ルルさんおうえんたい
昼食を食べ終わったら、魔王様とメイリアさん、あとフローラさん達治癒魔法使いがキール会長と別室で打合せするとの事だった。メイリアさんのユニークスキルで魔界のキキューを育成する計画のお話だろう。
残された私達は自由行動となった。
「ニーナ、アーニャ、父さん達に会いに軍に行かないか⁉」
「いいねレイスター! パパをボコボコにして実験体の用意をしよ! 私には治癒魔法を覚えるっていうミッションがあるからね!」
ハッ⁉ そうだ、私にも重要なミッションが!
「わ、私はお母さんの所に行くから!」
「えー、どうせ夜家に帰るだろー」
「ニーナのエタフォでパパを氷刺しにようよ!」
「アーニャはもっとミゼルさんに優しくしてあげてよぉ! と、とにかく私は家に帰るから!」
〈影移動〉を使い問答無用でお兄ちゃんとアーニャから逃げ出した。
お母さんに念話しなきゃ! 廊下の隅っこの陰に隠れて念話開始。
『お、お母さん久しぶり、今いいかな? 私実は魔界に来ててね……』
正確には魔王様の狂信者の館だけど。
『ニーナ久しぶりね! レイスターから聞いているわ。うちへ帰って来るのかしら?』
『う、うん。それでね、お母さんと二人だけで話したいことがあるんだけど』
『あら何かしら?』
『……フッ……魔界の未来を左右すると言っても過言ではない事案だよ!』
『何ですって⁉ 今すぐティールームへ来なさい!』
ブツッ! と念話が切られた。
よし! ルルさん応援隊の活動のためお家に帰ろう! って……どうやって帰ればいいのぉおおお⁉
結局、通りすがりの錬金術師さんに我が家のあるラザファムへの転移陣に案内してもらった。魔王城のある地域一帯が魔界の首都、ラザファムだ。
ふふふ……ラザファムまでくればもう庭のようなもの! 〈飛行〉で垂直に飛び上空から魔王城を目視で確認、それを目印に家のある方向へ真っすぐ飛んだ。
うちに着いたら、屋敷を懐かしむ暇すら惜しく真っ先にティールームへと向かい入室した。
「お母さんただいま!」
「おかえりなさいニーナ、元気そうね!」
ああ、お母さんの笑顔を見るとホッとするなぁ。
すでに着席していたお母さんの向かいに座ると、お茶を入れ終わったお手伝いさんをお母さんが人払いした。
「錬金施設に行ってきたのですって?」
淑女は本題からではなくまずさりげない話題から始めるのだ。お母さんの目は「さっさと終わらせて早く本題を!」と言っているけど。
「うん、あんなに魔王様に熱狂的な集団があるとは知らなかったよ」
「うふふ……あそこは特殊ね」
その他に人界の虫害対策で殺虫剤を作る件を話そうとしたけど、お母さんはフローラさん経由ですでに知っていたみたい。魔界と人界のディメンションの話もしたいところだけど、そろそろお母さんの目がギラギラしてきた。本題に入ろう。
「ところで私すごい事に気付いちゃったかも……」
「……何かしら?」
コト……としなやかにティーカップを置いたお母さんの瞼が持ち上がると、そこには軍事会議モードに入った鋭い眼光が!
「フッフッフ……実はね……」
お母さんが扇子で口元を隠しながらゴクリ……と唾を飲んだ。
「ルルさんが魔王様を好きみたいなの! 魔王様のお世継ぎ問題が解消されるよ!」
「なんだその事……」
一瞬でお母さんの目は輝きを捨て去った。
あ、あれ? なんで? 恋物語が好きなお母さんなら飛びつくと思ったのにぃ!
お母さんはふぅ、と息を吐いて私にこう続ける。
「ニーナが思い付く事を私が思い付かないはずがないわ。……なんて意地悪かしら? ふふっ。でもその話ならとっくに終わっているのよ」
あうっ! 確かに言われてみればそうだ! 魔王様ファンのお母さんが魔王様の女性関係を調べ尽くしていないわけが無かった!
「そ、そっか……。でもとっくに終わってるってどういうこと?」
「……今とは違って、若い頃の魔王様は女性に目が無かったのは知っているかしら?」
「そういえば昔はチャラさ100パーセントで出来てたって魔王様が言ってたよ……」
「そう、手あたり次第女性を口説いていたわ。もちろん私やフローラも。でもその頃私達はすでにガルスターとミゼルから求婚されていたし、節操の無い魔王様は一部の女性陣から引かれていたの」
魔王様ぁ……。
「で、でもお母さん、魔王様のファンだよね?」
「それは一切女性の影を見せなくなってからよ。くっ……! こんなにお堅いお方になると知っていれば……っ! ……いえ、やはり私はガルスターを選んでよかったわ。魔王様と……なんて今考えるとやはり恐れ多いもの。遠くから拝見する事しか出来ないからこそ熱狂できるのよ!」
い、今の話はお父さんに絶対秘密にしよう……。
「な、なるほどね……確かに女性の影がなくて手の届かない所にいる人には憧れるらしいね」
ミアさんを狂信しているアルディナさんを見て、私はそういう世界を理解した。
「そうなのよ! ……話が変わるけれど、ルルは元々魔界の最西、ヤトゥーシュ地域の生まれなの」
ヤトゥーシュ……。ここ首都ラザファムは魔界の東側だけど、西のヤトゥーシュは魔界で二番目に発展している地域だ。
「そうだったんだ。ルルさんはラザファムに魔道具のお店を構えてるからこっち出身かと思ってたよ」
「ヤトゥーシュで魔道具師としての頭角を現したルルを魔王様が引き抜いて、昔の人界侵攻メンバーに加えたのよ。そして8年位前にラザファムでお店を開いたわ」
「へぇ~。昔からうちにルルさんが魔道具を設置しに来てたよね。あと魔王城に遊びに行った時にも見かけたね。あれ? でも8年以上前から魔王城で見なかったっけ?」
「人界侵攻帰還から今の店を経営する前までは、魔王城お抱えの魔道具師だったのよ。でも独立するよりも魔王城にいた方が環境が良かったでしょうになぜかしらね……」
あ……魔王様が言ってたルルさんの「限界が来た」って、魔王城のお仕事で何かあったのかな? それで城を出たんだ……。
「へぇ……」
「魔王様に話を戻すけれど、子供の頃から手あたり次第女性を口説いていた魔王様も人界侵攻の時にはさすがにピタリと女性遊びをやめたの。そして帰って来てまた遊びが始まるかと思いきや、そのまま枯れたかのように一切遊びをおやめになったわ。『もう女遊びはやめた!』と言ってね……」
え? 昔の人界侵攻って魔王様が成人して魔王就任してわりとすぐだよね? そ、そんな若さで枯れちゃったの⁉
でも魔王様、カルムさんはじめドワーフさん獣人さん達はちゃっかり口説いてたんだよねぇ……?
「ま、魔王様に何があったの?」
「もちろん私と私のお友達は、まだ魔王様に手を付けられていなかった地方出身のルルが原因と睨んだわ!」
おお! ここで出てきたルルさん! 一体二人の間に何が⁉
久しぶりにお母さま達が出てきました(∩´ω`∩)
体調不良のためストックががが! 明日は更新するつもりです。




