ディオルフィーネへの接触
お待たせしました!
ディオルフィーネお姫様へ接触する打ち合わせは続く。
「ニーナが先に手紙を仕込んでくれよ。それから俺が念話する」
「え⁉ あっ! 私が先ですかっ⁉ 嫌ですようっ! 魔王様が先に念話して下さいぃ!」
「いーからニーナは俺がオッケー出すまでディオルの部屋の影に待機してろ」
うう……なんで私がぁ……魔王様一人でやってよぉ。
「その前にディオルを探さないとな! オルガ国王かアリアに似た魔力を探せば見つかるはずだ」
魔王様と言い合いをしても丸め込まれることは分かっているので、命じられるがままに二人で魔力探知をしてみた。
……う~ん、ディメンションで働くようになってからお客様を覚えるために魔力感知した人の魔力は覚えておくクセはついたけど、目新しい魔力が多すぎてわからない。
「魔王様ぁ、わからないです」
「……いなさそうだな。どっかに場所を移されたか? オルガに情報が回らないように隔離されている可能性はあるな。……あ、見つけたぞ。アリアにそっくりだから間違いない」
そう言った魔王様が私を連れて転移した。
魔王様が差した指の先にはアレイル城からかなり離れた場所にある離宮。上空から見てるから分かるけど、アレイル城庭園はアレイル城下街より大きく、離宮は庭園の端っこの方にある。
「離宮の東側の3階にいる、ニーナ、ゴー!」
「むうっ! 人をペットみたいに言わないでくださいぃ!」
ぷんだ! もう早く終わらせて私は寝るんだっ!
魔王様と念話しながら指定された場所へと〈影移動〉で向かう。闇夜は隠密行動にピッタリだ。
もはや不法侵入は私の役目になってる……。もし見つかったら全ての罪は魔王様に擦り付けよう。
離宮の東側の端っこから侵入したからか、中はあまり人がいなかった。金属のこすれる音が聞こえたから護衛や見張りがいるのかな? くらいだ。
アリアヴェルテお姫様に似た魔力を追い、とある部屋まで来た。〈影移動〉中の影からひょっこり目を出し、私の現在地と部屋の中を確認。
よしよし、私は天井近くにいる。部屋の入り口近くと窓側に女性の護衛が2人。ディオルフィーネお姫様らしき人は机で何か書き物をしていた。
見つからないようすぐに目をひっこめたからちょっとしか見れなかったけど、お姫様はフリフリレースの寝巻を着ており薄いピンクの長い髪をゆったりとひとつの三つ編みにしていた。もう就寝前なのだろう。
『魔王様、お姫様を肉眼で確認しました。寝巻姿で机で書き物をしています、護衛は部屋に2人います』
『おっけ。机に引き出しあるだろ? ちょっと手紙を忍ばせろ』
魔王様の魔眼って部屋の中まで見えるの? という事は人の裸まで見えるんじゃ……。
ともかく引き出しの中に潜り込みオルガ国王からの手紙をそっと置き魔王様へ報告。
魔王様は私と念話を繋げたままお姫さまへパーティ念話で話しかけるらしい。
『よう、念話だ。事情を話すから声を出すなよ?』
机がガタッ! と音を鳴らした。……そりゃ知らない声から念話が来たらビックリするよね。
「ディオルフィーネ様! どうなさいました⁉」
「……なんでもないわ、気にしないで」
「はっ!」
お姫様、護衛に内緒にしてくれた。
『誰? 知らない魔力……どうやって……。事情とは?』
あ、お話を聞いてくれるみたいだ。
『俺が誰かは手紙を読めばわかる。オルガ国王から手紙を預かってきた。今いる机の引き出しにあるから人払いして読めるか?』
そっと引き出しを開ける音がした。
『……手紙まで! ……この封蝋の魔力……本当にお父様から……? 貴方は一体……』
王様が封蝋に魔力を込めたのかな? 少なくとも手紙は本物だと信じてもらえたみたいだ。
『アリアの友達みたいなもんだ! ディオルに危害を加える気はないからとりあえず手紙を読んで判断してくれよ』
『…………』
「ふぅ、今日はもう疲れたから休むわ、外で待機を」
「「はっ!」」
お姫様は手紙を読む気になってくれたみたいだ。護衛が部屋から出ていった。
そもそも手紙がすでにここにあるという時点で、お姫様はこの手紙から不審者の手がかりを見つけるしかない。むやみに騒いでも殺される可能性があると危惧しているのだろう、さすが王族、胆力と度胸がある。
『読み終わったら教えてくれよ~!』
『…………』
お姫様はなるべく音を立てないよう封を開け、手紙を読んでいるみたいだ。何が書かれてるんだろ?
『……! 魔王⁉』
『おう! いい魔王だ! オルガ国王とは仲良しだぜ! ジジイと仲良くても嬉しくないけどな』
『……アレイルがオルガへ戦争を⁉ ……やっぱり……』
『お? 心当たりあるか? ちょっと戦争を回避する話をしたいからさ、俺様の配下を部屋に入れてもいいか?』
『……魔王ならもうすでに侵入していてもおかしくないのではなくて? 私が見えているのでしょう?』
『おー半分正解! でも俺様は紳士だぜ? 女一人しかいない部屋に無断で入ったりしねぇ。じゃぁ俺様のへっぽこ配下、ニーナが机から出てくるからビックリすんなよ? 防音結界張るか?』
『……むやみに魔法を発動すると感知されて護衛が入って来る恐れがあるわ。普通に出て来てくださる? 念話は感知されていないようですから会話はこのまま出来ますし。机から出てくるなんて芸当ができるならすぐに姿を消すこともできるのでしょう?』
『おう、一瞬で逃げられるぞ。じゃあニーナ、テレレテッテレ~! って出て来い』
『魔王様! 何ですかその変な歌は⁉ というか……私と魔王様の体内魔力を感知されたら即バレるのでは……? そ、そういえば……アレイル城に潜入した時バレてたんじゃっ⁉ ひぃ! 怖い! 指名手配は嫌ですうっ!』
『城に潜入したですって⁉』
あうっ! お姫様につるっとバラしちゃった! どどど、どうしよう! 処刑⁉ 全部魔王様のせいです!
『ほとんどの人族は直接魔力に触れないと感知出来ないから大丈夫だろ。魔族だってコーディとかは魔力感知苦手だしな』
『……その通りよ。魔法の発動で体外へ放出されると空気を通して感知出来るけれども。あとは念話などの微弱な魔力も感知は難しいわ。この手紙を置いたのはそんなに弱い魔法なの?』
え? そうなの? とりあえず私の処刑から話が逸れたならいいや!
『……あ、あの……それはほとんど魔力を使わない魔法です』
影に出たり入ったりするだけだもん。
『魔族……凄まじいわ』
『俺とニーナが飛び抜けてるだけだ』
『魔王様! 何でもっと前に言って下さらなかったんですか⁉ 一瞬寿命が縮まりましたよっ!』
『ははは! いつ気付くかなー? って思ってさ。でももし体内魔力を感知出来るやつがいたとしても、影ん中に潜ってれば俺以外は分からないと思うぞ!』
『私で遊ぶのやめてくださいぃ! ハッ⁉ この部屋、結界とか盗聴とか無いんですか⁉』
『常時結界を張れるのは俺とお前くらいだ。人界の魔道具は魔界よりショボイしな、俺の魔眼でこの部屋を調べていないとでも思ったか?』
くぅ! 魔王様めっ! 最初から教えておいてよぉ!
『ちなみに俺の転移は人族に感知された事はないから安心しろ。それよりニーナ、早く机からテレレテッテレ〜! だ』
だからその歌は何?
『……じゃ、じゃあ、ディオルフィーネお姫様、じゃぁ姿を現しますね』
『……え、ええ……』
机から出た瞬間に攻撃されたら嫌なので、魔王様の指示は無視してちょっと離れた壁の影から姿を現した。……恥ずかしいから右半身だけ。
『……! 角……魔族……』
お姫様はすでに机から距離を取っていた。私の角を見てビックリしている。私も初めましての人に会うのはビクビクするよぅ。
『よう! 俺様が魔王アーデルハイドだ!』
魔王様は転移でお姫様の正面に仁王立ちした。
『……! 赤黒い角……片目を隠す漆黒の髪……貴方が魔王……』
『うむ! いかにも!』
『あ、あのう……私が出て来た意味ってあったんでしょうか……』
『……私に聞かれても分からないわ』
私の問いに、お姫様は心なしかげんなりした気がする。
魔力感知も魔力探知もほぼ一緒です。
感知した事のある魔力を探すのが探知です。
影に出たり入ったりするだけ……それがすごい事なんだよニーナ。




