アレン:看板作り 中編
お待たせしました! 前回の続きから、アレン視点。
あれからカテリーナ様は僕を指名してくれるようになった。
僕が他のお客様の事を話さないから、クリスティーネ王妃派閥の人間を紹介してもらうのは諦めたみたいだ。
でも段々来店頻度が高くなってきている、今日の決戦日には初めてシャンパンを入れてくれた。純粋にディメンションを楽しんでくれて嬉しいな。そういう自分の感情に素直な所は彼女の美徳だと思う。
カテリーナ様が僕自身に興味を持ってくれるようになったから、帰り際にひとつだけ教えてあげた。
「身分が高くなるほど、本当の友達って出来にくいのではないでしょうか?」
「そうね、わたくしも同じ派閥の伯爵夫人で気兼ねなく話せる方はいるけれど、ごく少数だわ。爵位や派閥が違うと些細な話でも社交と捉えられてしまって困るのよね……」
「どちらか一方でも社交の姿勢になってしまったら、お相手も社交と捉えるしかないでしょうね。純粋に共通の趣味の話だけで盛り上がれたらいいのかな?」
「……どういう事? アレンが社交の話をするなんて珍しいわね」
「高貴な方ほど孤独で本当の友達が欲しいのでは? あ、お釣りが来ましたね、馬車までお送りします」
「……友達……」
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月初めの営業前ミーティングで仕立て屋の看板作りの日が決まった。
僕達ナンバー10は今、代表のそばに集まっている。誰がどのお客様を呼ぶか急遽作戦会議だ!
「おいアレン、ブヒエル呼ぶのか? エースだろ」
ルフランが僕に話しかけてきた。
「ん~……みゅうは絶対マズい事になる予感しかしないね」
すかさず叫んだのはネフィス。
「だよな⁉ アレンがみゅうを呼ばないなら俺はキキにする!」
「じゃぁ俺はカリンで問題ないか。でもアレン、誰呼ぶんだ?」
「う~ん……育ちそうなお客様、かな? 先にみんなが決めていいよ」
そして予想通りのメンバーが決まった。
まずリ・ブロンの店の子達、ルフランはカリンちゃん、ネフィスはキキちゃん、セシルはララちゃん、ヴァンはミミリンちゃん、アッシュはマリンちゃん。
そしてミアはアンナちゃん、他も安心できる一般人のお客様だ。バレットさんは誰も呼ばないらしい。
「じゃぁ僕はカテリーナ様にしようかな?」
「おいアレン! お前だけ貴族だけど大丈夫か?」
ルフランの言葉にみんなが怯えてる。
「うん、カテリーナ様は大丈夫だよ。決戦日のカリンちゃん達を見て、平民を侮るのをやめるって言ってた。ちゃんと店のルールを言って聞かせるから」
「「「…………」」」
「まぁアレンがそう言うなら大丈夫だろ。最悪俺様がいるから安心しろ! ははは!」
代表がそう言ってくれてメンバーは決定した。
営業が始まる前に早速クラリゼッタ様へ報告だ!
『クラリゼッタ様こんにちは』
『……昼間になんて珍しいわね。忙しいのだけれども? 手短に』
『あはは、すみません。たまにいいかな? と。今営業前ミーティングが終わって、看板作りの日が決まりましたよ』
『……完成ではないのね? 作る日がわたくしとどう関係があって?』
『看板に描かれるために仕立て屋の服を着るのですが、その採寸現場に一人お客様をお呼びするんですよ』
『だからわたくしに何の関係が? 行けるわけないでしょう⁉』
『ベルツ伯爵夫人をお呼びしようかと』
『……貴方がわたくしに誰かを引き合わせようとするなんてどういうつもり?』
『僕は社交にノータッチですよ? ただ、採寸は次の女神の休息日に彼女が見学します。それだけお伝えします』
『……他に人選の余地はなかったのかしら?』
『お得意様を呼ぶようにと代表に言われているので。僕の好みです』
何となく彼女はクラリゼッタ様を傷付けない気がする。
『……貴方の好みなら仕方ないわね』
僕の試験をパスしたと伝わったらしい、よかった。
『ちなみにベルツ伯爵夫人は決戦日にラストまでいらっしゃいました』
『……! もう切るわ、ごきげんよう』
あ、切られた。……急いでお茶会の手配を始めるのかな?
そんなに採寸現場や決戦日の様子を聞きたいだなんて嬉しいなぁ。ぜひ僕の話で盛り上がっていただきたい。
カテリーナ様……頑張ってね、社交にならないように。でも表情に出やすいから逆に大丈夫かな?
クラリゼッタ様は社交が苦手だけれども、人から自分がどう思われているかだけは敏感に察知できる。
社交向きじゃないこの二人なら上手くいくかもね。クラリゼッタ様にお友達が増えるといいな。
お茶会の後、カテリーナ様に「クラリゼッタ様は可愛いお人だったでしょう?」なんて言ったらまたクラリゼッタ様に1時間くらい説教されそうだ。
……また会える日は、来るのかな。
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そして次の女神の休息日、僕らナイトは朝早く仕立て屋パウリーに集まった。代表ももう来てる。
あれ? バレットさんの顔が暗い、どうしたのかな?
「バレットさんおはようございます。何かあったんですか?」
「ああ、アレンおはよう。……マーガレット様が……看板についての情報を得るためにここに乗り込んで、直接店長さんから今日の話を聞いてしまったらしく……」
あ、マーガレット様ならやりそうだ。「バレット様聞きましてよ⁉ わたくしを連れて行って下さいまし!」とか言いそう。
「あはは、それで断り切れなかったと?」
「はい……貴族なのにどうしましょう……。代表には相談済みですが」
「マーガレット様なら大丈夫では? 一般人のバレットさんを様付けで呼ぶくらいバレットさんにハマッてますし、平民どうこう言う方じゃないでしょう?」
「そうですが……そうですが……他のナイトに申し訳ない……」
「僕も貴族のお客様を呼んでいるから大丈夫ですよ。ベロニカさんが来るよりかは……」
バレットさんがかつて三股をかけた元カノの話を出してみた。
「……ッ! そうですね! マーガレット様なら誰とも繋がっていないですし! はっはっは! マーガレット様でよかった!」
バレットさん、看板に載ったら新しい元カノがまた店に押しかけて来るのかな? あれはまた見たいなぁ。
「パウリーちゃん! 今日は楽しみネッ☆」
「はは……はいそうですね……」
ラウンツさんの声に振り向くと、そこには体を縮こまらせ怯えた様子の店長さんがいた。
う~ん、みんな楽しそうでよかったよかった。
さて、カテリーナ様はいつ来るかな?
「新しい元カノ」という矛盾ワードw いや、まだ未来店の元カノって意味ですが。
次回、カテリーナ視点に戻ります。あと4話。




