけたのか」
魔王、欲しかった情報が得られて満足である。
オルガ国王は椅子に背を預け唸った。
「なんと……。ならば将来を考えてルーガルに付いておき、契約通り武器輸入を続けたままオルガ北部に攻め込む方がまだ得られるものがあるだけマシ、か……。アレイルがルーガルに歯向かってもそれこそ無益な小競り合いをするだけじゃからのう……」
「……そういう事だ。しかしそもそも我が国は戦争など出来る状況ではない……もはや生誕の地などどうでもよいのだ! 蝗害復興に専念したい! だがルーガルがそうはさせぬ! ルーガルめっ!」
アレイル国王が思わずテーブルをドンッ! と叩く。悔しさで溢れる涙をこらえるためであった。
「ルーガルを抑えりゃいいんだな? 勇者がいるだろ勇者が!」
魔王、カス勇者を本当に交渉のカードに使うつもりだったらしい。
明日も更新します(∩´ω`∩)




