おネエの可能性は無限大
「こ、今晩行くんですかっ⁉ もっと家族団らんの時間とかですね……」
今日は朝からカス勇者と魔王様狂信者の館で疲れたようっ!
「それがさー、ちょっと急ぎなんだよなー。……ニーナにも責任の一端があるから諦めろ!」
ええっ⁉ 私関係無いぃ!
でも魔王様に何を言っても無駄だ……。とりあえず夕食を取りながら、ひとときの家族団らん(魔王様付)を楽しむことにした。
「魔王様! 人界へのローテが回ってきません! トーナメントで勝ち上がった順にしましょう!」
お父さん……あれから人界に来れてないもんね。でもそれじゃお父さんとミゼルさんが在住することになるよ……。まぁお父さんの魔王軍ジョークだろうけど。
「ははは! ガルスターは子供が心配か? 最近の魔王軍の雰囲気はどうだ?」
「……一部の者は前魔王様とリオル近衛隊長にシゴかれておりますので大丈夫です」
「そっか」
一部? 全員シゴかれてるんじゃないの?
「よし、ご馳走様! じゃあニーナ行くぞ!」
「ぎゃぴっ!」
せめて事前の打ち合わせをしようよぅ!
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急いでクリームシチューを流し込み、魔王様に転移させられたのはアレイル都市上空。寒いよぅ!
「ま、魔王様ぁ……せめて打ち合わせを……」
「ここでするぞ。 ……とりあえずニーナが妃とか魔王になる事はないから安心しろ」
「え? あ、ありがとうございます……でも魔王は推薦してませんでしたっけ?」
「ニーナの家族の意識を分散させただけだ」
「……あ、なるほどですね」
そんな思惑が! 魔王様頭いい……お父さんもお兄ちゃんも巻き込んだからうやむやになった感はある。
「ニーナは強いけど対人戦になるとへっぽこだからな~無理だろ。へっぽこだし」
「何で二回へっぽこって言ったんですかっ⁉」
「戦闘も社交もダブルでへっぽこって意味だ!」
くっ……! 何も言い返せない!
「あ、そういえば魔王様、前魔王様にシゴかれてるのは魔王軍と近衛隊全員じゃないんですか?」
「あん? ……う~ん、まぁニーナが知っててもいいか」
? 何だろ。
「俺が人界征服メンバーを選ぶにあたって一つの条件があったんだ。それは過激派じゃない事」
「過激派?」
「人族を殺戮して征服しようとする考えの奴らの事だ」
「あ……そういう考えの魔族もいるでしょうね……」
魔族は本能的に、「魔族でない弱き者」という認識で人族を魔物や動物と同列に扱っている。だから人族を大量虐殺して征服する事に何の疑問も持っていない戦闘狂がいてもおかしくない。
しかしそもそも人界征服とは、偉大なる魔王様の配下になれるという幸福を享受できる権利を人族へ与えることだ。人族を全滅させて土地を奪っても支配にならない。
私も最初は、影からコッソリ魔法でババババーン! でいいと思っていた。人族に魔王様や私達の力を見せつけて平伏させる、それによって多少の人族の犠牲が出ても致し方ないと。
でも今は……少なくともディメンションで働く人族を殺すことは出来ない……。
「ルルとメイリアは人族を殺す暇があるなら研究したいタイプだし、ニーナ達幼馴染三人は俺が昔から性格を把握してるからな。ラウンツはむしろ人族と仲いいだろ?」
「ラウンツさん……確かに最初は、リーダーとして人族と接触させることに疑問を感じていましたけど、何だかんだラウンツさんが一番人族と仲良くなっているかもです……」
カリンさんに懐かれているし悪魔とはプライベートでも遊んでるみたいだし。……仕立て屋パウリー殺人事件は今は置いておく。
「おネエは種族の壁を超えるからな!」
おネエ恐るべし。確かにおネエのデバフはクセになる。怖いもの見たさみたいな……?
人界に来た頃に魔王様が「人族と友好関係になれ」って言ったのは「そういうフリ」だと思ってたけど……本当に友好関係を結ぶおつもりなの? だから私達が選ばれた?
力ではなく心で人族を支配しろという事であってるのかな?
魔王様はずっと人族に恐怖を与えないよう気を使ってた。戦争を止めるのも人族からの信仰を集めるためだしだと思うし……やっぱり魔王様名刺の普及は必須だ! 人界征服のためなのだ、仕方ない!
「まぁそんな訳で、過激派はオヤジとリオルと戦わせて戦闘欲求を満たしてもらってる」
「魔界にそんな問題が……」
魔王様、やはり魔族の燻りを霧散させるために色々とお考えで……! さすがです!
「ニーナは気にすんな! 早くアレイルの問題を片付けて三号店を出店するぞー!」
「……そもそもなんで人界征服の方法がホストクラブなんですかぁ⁉ 他のお店じゃダメなんですかっ⁉」
「俺様が楽しいからだ! ははは!」
……魔王様本気で言ってるんだろうな。やっぱり魔王様の基準は「面白いか面白くないか」だ……っ!
「さて、夜ならディオルの護衛も少ないだろ。とりあえずニーナがオルガ国王からの手紙を渡して、俺が念話すれば話が出来るかな~」
魔王様なら魔力交換してなくても念話できるって言ってたもんね。でもディオルフィーネお姫様はビックリするよぉ……。
「そういえば魔王様、手紙は魔王様が転送魔法で置けばいいのでは? では私は帰りますね」
「おい待て。いきなり俺が出るより先にへっぽこのニーナが姿を現した方がまだマシだろ? 物事には順序ってもんがあんだよ!」
「へっぽこって言わないでくださいぃ! 人族からしたら魔族って時点で同じだと思うんですけど……魔王様の念話じゃダメなんですか?」
「会った事もない奴を信用できるか? こういうのは会って話をするもんだ!」
「……ところで話って何を話すんですか?」
「戦争の事とか沢山あるだろ。あとは俺の知らないルーガルの事を知ってたら儲けもんなんだけど……。まぁ重要な部分は俺が出て話すから安心しろ」
「はぁ……」
「ニーナはそのへっぽこさでディオルの警戒を解いてこい! ははは!」
むぅ! なんかオルガ街に看板を立てに行った時と同じだようっ!
8/18(水)はお休みします_(。。)_
186話からホストパートにちょっと戻る予定です。




