オープン準備【挿絵有】
素敵なイラスト著作:Dermar様 Twitter @dermar_gg 転載・無断使用・自作発言等禁止。
お兄ちゃんと一緒に魔王様からホストクラブのシステムについて教わっていたら、ラウンツさんとアーニャが5人のイケメンさんを連れて酒場へ戻って来た。
「魔王様どぉ⁉ 私の魔眼は伊達じゃないよ!」
アーニャの左眼は魔眼じゃないから伊達だよ。
「お! さすがアーニャだな! 面接するから今後のために見てろ」
魔王様がイケメンさん達にホストの仕事を説明して、現状の生活の不満や希望を聞いていた。
「なるほどな。だが安心しろ。根性さえあれば誰でもホストになれる! 逆に言えば根性が無いやつには出来ない仕事だ。給料は売上の半分、売っただけ稼げるから死ぬ気で成り上がれ!」
「「「はいっ!」」」
「ただし客からの指名がないと売上はゼロだ。必死に恋物語を読んでオープンまでに勉強しろ! 連絡は追って念話する。今日は解散!」
それを聞いたホストさん達は走ってお店を出て行った。図書館かな?
そういえば……こんな今までなかったお店にどうやってお客さんを呼ぶんだろう? 魔王様に聞いてみた。
「あのう……魔王様、宣伝はどうするんですか?」
「う~ん……初めに狙う客層は裕福なマダムだな。ニーナん家は金持ちだからマリリアが来てくれそうだろ?」
「え⁉ お母さん……来るかなぁ……」
私の言葉にお兄ちゃんがため息をついた。
「はぁ……魔王様の事業ってだけで母さんは多分来るぞニーナ。アーニャん家のフローラさんも引っ張って来るな……」
「私のイケメン好きはママ譲りだからね! 絶対来るよ!」
アーニャのイケメン好きはアーニャのお母さん、フローラさんの遺伝だったんだ……。
「よし、マリリア達の社交力で宣伝しよう! プレオープン、つまり新規オープン前の特別祭に招待し、他にも客を呼んでもらうぞ! 招待状を10通用意するからマリリアとフローラに渡せ。当日は俺も挨拶に行くと伝えておけ」
「ひぃい!」
魔王様、うちのお母さんをボッタくる気⁉
「母さん……魔王様のお姿を拝見するために絶対来るな……」
お兄ちゃんはすでに諦めて遠い目をしていた。
「プレオープンには私も行くよ!」
「アーニャはお店側の人だからお客さんにはなれないよ……」
私がそう言うとアーニャは顔面蒼白で地面へ四つん這いになった。
「魔王様っ! 恋物語の騎士をイメージするならホスト達の服装も騎士風にするのかしらぁ?」
ビクゥッ! ラ、ラウンツさん……いたんだ。私はまだおネエのラウンツさんに慣れない……。
「あ、大事な事を忘れてた。……スーツより騎士服の方がウケるか……ナイスだラウンツ! 魔王命令だ、式典用の騎士服を10着、城から調達しといてくれ」
「了解よっ☆」
「アーニャはあと5人はホストを集めておいてくれ。期限は1週間だ」
「はーい! じゃ、また下町に行ってくるね!」
アーニャは光の速さで駆けて行った。ってか、1週間て……。
「ま、魔王様ぁ……そんなに早くお店が出来るんですか?」
魔王様がニヤリと笑う。
「ルルとメイリアの全力は凄いぞ?」
魔王様がルルさんメイリアさんのいるテーブルに向かったので、私達も着いて行った。
「あ、魔王様、大体の設計図は出来たわ。後は外観や内装の彫刻ね」
魔王様の気配に気付いたルルさんが色っぽく髪をかき上げた。テーブルの上には何やら設計図が……ひぃい! すでにビッシリ書かれてる!
「……問題無い、さすがだな。1週間で出来るか?」
「完璧に仕上がるわよ!」
ルルさんが目を細めて不適に微笑む。
「……余裕……」
メイリアさんもニヤニヤしてる……。ボソボソ喋るのは元々みたい。
「スゲーな……」
お兄ちゃんは頭脳派の二人の実力に放心していた。もちろん私も。
「よーし! あ、あと店の名前はディメンションに決めた! 異次元とかって意味だ、建物に彫り込んどいてくれ」
「わかったわ。ところで土魔法じゃ造れない物は購入が必要だけれども……」
「扉や窓、トイレやキッチンは注文するしかないな。内装はアテがある」
ルルさんと魔王様は内装についてしばし打ち合わせをしていた。
そしてその後、私とお兄ちゃんとラウンツさんは魔王様に連れられ、建築屋や酒屋などでお店に必要なものを色々と発注した。
……正確には、魔王様が発注する様子を見ていただけだけど。魔王様はお店に必要な物が全て分かっているかのようにスラスラと発注していた。
発注が終わったら、魔王様は私達を連れ今度は魔王城へ転移した。何するんだろう?
えぇ……魔王様、城の使ってない部屋にある家具や食器を見繕っては亜空間にしまってる……。
そのお姿は魔族の頂点の欠片もなく盗人にしか見えない……。勝手に持って行っていいのぉ⁉
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そしてなんと3日後には新しい建物を造る事に。メンバー全員でおじいさんの酒場へやって来た。
「ニーナ、やっちまえ!」
魔王様に言われついに私の出番が……。う~ん、でも私がお役に立てるのって経理と魔法しかないし……よし、頑張るぞ!
まず元の酒場は亜空間に入れて後でポイだ。設計図は出来上がっていたので、私が魔術式が含まれた設計図に魔力を込め、土魔法でズモモモモモ……! っと一気に造る。
出来上がった建物は、小さいけどまさにお城だった。ルルさんとメイリアさんのデザインってすごい!
これから彫刻のデザインを元に、ルルさんとメイリアさんが土魔法で加工を加えていくらしい。
私は魔力が多いけど、設計図や魔術式が無いと魔力調整が出来ない。彫刻なんて繊細なものはデザインがあっても無理だ、しょぼん。魔力をぶっ放して人界征服するならもっとお役に立てるのに!
完全に建物が完成するまでの間は、ルルさんメイリアさん以外の4人は魔王様が色々な所で必要な物を手配するのにお供した。
人界進出の際、魔王様に頼らなくてもホストクラブを作れるようにする勉強なのだ!
ホストクラブが予定通りにプレオープン出来そうということで、私とアーニャは帰りに魔王様から招待状を渡された。日時は10日後の夜だ。
夕食時、恐る恐るお母さんにホストクラブの話をしたら、ガタッ! と立ち上がって私の手から招待状5通をひったくるように受け取った。ひぃ!
「魔王様に謁見できるのね⁉ 公共事業への協力だもの仕方ないわ! 行ってくるわよ? ガルスター」
お父さんは諦めたようにため息をついた。お兄ちゃんの言った通り食い付きがすごい!
「え、謁見ではないよぅ……。プライベートみたいな?」
お母さんっ! そんな仰々しいものじゃないからっ!
「プライベートの魔王様にお会いできるのね⁉」
あぅ! 表現を間違えた! お母さんがますますヒートアップしてる!
「父さん……」
お兄ちゃんがお父さんに呼びかけたけど、お父さんはゆるく首を振っている。いくら魔王軍第一部隊長と言えども妻には勝てないらしい。
今頃アーニャの家でも同じような事が起こってるんだろうな……。
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さらに4日後には建物や内装が完全に完成した。小さな白亜のミニ宮殿だ!
建物の周りはメイリアさんが植えた魔薔薇の柵で囲われている。真っ黒な魔王城とは反対で、本当に恋物語に出てくるお城みたい!
今日までに集められたホストさん10人と共にメンバー皆で中に入ると、シャンデリアがほのかに店内を照らしていた。魔力で光るルルさんの魔道具だ。窓は上品なカーテンで外から光が入らないようになっている。
白い床は磨きあげられてシャンデリアの光を反射しており、魔王城にあったキンキラキンの悪趣味なテーブルやソファも、なぜかこのお城では豪華な空間を見事に演出していた。
「どうだ、ここがこれからお前らの働く場所だ!」
魔王様は楽しそうだ。ホストさん達もやる気が出たみたいで口々に感想を言っている。
プレオープンまでは、実際のお店の中で魔王様直々に研修をするらしい。お色気ルルさんとイケメンに目が無いアーニャがお客さん役で、今後の研修係にもなる。
メイリアさんは料理も上手らしくキッチン。錬金術師だからか「……素材の加工と調味料の配合は完璧……」との事。
……間違って毒とか入らないよね?
ラウンツさんとお兄ちゃんは内勤だから、お客さんの案内やシステムの説明の他に、オーダーを取ったりホストさんをお客さんの席に着ける順番などを指示する。
私はキャッシャーという立場らしい。
経営に関わる全てのお金と帳簿を管理するので間違いが無いように気を付けねば! 直接ホストさん達と関わらずに済みそうでよかった……知らない人とお話するのは緊張するんだよぅ!
そんなこんなで研修が始まった。アーニャはイケメンホストさん達にチヤホヤされて「何この世界……私の中の闇が浄化されていく……!」と昇天していた。
病気が治るなら何よりだけど、職権乱用しないか心配だ……。
ルルさんはもうなんていうか……うん、女王様にしか見えない。
時折魔王様が「そこはこう言うんだ! ……プリンセスにエールは似合わない……貴方の薔薇のような髪色に合ったお酒を飲みませんか? ……ってな! 高い酒を入れさせろ!」と演技指導していた。熱が入っている。
ラウンツさんも別のホストさんに「んもぅっ! 乙女心が分かってないわネッ!」とダメ出ししていた。
店内を見渡すと、一番目立つ所にシャンパングラスがピラミッド状に積み重ねられていた。その周りには色々な形をしたビンに入ったお酒が飾られた棚がある。……なんだろう?
近くにメイリアさんがいる。は、話しかけてみようかな……これから一緒にやっていくメンバーだし。
「あ、あの、メイリアさん、あのグラス何のためにあるか知ってますか?」
「……シャンパンタワー……全部のグラスが埋まるまで何本もシャンパンを上から注ぐ……大金貨何枚もかかる……」
「ぎゃぴぃ! 一般人の年収だよぅ‼ そんな事する人いるの⁉」
「…………」
「じゃ、じゃああのキラキラで、ユニコーンとかハートの形をしたクリスタルみたいなビンに入ったお酒は?」
「……硝子も石みたいなものだから……魔王様のデザインで私が土魔法で造った……」
「硝子なのにすごい綺麗だね! メイリアさんもすごい!」
「……ユニコーンは100万ルイン……」
「ひぃい‼ これも大金貨⁉ 誰も頼まないよ‼」
「……ホストクラブは第二の社交界……って魔王様が……」
「社交界は確かに見栄を張る場所だけど……ここは酒場だよね?」
「ニーナ、あの酒は必ず入るぞ」
ビクゥッ‼
振り返ると腕を組んで偉そうにしてる魔王様がいた。実際偉いんだけど。
「まぁ店が始まってしばらくしてからだろうがな。その時までのお楽しみだ!」
そんなこんなで研修の日々は過ぎていった。明日はいよいよプレオープンの日だ。
さ、詐欺で訴えられないかなぁ……緊張するよぅ!
~人物紹介~
ニーナ(15)
腰まである銀髪にオレンジの瞳
財務部新任→人界征服メンバー
赤ん坊の頃に魔王様に拾われ、レイスター家族に引き取られた
人見知りコミュ障
魔王様、アーデルハイド(?)
黒髪、魔眼を持っている
元伝説のホスト、異世界転生者
「ホストクラブ作ろうぜ!」
レイスター(16)
茶髪、ニーナの義理の兄
魔王軍第一部隊→人界征服メンバー
アーニャ(16)
水色のサイドポニーテール、黒い瞳
魔王軍第二部隊→人界征服メンバー
ニーナとレイスターの幼馴染
厨二病こじらせ、イケメン好き
ラウンツ(23)
金髪、ガチムチ、おネエ
魔王軍近衛隊→人界征服メンバー
ルル(?)
赤に近いピンクの巻き髪、おっぱい
マーメイドドレスを好んで着ている
魔道具や魔術式は魔界一→人界征服メンバー
メイリア(15)
エメラルドグリーンの前下がりボブ
錬金術師、土木部新任→人界征服メンバー
マッドサイエンティスト、ぼそぼそ喋る
マリリア
レイスターの母、ニーナの育ての母
ガルスター
魔王軍第一部隊長、とっても偉い。
レイスターの父、ニーナの育ての父
フローラ
アーニャの母
2021/8/27改稿