三人称:強制三国会談 それぞれの朝
本日は二週五日目、オルガ国とアレイル国の会談の日である。
最も、魔王城の豪華なふかふかキングサイズベッドで今しがた目覚めた魔王だけは、魔界とオルガとアレイルの三国会談のつもりでいるが。
「……眠ぃ……。でもメイリアに念話……」
ボソリと呟いた魔王は寝ぼけ眼のままメイリアに念話する事にした。
冬は布団で「あと五分……」を三回は堪能する派の俺様が早起きしたんだから朗報を頼むぜ神様、と祈りながら。
実は魔王、この世界に転生させられた事により意外にも真面目に神様を信じているのである。というかもう、前の世界で読み漁っていたラノベテンプレ通りの異世界に転生させられたら信じるしかない。
しかし全てがテンプレ通りとはいかなかった。
転生前に神に会うイベントをすっ飛ばされ、そのおかげで何の説明も無くバブバブからやり直しさせられたのである。なので魔王はちょっとだけ神様を恨んでいたりする。
それでも元日本人の魔王は、やはりこういう時「魔神様」より「八百万の神様」に祈る方がしっくりくるのであった。
ちなみに魔王は神っぽい何者かの目的が不明なため、とりあえず魔界で俺TUEEEE! してそのまま成り行きで魔王になり、魔王になったからには魔王的に「魔王様だFUHAHAHAHA!」した方がいいかな~? と思いつつ好きに生きる事に決めたのである。
そしてここ半年で何を始めたかは言うまでもない。
『メイリア起きてるかー? おはよう!』
『……おはようございます魔王様……まだです……』
『相変わらず元気ないな! そっか、もし今日孵化したらいつでも念話くれよな!』
『……必ずや……』
今日バッタが孵化しなかったら切腹しそうな勢いだなメイリア、と思いながら魔王は苦笑いをする。
『メイリアがどうにか出来るモンじゃねぇから気にすんなよ? じゃあな!』
『……はい……』
そして魔王は今日の会談で使う手札を頭の中で数えながら、ひとりご機嫌に朝食を頬張るのであった。
魔王城の豪華な豪華な広ーい食堂で。
(会談が無事終わったら今夜あの村に行くか……)
次に魔王は本日の予定を頭に浮かべ、某ブロック消しゲームよろしく右端に縦棒用の細長い隙間だけを残しギチギチに詰め込む。
ニーナがいつも犬のおもちゃより激しく振り回されているのは、この「常に身体と頭を動かしていないと死ぬ病」のおかげで転生前は現役引退後もホストクラブ経営に勤しんでいた魔王の狂暴なスケジューリング癖のせいであった。
ちなみに二度寝にツッコんではいけない。間違いなく「脳の準備運動だからいいんだ!」と押し通されるからだ。
(縦棒二連続来ると激アツだよな〜。一本目がニーナで二本目は──)
魔王がこの世界には無い電子ゲームを脳内プレイしていると、朝食の最後の皿を置き終わった料理長がチラチラと振り返りながら退室しようとしていた。
「あ、料理長、いつも美味い飯ありがとな!」
「……っ! 身に余るお言葉っ! 光栄の極みにございます!」
魔王は「ラウンツの飯に慣れたら何となく負けた気がするからな……」という声を心の中だけに留めた。
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一方その頃。
アレイル城、国王の私室ではアレイル国王がぷるぷる震えながらオートミールをほんの一口だけ咀嚼し、「もう良い」と侍女に食器を下げさせていた。
国王は70歳を超えている白髪の瘦せ細った老人であるが、決して末期の病人では無い。ただ、国王が色濃く纏う死の香りは、死神に鎌を振りかぶられている病人のそれと一緒であった。
(魔王……魔王が来る……っ!)
事前にオルガ国王からの親書で「恐らく魔王が乗り込んでくるであろう」と知らされていたアレイル国王は、兵で固めるか、魔王を刺激しないよう最小限に留めるかまだ迷っていた。
だが無情にも時間は過ぎていく。
結局、怯えた家臣達に説得された国王は、時間の無さを理由に渋々承諾という形で会談の間の外にびっちりと兵を配置させ、ホッと一息ついた。
しかし、アレイル国王はこの会談に備え、会談があることを伏せたままルーガル国に強力な結界の魔道具を融通してもらうよう便宜を図っていたが、結局それは叶わなかった。
(ルーガルめ……結界の魔道具だけは自国で独占するつもりであるな……。今輸出している武器もルーガル国内では旧式のものであろう。さらに我が国は勇者などというふざけた存在にまですがらねばならぬ状況なのだ……なぜアレイルにだけ次々と深刻な問題が!)
アレイルの深刻な問題とは、ルーガルの巧言と蝗害、さらにトドメを刺すかのように出現した謎の邪なる者だ。
ルーガルと大自然はともかく、最後は魔王の計略である。
泣きっ面に蜂状態なアレイルの喉笛を狙うのは魔王らしいと言えば魔王らしいのだが、四天王演出が実は「魔王の善意」であることを知らないアレイル国王にとって、ありがた迷惑どころの騒ぎではない。
国王は邪なる者が魔族らしいという事は勇者|(正確には、フードの形から推測し魔族の角に気付いたミルム)より直接聞いたので、魔王が謀ったのではないかとほぼ確信している。
が、国王はまさか魔王による「お遊戯会」だとは露ほども知らない。
アレイル国王は頭の中でオルガへの対応と兵の配置、脱出経路を再確認しながら会談の間へと向かった。
(魔王への対応は……とにかく殺されさえしなければ話は出来るはずだ。魔王も話をするつもりでなければ、わざわざ事前にオルガ国王へ参加表明しないであろう。……その話の目的は、大方我が国の掌握。……例えオルガを裏切ろうとも、例え魔王に力で屈服させられようとも。アレイル国民が生き延びるため、私は傀儡にだって成り果ててやろう。だが、国民を想う心だけは、侵させない)
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会談の間に入室したアレイル国王とその家臣、国王専属護衛隊は固唾を呑んでオルガ国王の到着を待つ。
外は暗雲が立ち込め、雨が降り出してきた。
なぜこういう日に限って空模様まで不穏なのだ……まるで太陽の神に見放されているようではないか……。とアレイル国王はますます不安を募らせた。
何せこれから、ルーガルの事は伏せつつオルガ国王と魔王相手に立ち回らなくてはならないのだ。
アレイル城にいる者すべての時間感覚は一分が一時間とも感じられ、冬であるのにアレイル国王の額にはじわり……と脂汗が滲む。
雨音はやがて警鐘を鳴らすように窓をバチバチと激しく打ち付け、国王が額を十回ほどハンカチで拭ったところでオルガ国王が到着した。
お互い形式的な挨拶を済ませアレイル側は茶を出し、アレイル国王が「さあ! 乗り切ってやる!」と自身を鼓舞した瞬間、その勢いはパッパラパーな声によって吹き飛ばされた。
「よう! 魔王のアーデルハイドだ! 俺も混ぜてくれよ!」
やんちゃ坊主がテーブルの上に突如出現したのである。
厳かなる会談の間のテーブルのど真ん中に。もちろん土足で。二重の意味で。
9/13(月)はお休みします(`・ω・´)
この話は全8話、流し読みでも大丈夫です。またしばらく主人公不在にw
今さらですがクラリゼッタがディメンションのお茶会にセバスチャンを連れていた事を思い出しましたorz セバス……忘れてたよ。
ディメンションのお茶会編に侍女のベアトリアスを加筆修正しました。




