メイリア:魔界のキキュー
この話の前日は、勇者作ろうぜ作戦と錬金施設訪問とアレイルでディオル接触がありました。
今日は採寸見学会と魔王様名刺作りがあり、その後の午後のお話です。
魔王様の一存で、昼食を食べたらまたコーディさん以外のみんなでムーバーイーツへ行く事になった。
でも私には他にもやらなければならない事が。
魔王様の服をちょいちょいと引っ張る。
「どうしたメイリア?」
「……魔王様……魔界のキキュー育成もしたいです……」
「ん? ……ああ、メイリアにはそれもあったな。メイリアだけムーバーイーツメンバーから外すか。先に魔界の錬金施設に行っとけ」
そう仰った魔王様は私だけを連れ、一瞬で国立錬金施設に転移なさった。
「この施設ならメイリア一人でも動けるだろ? 置いてって平気か?」
「……はい……」
「んじゃムーバーイーツが終わったらまた来るから準備しといてな!」
「……魔王様だけでお願いします……」
「ん? まぁ他のメンバーは必要ないか。オッケー分かったよ! じゃあな」
魔王様は再び転移で人界へお帰りになった。
……ホッ。魔界のキキュー育成がやっと始められる。キキュー育成メンバーは私と魔王様と治癒術師だけだ、良かった。
私はここ、国立錬金施設内にある錬金術専門学校を飛び級の首席で卒業後、魔王城へ務めるまでの間はこの錬金施設で働いていた。だからここの構造は全て覚えている。
キール会長に念話をし、会長室へと向かった。
キール会長は快く迎え入れてくださり、いつも通り研究施設へ戻らないかと勧誘を受けた。
「……魔王様のお役に立つことが何よりの生きがいです……」
「おお! そうでしたな! 今回我々も直接魔王様のお役に立てる機会に恵まれなんという幸せ! 施設員一同、踊り出したい気持ちでいっぱいです!」
踊りを見せられる前に本題を切り出した。
「……今日から早速魔界のキキュー育成を始めたいのですが……治癒術師さんの予定──」
「いつでも召集できますぞ! ……今念話で呼びました!」
「……ありがとうございます……では回っていく地域のルートは昨日お話しした通りで……急で申し訳ありませんが、採集の人員手配は今日から可能で──」
「すでに農村部にここへの転移陣を設置済みです! 農民は冬の間に女性でも稼げる貴重な収入源として大喜びでしたぞ! ……今召集をかけました!」
キール会長の暴走っぷりにはいつも頭を悩ませていたけど、今回は迅速な対応が有難い。
そうしてキール会長とキキュー育成計画の確認をした。
私の負担を減らすため、比較的育ってきている魔界北のキキュー群生地から開始すると昨日の話し合いで決めてある。
「そういえばメイリア殿! 画家に魔王様名刺の素描と希望のデザインを描かせました! これで発注お願いします!」
あ……キール会長さん達に布教してたんだった。
差し出された紙とお金、ダイヤや魔紅石などの希少な鉱石を受け取り、ドルムさんへ発注しておくと約束した。
……まさか昨日の今日で用意するとは。ポンと一千万私に預けていいの……?
そして私は応接室へ向かい、集まってくれた治癒術師さん三人と共に魔王様の到着を待つことにした。
「メイリアちゃん! アーニャは仲良くしてる? あの子の魔眼には気を付けてね! 全てを滅する冥府の闇爆炎を封じてるから!」
アーニャのお母さん、フローラさんに話しかけられた。……これは……冗談?
「……アーニャは仲良くしてくれています……封印は大丈夫です……」
病気の方は大丈夫じゃない、とは言えなかった。
「そう、良かったわ! 私の封印も今日久しぶりに解放するから浄化に呑まれないよう気を付けなくっちゃ!」
…………フローラさん、冗談じゃなくて本当にアーニャと同じ病気? 今も完治していないの? マズい……。
フローラさんの事は置いておいて、私には一言言わなければならない事がある。
「……治癒術師の皆さん……今日からしばらくお世話になると思います……よろしくお願いします……」
ペコリと頭を下げた。
魔族は治癒魔法を使用すると術者も聖属性ダメージを喰らう。それを覚悟で皆さん私に協力してくれる……。
「いいのよメイリアちゃん! これで聖属性持ちへの偏見も無くなるかもしれないし、私達のためよ!」
他の二人の治癒術師さんもうんうんと頷いてくれた。
フローラさんは私の罪悪感を無くすためにそう言ってくれたんだ。……やっぱりアーニャのお母さんなだけあって明るくていい人。
治癒術師が治癒魔法を使用するローテやスケジュールを確認したりして、陽が落ちた頃に魔王様が応接室へ転移なさって来た。
「メイリアお待たせ! 暗くなっちまったな~、まぁでも発光魔法使えば見えるだろ。じゃあ行くか!」
「……はい魔王様……準備は出来ています……」
採集のために錬金施設に転移して来てくれた農村部の人達と合流し、全員まとめて魔王様がキキュー群生地域へ転移してくれた。
「〈光球〉……どうだ! 明るいだろ!」
魔王様が空中にダンジョンにあるような謎の光球を出してくださった。……明るいどころではない、ここだけ昼間のようだ。魔王様はやはり偉大。
キキューの確認のため、私は辺りを見渡す。
……そうだった、人の手が加えられていない草原にはキキュー以外の植物も無造作に生えているんだった。……私の魔法は範囲指定だから、キキューだけにユニークスキルを使うことは不可能。かなりのロスが発生するけど仕方がない。そして周りに言ってもどうにもならない、地道にやろう。
「……魔王様……いきます……」
魔王様が魔力供給のため、私の背中に手を当てた。
「メイリア、無理すんなよ? 約束だぞ?」
「……はい……倒れるようなことはしません……」
魔王様は無言で私に魔力供給を始めてくださった。「信じてるからな」……そう言われたように感じた。
無詠唱でユニークスキルを発動、私の足元からどんどん植物が成長していく様子を見て周りから感嘆の声が上がった。
でも私はそれどころじゃない……っ! 頭が痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い‼
……っ! でも治癒魔法で治すから問題は──無いッ‼
エルドラドでの実験を思い出し、気絶する直前で止めた。魔王様が私の身体を支えてくださった。
「……っ! ハァッ! ハァッ! ……」
「メイリアちゃんっ! 今治癒魔法を! ──叛逆なる闇よ──我が魂に封ぜられた癒しを以って浄化するっ! 開・縛! さあ内なる聖母よ包み込め! 〈静謐〉! ──クッ! この痛みすら懐かしいわ!」
フローラさんが治癒魔法をかけてくれたけど……さすが……アーニャのお母……さん……。「〈癒しよ〉」だけでも使えるはずなのに……。
私を抱いたまましゃがみこんだ魔王様の腕の中でしばしの休息を取る。ポーションは一日の服用限界量があるから今は一口だけ。
聖属性を喰らって気持ち悪い……けど聖ダメージさえ自然回復出来れば完全復活できる。
「……魔王様……もう平気ですありがとうございます……」
「お? 回復早いな」
「……今日は無理しなかったので……今回はどれくらいの範囲まで効果がありましたか? ……」
「おー……ざっとエルドラド二階層の三分の一くらいかな」
エルドラドで実験した時は二階層全域だった……このままのペースじゃ間に合わないかも……。
……奥の手ならある……でもっ!
集められた農村部の人達には、植物の中でどれがキキューなのかを私が教えて採集をお願いした。茎や葉の臭いが強いから皆さん分かったみたい。
私と魔王様と治癒術師さんと残りの採集人員は、他の場所へ転移して私がユニークスキルを使って回った。
最初の方に成長させた場所の採集が終わった頃に、魔王様が元の場所へ戻ってキキューの回収をしてくださった。採集が終わった人達も魔王様が転移で農村へ送ってくださった。
……なんでも嫌な顔せずこなしてくださる魔王様が偉大過ぎる。私も魔王様名刺に一千万貢いでも良かったかもしれない。
そしてこの日は何か所か回って、魔王様判断により終了となった。私の体調をお気遣いくださったのだろう。
ちなみにフローラさん以外の治癒術師さんの詠唱が技名の〈癒しよ〉だけだった事が救いだった。
この世界にある大陸はほぼ南半球にあります。赤道はサレノバ大森林らへんです。
最近主人公が活躍してない……次回からニーナに戻ります!
でもストックがほぼ無い! ごめんなさい! 9/2(木)、3(金)連続でお休みいただくかもです(´;ω;`)
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