トッドおうえんたい
ひぃひぃ……怖かったぁ。
私は影からこっそり魔法をぶっ放して戦いたいよぅ! 例え卑怯と言われても怖いものは怖いのだ!
「ニーナやったな!」
「シア姉さんが負けたニャ!」
「体術と魔法じゃ相性が悪かったね! 私なら体術で戦うスタイルだからミアちゃん戦う⁉」
「それはいいニャ! 望むところだニャ!」
「フフフ……私の鉤爪が血に飢えてるから気をつけてね!」
いつの間にか2回戦が始まってる……!
シアさんがよろよろと私とお兄ちゃんの所へやって来た。 魔王様が結界を張ってたはずなのに所々毛が焦げてる……ごめんなさいぃ!
「ニーナ強いニャァ……急に消えてビックリしたニャァ!」
「ニーナの〈影移動〉はズルいよな!」
「私はあれでしか逃げられないんですよぉ……一撃でも食らったら死ぬ自信があります!」
「そこは胸を張るとこじゃないニャァ……。 とにかく、ニーナに着いて行く事に決めたニャァ!」
「えっ! ホントですか? 嬉しい!」
「やった! よろしく頼むぜ!」
「獣人のみんなに話してくるニャァ」
アーニャとミアさんの戦いは拮抗していた。 アーニャは魔法も使えるけどあえて身体強化だけで戦ってるみたいだ。 体術同士だから見応えがある。
「獣人は強いが、魔族もやはり強いのぅ」
ドルムさんと魔王様がやって来た。
「特にニーナとレイスター、アーニャは子供の頃から俺が戦いを教えたからな! もっと強いやつもゴロゴロいるぞ」
子供の頃は魔王様の取り計らいで、お母さんに連れられてよく3人で魔王様の所に遊びに行かせてもらってた。 魔法を使うと魔王様が褒めてくれるから頑張って練習したな、懐かしい。
「ほう、強い者にならワシの武器を使わせてやってもいいかものぅ。 使われてこその武器じゃからな」
「お! 嬉しいな。 ダンジョンの宝箱に入れるやつは若いドワーフの失敗作で十分だからさ! ディアブロで思う存分腕をふるってくれよ!」
「カルムの事もあるしの……仲間に話してくるぞい」
ドルムさんはドワーフさん達の所へ戻って行った。
「お! アーニャの勝ち!」
「負けたニャ! 次は負けないニャ!」
「ふふふ……私はまだ封印を残しているよ!」
「ニャ! ニャんだって⁉」
確かにアーニャは魔法を使わなかったけど……アーニャの言う意味の封印じゃないよぅ。
今度はお兄ちゃんと、大きな戦斧を持ったドワーフさんが3回戦目を始めていた……あ、お兄ちゃんの勝ち。
お兄ちゃんだって〈縮地〉でいきなり相手との距離を詰めるのはズルいと思う。
この日、私とアーニャはミアさんシアさんの家に泊まらせてもらうことになった。
「ミアちゃんは最初男の子かと思ったよ! 私の魔眼がイケメンだと察知したんだけどなぁ……もったいない!」
「ニャ⁉ アーニャは魔眼も持ってるのかニャ⁉」
「ミアさん騙されないでぇ……アーニャの中ではそういう設定なんだよ」
「嘘ニャ⁉」
「ニーナ、それを言うのは野暮ってものだよ!」
「獣人さんは信じやすいからあんまり冗談言っちゃダメだよぅ……」
「なんだ冗談ニャ」
「ごめんごめん。 はぁ……ミアちゃんが男の子ならナイトになれたのに!」
「僕は男の子の格好をするのは好きニャ。 カッコイイニャ!」
「えっ⁉ ちょっと詳しく!」
アーニャがミアさんに色々聞いたところ「ノンケの男装僕っ娘だね!」と言っていた。 よく分からないけど、中身は普通の女の子らしい。
そんな話をしていたら眠くなってきたのでおやすみなさい。 何か忘れてる気がするけどまぁいっか。
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今朝はディアブロに移住する人達について広場でお話するらしい。 魔王様やドルムさんの周りに人だかりが出来ている。
「お、ミア達も来たな。 すでに移住を決断したやつはこっち側に来てくれ」
魔王様の近くには20人くらいのドワーフさんと10人くらいの獣人さんがいた。 ミアさんシアさんも魔王様の方へ近づいて行った。
「トッド! お前は来んのか⁉」
「ジジイが行くなら俺は行かねーよ! ジジイがいなくなってせいせいするぜ!」
トッドと呼ばれた茶髪のドワーフさんはんべっと舌を出してあっかんべーした。
「あれが例のトッドか……おいトッド! 邪龍の素材は全員分無いから、ディアブロに来たやつ優先だぞ?」
「なっ! マジかよ!」
魔王様のお話にトッドさんが焦ってる。
「そういう事じゃ! カルムもワシと来るし諦めるんじゃな! ガハハ!」
魔王様とドルムさんが結託してる……昨日内緒話してたのはトッドさんの事なのかな?
「チクショー! ジジイのシゴキから逃げられると思ったのに!」
トッドさんはしぶしぶ魔王様の方へ近づいてドスン! と座った。
「トッド、お父さんはトッドの腕を見込んでるんだよー。 邪龍の武器が出来るの楽しみにしてるね!」
「……う、うっせ! すぐに作ってやるから待ってろ!」
トッドさんは顔を真っ赤にしてプイッとそっぽを向いてしまった。 カルムさんは慣れてるのかニコニコしてた。
「ニーナ、トッドくんカルムちゃんの事好きだよね?」
「丸わかりだよねアーニャ。 魔王様が昨日ドルムさんと悪だくみをしてたのはきっとこの事だよ」
「[ドキッ☆ 新天地で恋の魔法大作戦!]ってとこかな!」
「ドルムさんはカルムさんとトッドさんをくっつけたいんだね」
「コッソリ応援しようよ!」
「うん! 楽しそうだね」
こうして私とアーニャも影ながらトッドさんの恋を応援する事にしたのだった。
「ディアブロではラヴィを飼えるニャ! 魔族も守ってくれるニャ! 他に来る人はいないかニャ?」
「ラヴィミャ⁉」
「でも人族怖いワン……」
「我らに首輪を着けようとするからな……」
獣人さん達は相当トラウマがあるようだ……。
結局最初に集まった30人くらいがディアブロに住んでみて様子を見ることになった。
「じゃあ引越しの準備だな! ニーナ、何軒くらいいける?」
「5軒位までしか入らないですよぅ」
「そっか。 レイスターとアーニャはさすがに家は入らないよな?」
お兄ちゃんとアーニャがふるふると頭を振る。
「俺とニーナで何往復かすればすぐだな。 よし、移住するやつは明日までに準備してくれ! 俺らはいったんディアブロで準備をして来る」
ドワーフさん獣人さん達に挨拶をしたら魔王様が私達3人とともにディアブロのお店へ転移した。
「おかえりなさいみなさん‼」
コーディさんがお兄ちゃんに駆け寄って肩をガシッと組み、店の隅へと連行した。
裏切り者とかボソボソと聞こえてくる……。
あ、思い出した、昨日コーディさんはラウンツさんと2人きりでお泊まり会だったんだ。




