三人称:強制三国会談 魔王様のターン!
「……なぁ? ゲロっちまえよ? 楽になるぜぇ?」
アレイル国王は焦燥した。この魔王……どこまで知っている? だがカマをかけられた所で痛くもかゆくもない。こちらが生きる道は一つしかないのだ、とっくに腹は決めている。
「魔王こそ何を企んでおる?」
「質問返しは話のすり替えだぜ? まぁいいや、俺様の目的はディメンション系列店の出店だ! 人界中に作るぞー!」
「そんな子供騙しを信じる訳が無かろう!」
プンスカしているアレイル国王には申し訳ないが、魔王様はお戯れに全力なのだ。
オルガ国王も「そうじゃよなぁ……」と毒見の終わった紅茶を口に含み、しばらく続くであろう魔王とアレイル国王の会話に耳を傾ける事にした。
「ホントだって。まぁ信じられなくてもしょうがないよな、魔族には人族を殺したい極悪非道な奴もいるし」
「……まるで少数の魔族しか我らを殺す気が無いように聞こえたが? くだらない言葉遊びはやめたまえ、時間の無駄だ」
「まぁ話を聞けよ。短気は損気だぜ? 魔族ってさ、脳筋なんだよ。力あるものが頂点に立ち、その頂点である魔王をはやし立てる。もっと力を見せてくれ! ってな。んで魔王は力を誇示するために魔族個人相手じゃなく国を相手に定めるようになる。そうやってこれまでの人界侵攻の歴史が紡がれてきたんだ。……でもよぉ、魔族は脳筋なだけで心は人族と一緒だ。じゃなきゃ魔界で文明が発達してるのはおかしいだろ? 理性があるから生産・経済活動を行える。つまり人界と一緒、ちゃんと社会性を持って生活してんだ。だから人界にいる極悪人と同じくらいの割合で戦闘狂の魔族がいる。ただその一個体の力が人族に比べてデカすぎるから人族にとって脅威なだけなんだ」
アレイル国王は急に真面目に語りだした魔王の話を静かに聞いていた。魔王の話は意外と筋が通っていたからだ。だが──
「……その話が本当であったとしても、その戦闘狂の魔族が人界に来ているであろう! 実際に我が国で魔族の目撃情報があったのだ! たった一体の魔族が我々を殺戮する可能性がある限り、魔界の平和を語られても我々には関係ない!」
「あん? アレイルに魔族がいたのか? ……ちょっとその話詳しく教えろ!」
魔王は棒付き飴を咥えながら勇者に近付いた茶髪の魔族なんて知らない。全身ドクロコーデの厨二病なんて知らない。
オルガ国王は、魔族のアレイルへの食糧輸送がすでにアレイル国王の耳に届いているのかと青ざめた。
しかしアレイル国王は魔族による食糧輸送の件をまだ知らない。
農村部の農民が、ひっ迫した飢餓の真っ只中にわざわざ馬を走らせて国に報告するには値しないほど、バカバカしくもどこかほっこりするメッセージだったからだ。人族は毒を警戒しつつも、いざという時のために「いいまぞく」からの食糧を保存していたのである。
なのでアレイル国王にとってはつい最近、月の女神の啓示を受けたという阿呆な勇者とやら、そしてその勇者に接触した髑髏の仮面を着けた魔族らしき者の情報が入ってきたばかりだ。
つまりまだアレイル国内では髑髏の魔族一人しか入って来ていない認識である。
だがアレイル南部の役人から、オルガより輸入予定の食糧が足りないという報告は届いていた。「輸出予定の食糧を魔王が勝手に奪って行った」というオルガの運び屋の声と共に。
アレイル国王のこぶしの中に爪が食い込む。
この魔王、兵糧攻めと並行して魔族を派遣したくせにしらばっくれおって!
アレイル国王は都市に出現した魔族が魔王の手下である事を分かりつつ、少しでも情報を得るため勇者の話をした。
「……マジかよ……そういや最近四天王を見てねぇな……」
魔王、渾身の「真剣な顔」でボソリと呟く。
オルガ国王は内心「儂、そんなの聞いておらぬぞ⁉ どういう事じゃ⁉」と冷汗びっしょりで混乱している。
「……四天王?」
「ああ、さっき話した戦闘狂の中でも特に人族を殺したがってる四人だ。俺様の直属最強部隊って事にして『四天王』って名前を付けてやったんだけどよ、それだけじゃ満たされなかったみたいだな。ついに勝手に人界に来ちまったか……」
アレイル国王の中で「邪なる四体」と「四天王」が結びついた。
「まるで不本意であるようだな? 私は騙されぬぞ!」
「いや、マジで悪ぃって。……よし! もし勇者が負けたらその場で俺様が責任をもって四天王をとっちめる! 魔王命令違反だからな、死刑だ! 俺様なら一捻りだから安心しろ! じゃ、そういう事で極悪非道な魔族の件は片付いたな。次は極悪非道なルーガルの話をしろ」
サラッと魔族の驚異の話を流され、サラッとルーガルという単語を出されたアレイル国王は戸惑いと驚愕でブワッ! と脂汗が吹き出した。
ルーガルの事に気付いているっ⁉ どこまでっ⁉
「あれだろ? どうせルーガルが『生誕の地』を手に入れるためにアレイルを味方に付けようとでもしてんだろ。結界の魔道具開発で資金不足に陥ったルーガルは余り腐った型落ちの武器をアレイルに売りつける事にした。ついでに儲けつつ背中を固めるため、アレイルにオルガへ戦争を仕掛けさせて武器の在庫処分完了だ。その見返りは生誕の地を手に入れたルーガルの属国になる事か? 悔しいけど本当にアレを手にしたルーガルには敵わねぇもんな、仕方ねぇ。だけどその計画の途中でルーガルに朗報、アレイルに悲報、虫害の発生。ますます追い詰められたアレイルは、金も無い、食糧も無い、でもルーガルの武器だけはある。で、飢えで死ぬ前にオルガを攻め込むしかなくなったってとこか? もはやルーガルの誘いに乗って戦争するか悩んでるどころじゃねぇ、アレイルの意思で戦争するしかなくなっちまったんだ! ファイナルアンサーでいいぜ!」
ビシ! と魔王に指を差されたアレイル国王はぐぅの音も出なかった。
なぜそこまで知っている⁉ 少なくとも「生誕の地」に関する情報だけは漏れるはずが無いのに!
早口でまくし立てた魔王は毒見もせず紅茶をイッキ飲みし、おかわりをねだっている。
心中を悟られないよう、魔王から視線を逸らさないようにするだけで必死の固まってしまったアレイル国王を見て、オルガ国王は全てを理解した。
「ハッシュウェート国王……我が国は同盟を破棄するつもりはない、まだ間に合う──」
自分に裏切られたオルガ国王が、全てを知ってもまだなお手を差し伸べてくれている。
……きっとオルガ国王もまた、魔王に従わざるを得なかったのだ。
本当は分かっていた……でなければオルガ国王からツケで食糧を融通する提案などしてくれる訳が無いのだから。
……なぜアレイルとオルガがルーガルと魔界の代理戦争をしなければならないのだ……。
しかしアレイルは引き返せない。
「もう間に合わぬ……ちょうどよい、今この場で宣戦布告──」
「うぉいおいおい! 早まるなよじいちゃん! ルーガルと虫害と四天王、あと食糧を何とかすればいいんだろ⁉ やめようぜ、戦争!」
アレイル国王は白々しい魔王に激高した! 半分は魔王のせいだ!
「魔王! お前が言うな! 我が国への食糧供給を絶ったのはお前であろう⁉」
おまいうには同感である。が、ちょっと事情は違うのだ。
「ハッ! バッカじゃねぇの! アレイルが北部に食糧を供給しないからずっと俺達が運んでやってたんだ! アレイル国民はニーナに泣いて感謝しろ!」
「な! ……ん……だと?」
魔王の堂々たる不法入国食糧バラ撒き発言にアレイル国王は理解が追い付かなかった。
そしてオルガ国王は「ついに言ったな⁉ 打ち合わせ通り頼むぞ!」と神に祈った。
9/19(日)はお休みします(`・ω・´)




