お母様のさくせんその2
『ニーナ! 魔王様がうちに乗り込んで来た! ダイニングへ来い!』
ハッ⁉ お兄ちゃんから念話! 寝ちゃってた!
『乗り……な、なんで⁉』
お兄ちゃんは『とにかく来い』としか言わないので、私は寝ぼけ眼のままダイニングへ向かった。
ダイニングへ入ると、上座には腕を組んで不機嫌そうに座っている魔王様が……こ、怖い。
そしてすまし顔のお母さんと、緊張しているお父さんお兄ちゃんが着席していた。私もソロリソロリと席に着く。
お父さん、久しぶりだな。お父さんに会えたのは嬉しいけど家族団らんできる雰囲気じゃない……。
「……ニーナは知らないみたいだな?」
重い空気の中、魔王様が口を開いた。
「私達も今魔王様からお聞きしましたわ」
お母さん……絶対何かしらばっくれてる……!
「はー! ついにガキのニーナまで候補に挙げるとはな! ……ニーナは確かにへっぽこだけど強い、血も繋がっていない、だが嫁にはもらわん!」
……え? 嫁? ニーナって誰? え? 私?
ヒュウッ! と息を吸った。
「……ひぇええええええええええ⁉ ちょっ! 何⁉ 何の話⁉ 何で私⁉ ……ハッ! お母さん! もしかして私をお妃候補にあげたの⁉ この短時間で何がっ⁉」
お母さんはツンと顎を上に向けたまま目を細めている。私と視線を合わせてくれない……。
私のお母さんへの質問は魔王様が答えくれた。
「ニーナ、マリリアがお前を俺の嫁にやるって大臣に念話したぞ、多分。大臣達が『根回し済です!』っていつも以上にはしゃいでたからな」
「ちょっとぉおおおおお! お母さん⁉」
「大臣達がそう言うのであれば我が家もその話、やぶさかではないですわ」
……やぶさかも何も、お母さんの仕業だ……っ! 絶対!
「ダァーーーーーッ! 赤んぼの頃から娘みたいに接してきたニーナを嫁にできる訳ねーだろ! しかも俺の好みじゃねぇ! へっぽこは玩具だ!」
「…………魔王様ヒドイですぅううううう‼ 私だって魔王様に一生おもちゃとしてもて遊ばれるなんてごめんですっ‼」
「ちょ! その言い方は語弊があるからやめろ!」
「魔王様が先におもちゃって言いましたっ!」
「なにおぅ⁉ ……いやニーナ、ここは共闘すべきだ。敵はマリリアだぞ!」
ハッ⁉ 確かに魔王様と悪口大会をしている場合じゃない!
「はいっ魔王様! ……お母さん⁉ 私だって親みたいに思ってる魔王様とその……そうなるなんて無理だようっ!」
魔王様の事はものすっごく敬愛しているけど、恋心とかそういうのじゃないのだ!
「おうそうだ! へっぽこは生理的に無理だ!」
くっ……! なんか私がフラれたみたいになってるのが悔しい! でもここは魔王様と二人で拒否し合わないとっ!
「では魔王様はもう妃をお決めになっているのですわね? 流石だわ!」
「……それはだな、その~……人界征服が終わってからだ! うん!」
魔王様やっぱり結婚したくなくて人界征服を始めたのっ⁉ ウソでしょ⁉ 結婚回避のために人界を振り回してるの⁉
「……人界征服完了は何年後を見据えていらっしゃって? 歴史上成し遂げたことが無いですわよね?」
「ぐ……とにかくだな! 魔王命令でニーナは無しだ! 可哀そうだろ!」
出た魔王命令! でも今回もまともだ! よかった!
「その勅命、確かに拝しましたっ!」
よし! これでこの話はおしまいっ! 「魔王命令は絶対」なんていう横暴な慣習があってよかったとこれほど思ったことはない!
お母さんは魔王命令の発令により軽くため息をつき、お父さんとお兄ちゃんもやっと強張った顔がほぐれた。……ずっと固唾を飲んでたもんね……。
「魔王様はご自身の分身を残したいとお思いではないのかしら?」
お母さんまだ諦めてない……。
「子供は好きだぞ! でも子供ならニーナがいるしな。あ、次の魔王はニーナでよくないか? へっぽこだけど俺の次に魔力が多いし!」
ひぇっ! 私が魔王⁉ むむむ、無理だようっ! 人見知りに魔王なんて勤まる気がしないっ!
「おお! ニーナが次代の魔王! これほど喜ばしいことはない!」
「ニーナすげぇ!」
あああっ! お父さんとお兄ちゃんが乗り気になっちゃった! でも「魔王命令だ!」は一度でいいから言ってみたい……ううん、やっぱり無理だっ!
「むっ! むむむっ! むむっ!」
「ニーナが魔王……ニーナの子供に期待したほうが早いかしら?」
「おうそうだ! ニーナの子供に期待しようぜ! それにしてもよぉ、人界征服メンバーは絶対俺と結婚しないやつを選んだんだけどなー」
「あら、そういう人選でしたの?」
私が口をモゴモゴさせている間に次の話題へ移ってしまった……。お母さんが私をお妃にするのを諦めたっぽいのは良かったけど……魔王も無理だようっ!
「おう、俺が人界征服メンバーに指名するって事は『お気に入り』だと大臣達が盛り上がるからな! ガキんちょは俺が拒否するし、ルルには昔フラれた! 美人への挨拶代わりに口説いただけなのによ〜。まぁそんな訳で結婚はあり得ない、完璧な布陣だろ⁉ ははは!」
えっ⁉ そういう基準で私達は選ばれたのぉ⁉ そしてルルさんの言っていた事は本当だったんだ……。チラリとお母さんとアイコンタクトをとったけどすぐに視線をそらされた。
「……辛うじて可能性があるのはニーナとメイリアだけれども、社交向きではないわね……」
お母さん……私の人見知りを知ってるんだから最初からお妃候補に挙げないでよぉ。
「えっ? 母さん、アーニャは? いや、アイツに魔王様のお妃が務まるとは思えないけどさ……その……」
あ、お兄ちゃんの言う通り、アーニャは?
「アーニャはね……うふふ……」
お母さんとお父さんと魔王様がニヤニヤしてるっ! 何々⁉
「アーニャは未来の旦那が決まってるようなもんだからないぞ! ちなみにレイスターとアーニャは魔王軍として将来有望だから選んだ、そこは誇れ」
お兄ちゃんの顔は青ざめたり嬉しそうになったり忙しいな。どうしたんだろ? 魔王様に褒められてるのに。
っていうかアーニャに婚約者がいるの⁉ 聞いてないよぅ! これはアーニャを問い詰めなければっ!
「はっはっは! 流石俺の息子だ!」
「ご、ご期待に沿えるよう精進します……」
お父さんはご機嫌で笑ってる。お兄ちゃんは恥ずかしそうにモジモジしてるけどちょっと顔色が悪い。プレッシャーかな?
「おう! ガルスターとミゼルの子供なら次世代の魔王軍の中核を担うと言っても過言じゃないからな! ガルスターかレイスターが次の魔王でもいいぞ! あと選んだ理由は、ニーナは便利だし、メイリアは錬金能力と友達作りのためだし、ルルは前回の人界侵攻にもいたからサポート役にバッチリだ! ラウンツは賑やかし要因だな、ははは!」
ちょっとぉ! 私とラウンツさんは有能さで選ばれてないの⁉ ……というかそういう基準で選んだんだ……なんか魔王様らしい。
「おお! 私とレイスターも魔王候補に! 光栄です!」
お父さんがノリノリだ! お母さんもお兄ちゃんも目を輝かせている……魔王様にはお父さんを推薦するようお願いしよう。とりあえず私がお妃になる話はうやむやになってよかった。
「俺を倒せたらだけどな! よしニーナ、メシ食ったらディオルに会いに行くぞ! アレイル潜入だ!」
「ふぇっ⁉」
こ、今晩行くの⁉
ニーナ、そろそろお兄ちゃんの恋心に気付いてあげてw
まだ風邪治りません(´TωT`) 明後日お休みかもです。
明日は更新します!




