お母様のさくせん
ルルさんと魔王様! 一体二人の間に何が⁉
「でもその頃まだ若かった私達は、結婚しているとはいえ一介の魔族……何も出来なかったわ。一つ間違えば不敬罪ですもの」
ああ、魔界には身分制度が無いから、結婚相手の男性の地位によって女性の地位も決まるもんね。お父さんの出世があってこその今のお母さんなのだ。もちろんそのお父さんを支えたのはお母さんなんだけど。
「ちなみに魔王様が人界侵攻から帰ってきた後の魔界ではお世継ぎ問題が浮上し始めたわね。『魔王様は放っておいてもポンポンお作りになると思っていたのに!』と大臣達が騒いでいたとの事よ」
まさか大臣達もチャラ男がいきなり女性遊びをやめるとは思いもよらなかっただろうなぁ……。
でもなんで魔王様はチャラくなくなったんだろ? 今回の人界征服前にも大臣達にお妃様を娶るようにとせっつかれていたのに、全く結婚を考えている気配がないんだよなぁ。
もしかして魔王様……結婚問題を先送りにしたくて人界征服を始めたとか……? 魔王様なら有り得る……。
あ、お母さんとお話し中だった。
「それでね、ルルがこちらでお店を構えてから自然とフローラがルルと仲良くなったの。だから昔の事をフローラにちょっと探りを入れてもらったのよ」
「フ、フローラさんがルルさんとお話したの?」
「ええ。でも『ここだけの話』として返ってきた答えはこう。『魔王様の性格は私の好みと全く逆よ。人界侵攻メンバーに選ばれた際に口説かれたけれど、魔王様にもハッキリそう言ったわ』よ」
「ええっ⁉ ルルさん、魔王様を好きどころか好みじゃないのぉ⁉ 魔王様思いっっっきりフラれてるよぅ!」
そのショックで魔王様は女性不信になったとか……?
「フローラいわく、『あれは本心で事実だと思う』との事よ……。まぁでも今は、魔王様の数々の功績が魔界を発展させたからルルの見る目も変わっているでしょうけれど」
そ、そうだよね? 今の魔王様とルルさんって信頼し合ってる感じだし……。
「じゃぁ……やっぱり後から好きになったんじゃないかなぁ?」
私はまだ諦めないぞ!
「それも調査済よ。魔王様がルルやニーナ達と再び人界征服に乗り出した事で、『魔王様はルルが本命』と判断したフローラがもう一度ルルに探りを入れたけれど『魔王様とはお互い何も無いわ』と」
ええ……本当に何も無いの……?
「だからもう私達は二人をどうこうしようという気は無いの。そもそもルルは年齢的に限界よ」
そう言ってお母さんは少し目を伏せた。
「え? あ、そういえばルルさんって何歳なの? お母さんが呼び捨てにしてるって事はお母さんより下?」
「そうよ、ひとつ下ね」
20代にしか見えないけどそうだったんだ……。ついに禁断の秘密を知ってしまった!
「ルルさん、あれだけ才能があって魅力的なのに独身なんて勿体ないね。でもそっか、私も諦めるよ」
年齢かぁ……お世継ぎを切望されている魔王様のお妃になるにはプレッシャーがすごすぎる。やっぱりアーニャに言わなくて正解だった。
「そうね……ルルの性格からしてあの子は仕事と結婚したのね。でも魔王様のお世継ぎはまだ諦めないわよ! いくら次代の魔王を決める法が『魔族で最も強い者』であったとしても、魔王様のお子ならきっと素晴らしい能力が受け継がれるもの!」
確かに魔界は人界と違って世襲制ではない。しかし魔王様の血を継ぐ者が絶対強者であろうことは容易に想像できる。だってちーとだもん。というか魔王様も先代の魔王様のお子だし。
ちなみに先代の魔王様は魔王軍と近衛隊をシゴキにシゴキまくっていてまだまだ現役らしい。
「……お母さん、実はすでに他の女性をリストアップしてたり──」
「当たり前よ! 社交界で密かに長年続いているブームは魔王様のお妃探しよ⁉ ルルの弟子のシャナがいい線いっているわね! キャロルも候補よ!」
ひぃ! お母さんの目に再びギラギラが宿った! そして超意外な事実!
「も、もしかしてシャナさんキャロルさんを推薦したのって──」
「私達社交界のメンバーよ! オーーーッホホホホホホ!」
お母さんが扇子を扇ぎながら高笑いしている……。身内に刺客がいた……っ!
確かにシャナさんはルルさんに似て魅力的だし、立ち振る舞いも社交界で通用するだろう。キャロルさんはなんだかんだお嬢様だ。二人とも職業的な能力だって突出している。
でも……でも……残念ながら人選ミスすぎるよぉ!
「お、お母さん……シャナさんがゴリ押しで人界に来たがったのはルルさんの狂信者だからだよ? 魔王様を射止めようとしてる素振りなんて一切ないよぅ……。
キャロルさんはもしかしてキール会長がゴリ押ししたんじゃない? 人界では錬金と虫捕りしかしてないよ……。魔王様を使いっ走りにしようとしたし、たぶん錬金術師さんの中で一番魔王様に酔狂してないと思……う……」
お母さんの扇子がポト……と膝に落ちた。
「な……なんですって……? よく聞こえなかったわ、もう一度」
ゴクリ……。
「シャナさんキャロルさんは魔道具とポーション作製しかしてません! ドワーフさん獣人さんと毎日楽しく暮らしてます! ついでにディメンション2号店も楽しんでます! 魔王様なんか眼中になくて人界ライフを謳歌してます!」
お母さんの顔は薄紫色の髪と同化しそうなくらい青ざめ、ポカンと口を開けたままワナワナと震えている……。
「な、なんてこと……やっぱり面接をしておけば……」
お母さん……あわや面接までするところだったんだ……。
確かあの時は急遽メンバーを選抜したから、お母さんが手回しする時間が無かったんだろうな……。
ショックを受けたお母さんは、自室で新しいお妃候補の選定をすると言いお茶会は解散となった。
「納得したのならこの話は他言無用」と言われ、私も久しぶりに自分の部屋で休むことに。
ベッドに寝そべりやっと人心地が付いた。
うーん……魔王様はルルさんにこっぴどくフラれたから女性不信なのかなぁ。……でもホストクラブで生き生きと間接的にお客様を転がしているお姿はそうは見えない。
魔王様が奥ゆかしくルルさんを想い続けているようにも見えないし、そもそもそんな性格じゃない。ルルさんの年齢を考えたら尚更だ。
ルルさんは……年齢のせいで魔王様を諦めてる? だから今回の人界征服ではせめて魔王様を支えたいと思ってるのかな?
でも魔王様みたいな性格の男性は好きじゃないらしいし……本当に好きだったら今回の人界征服よりもっと前にアプローチする時間は何年もあったはず。だからそもそも恋愛感情はない? 私の勘違い?
うーん……わかんない! お母さんとフローラさん以外の人には相談できないし、影から見守ろう。
そしていつの間にか昼寝してしまい、我が家の夕食に魔王様が乗り込んで来たという残念なお知らせで起きた。
お母さま、「ここだけの話」を喋ってしまいましたね。お母さまいわく「恋バナだけはそれが様式美よ!」らしいです(笑)
本当の所は、ニーナが騒がないようにキチンと話す必要があったからです。
8/15(日)はお休みします。




