オタクの早口はなぜ噛まないのか
ブクマ評価感想ありがとうございます(∩´∀`)∩ワーイ
魔王様の偉大さについてメイリアさんと熱弁し合うキール会長の後を付いて歩いて行き、私達七人は広い客間へ通された。
すでにティーセットが用意してある……。そして壁際にローブを着た錬金術師っぽい人が沢山並んでる! なぜ⁉
「ささ、皆様ご着席くださいませ。ここにいる者達は一目魔王様のお姿をその目に焼き付けたいと止められませんでしてな! あっそうだ! 魔王様のお姿を物理的に目に焼き付ける方法を開発しましょう! 角膜に魔王様の姿絵を着色すればいいので⁉ いや水晶体? ……おーい! ちょっと医療部門から目の専門家呼んできておくれー!」
ひぃ! 眼球をどうこうしようとしてるのはメイリアさんだけじゃなかった! 眼球に魔王様の顔面装備とか錬金術師怖い! 壁際の錬金術師さんも「その手があったか!」みたいに目を輝かせないで⁉
「おい、それは流石にやめろ。錬金の邪魔になるぞ?」
魔王様! このマッドサイエンティスト達を止めて!
「ぐぬぬ……しかし! その試練、超えてみせましょう!」
試練でも何でもないし超えなくていいよぅ!
「とにかく目は取り返し付かないから魔王命令でダメだ! 魔王城みたいに肖像画でも飾ればいいだろ……」
魔王様が初めてまともな魔王命令を出した!
「くっ……かしこまりました。肖像画ですがもう全部屋飾ってあります! 魔王様の偉大なる功績を記録した銅像とレリーフもですね──」
そういえば魔王様の後ろ、上座の壁に魔王様の肖像画が……。
そして会長さんは、いつ息継ぎしているのかと思うくらい絶え間なく延々と魔王様語りを始めてしまった……。やっぱりこの施設にいると休めないよぅ!
ちなみに会長さんの演説の間に昼食が運ばれてきており、すでにみんな断りを入れてありがたくいただいている。
ハッ⁉ そうだ、魔王様名刺を教えてあげればこの暴走が止まるかも⁉
メイリアさんに念話で提案してみたら「……任せて……」との事だった。
「──そして! なんと義務教育である学校を卒業した後は元々あった魔術戦闘学校やこの錬金施設など数々の高等専門学校への門戸が広く開かれたのです! これまで家庭でしか学ぶ機会のなかった子供達の未来までも──」
「……キール会長……その話は後でゆっくりと……それよりキキューの話を……」
メイリアさんが会長さんの演説を止めてくれた。
というかメイリアさん……後でじーっくりと魔王様名刺の布教活動をするつもりだ! いや、いいんだけど、紹介しちゃいけない人種に宣伝することになっちゃったかも……。
「おお、そうでしたな! いやはや、父の研究が役に立つ日が来るとは! これも全て魔王様のために用意された運命のようなもの!」
ん? キール会長のお父さん?
「あーそうだ、みんなに言い忘れてたけどキールはキャロルのじいちゃんだぞ。ちなみにメイリアの家族も錬金術師だからこの施設で働いてる」
キャロルさん実はお嬢様⁉ ……なるほど、だからおじいさんに調べものを頼んだんだ。この施設の会長さんだもんね。
「えー! そうなの⁉ 会長さんあと三年で死んじゃうんだよね? キャロルちゃんが言ってたってニーナから聞いたよ!」
そういえばアーニャにその話をしたことがあるけどちゃんと伝わってない!
「アーニャ、それはご老人ジョークだよ……」
むしろ「魔王様がお作りになったこの施設永続のため!」とか言って不老不死の薬を開発し永遠に生きそうだ。
「え? そうなの? ちゃんと言ってよニーナー!」
「はっはっは! では魔王様がお作りになったこの施設永続のため、不老不死の薬を開発し生き長らえましょう! あっ、でも毛生え薬の開発途中でした。ぐぬぬ……どちらを先に……またもや試練が!」
……本当に言った。
「毛生え薬は永遠のテーマだよな、ははは! キールところでさ、治癒魔法使いの手配は整ってるか?」
「はいっ! この場に二人おります。あともう一人そろそろ到着するはず……」
その時客間の扉がバァアーーーン! と開き、そこには青髪をふんわりアップにした貴婦人がいた。
「アーニャー! 来ちゃったわ!」
「あっ! ママ! やっぱり来たんだね!」
ええっ! フローラさぁん! なぜアーニャのお母さんがっ⁉
「アーニャのお友達のためだもの! ママ久しぶりに治癒魔法使っちゃうわよ!」
「ありがと! エメラルドグリーンの髪の子がメイリアちゃんだよ! ママ今日治癒魔法教えてね! 魔術式が分からないよ!」
「任せてちょうだい! 『聖属性なんて闇との共鳴に邪魔』と言っていたアーニャが治癒魔法を覚えたいだなんて! とりあえずドマゾのミゼルで実験しましょう!」
「そうだね! パパのプロポーズ、『ゾンビアタックならガルスターに勝てるから一生僕に治癒魔法をかけてくれ!』だもんね!」
ええ……ミゼルさん、うちのお父さんに勝つためにそんな戦法を……確かにドマゾだ。
というかフローラさんは治癒魔法を使えたの? ちょっとアーニャに聞いてみた。
「ア、アーニャ、フローラさんが治癒魔法を使えるなんて私知らなかったんだけど……」
「ああ、『聖属性魔法が使える魔族は弱い血統』って迷信を信じてる古い魔族がいるから、ママは家族と親しい人以外には内緒にしてたんだよね! マリリアさんはニーナとレイスターに言わなかったんだ?」
「うん、お母さんは人の秘密をペラペラ言う人じゃないから」
「そっか。今は魔王様のおかげで『全属性使いが最強説』が軍に浸透してきてるんだけどね~。実際ママは昔魔王軍に入れたくらい強いし」
アーニャの家はうちのお父さんお母さんと同じで職場恋愛だ。お母さんとフローラさんは妊娠をきっかけに軍を引退したらしい。
「な、なるほど……その迷信のせいで『魔族は聖属性魔法を使えない』っていうのが一般常識になってたんだね」
「うん。今でもまだ治癒魔法を使えるって公言してる魔族はかなり少ないよ! 公言してない人を入れても、使える人が一握りなのは確かじゃない?」
「魔族と聖属性は相性悪いもんね。だから最初アーニャが聖属性を発現させた時はビックリしたよ。フローラさんが治癒魔法を使えるからアーニャにも素質があったのかなぁ?」
厨二病の執念だと思ってた。
というか……お父さんもお母さんも聖属性は使えないから、お兄ちゃんが〈聖なる光〉を使えたのって実はすごい事なんじゃ……? これこそ厨二病の執念?
「悔しいけど多分そうだね! 私としては闇属性しか使えないっていう設定も捨てがたかったんだけど……」
アーニャ、ポロッと「設定」って言った。
「そ、そっか……」
さっきフローラさんが言っていた『聖属性なんて闇との共鳴に邪魔』って設定の頃がアーニャの反抗期だったんだろうな。
「今回はアーニャとメイリアちゃんのために、ママ、ついに封印を解くわよ!」
フローラさんはいつの間にか着席しており、優雅にティーカップを置きながらそう言った。
アーニャの厨二病ってもしかしてフローラさんの影響なんじゃ……。
「時刻が来たんだねママ! あ、そういえば……ちょっと悪魔祓いの魔法も知ってたら教えてもらいたいんだけど……あ! 家で! 家でね!」
「何やら物騒ね……かの伝説の高位モンスター、悪魔が本当にいたの⁉」
フローラさん、そっちの悪魔じゃないよ……と思いながらとりあえずみんなが昼食を食べ終わるのをじっと待った。
ちなみに悪魔成分を祓われそうになっているラウンツさんを見ると、頭をフルフル振りながら左手を頬に添え、「ンン~ッ! やっぱり錬金術師ちゃんってみんなお料理が得意なのネッ☆」と言いながらウィンクを振りまいていた。
被害者数は数えるまでもない。
念のため繰り返しますが、ラウンツさんはみんなに愛されてますw ネタにされているだけです。
8/12(木)はお休みします。




