おまじない
ルルさん応援隊はお母さんに相談してみようかなぁ……。
「とりあえず結果オーライって事でいいのかしらぁ? 村人ちゃん達は喜んでるしっ☆」
あっ、いけない、ムーバーイーツ中だった。
「俺のドラゴンも当たりだからこの村はラッキーだな!」
竜の絵はお兄ちゃんだったんだ……。そしてやはり当たりの定義とは。
「レイスターいいなー! 私も私のが当たったところ見たい!」
「残念だったなアーニャ、次からは食糧を置いてったらすぐ次へ転移だ。……ここは村だからまだいいけど、町レベルになると食糧の強奪戦になるかもな……住民の良心に期待するしかないか。何回も運べば食糧が行き渡るだろ」
後半は魔王様の独り言だった。でもそっかぁ……生きるか死ぬかの強奪戦、容易に想像できる。今回1つの町に置ける量はせいぜい荷車2つ分、到底足りないだろうな。
「じゃあ連続で行くから気持ち悪くなったやつは手を上げろよ?」
あっ! 転移が来る! 目をつぶってよう!
そして魔王様が次々と転移をしているのか、頭がぐわんぐわんしてきたので手を上げた。
……あ、あれ? 止まってくれるんじゃないの?
目を開けてみるとまだ魔王様は20秒ごとに転移していた。
……私の手など見ていない! ちょっとぉ⁉ ああああ! 目を開けてたら余計気持ち悪いよぅ!
もう一度目をつぶり転移酔いに耐える。
しばらく私の右手は無視され続け、もう無理と思った所でやっと魔王様の転移が止まった。
「ま、魔王様……私ずっと右手を上げてたんですけど……」
「ん? ははは! 『痛かったら手を上げてくださいね~』ってのは一種のおまじないみたいなもんだ! 無視されるのが普通だ!」
ならなぜ手を上げさせたのっ⁉ おまじないも何もそもそも知らないし、全く効いてないよぅ!
「それより俺の亜空間が空になったからニーナの持ってる食糧よこせ」
「…………」
ジト目で無言の抗議をしながら私の亜空間から食料を外へ出した。
「運ぶよりも食糧と紙を用意する方が手間かかるな!」
「魔王様の転移術が規格外なだけだわ……」
ルルさんはケロッとした様子で魔王様へそう言った。もっと抗議してくださいぃ!
「……流石にルルは転移慣れしてるな。 他のやつらは具合悪そうだから5分休憩するか!」
ぐるりと周りを見渡した魔王様がそう仰って下さったけど……たった5分⁉ 魔王様のオーガ! 悪魔! 大量殺人者めっ!
しかし私の心の声は当然無視され、また連続転移が始まった。終わるまで次の休憩などない。
転移酔いしないようひたすら右手を上げ目をつぶって我慢し、そのせいで瞼の裏にチラつくベビードールの呪いとも格闘し、お昼のクラムチャウダーが喉まで出かかったところで魔王様から終了の合図が告げられた。ちなみにやっぱりおまじないは効かなかった。
お、終わった……。でもこれって今日だけじゃないよね……? みんなの亜空間が倉庫代わりだから量によってはやっぱりメンバー全員で行かなきゃいけないんだよね? 食糧の仕分け直しと紙を挟む作業もあるし。
……「アレイル北側に食糧を運びましょう」なんて気軽に言うんじゃなかったよぅ! みんな巻き込んでごめんなさい!
そして魔王様がディメンション2階へ転移させてくれた。よ、横になりたい……。
「じゃあ休んだらドルムんとこに聖剣を取りに行くかー!」
はっ! 勇者に与える剣……もう出来たの? というかドブグロに行ったら魔王様名刺バレないよねっ⁉
「聖剣⁉ 見たい見たい!」
「俺の邪龍剣とどっちがカッコイイか見に行きたいです!」
「勇者と戦うんだもの、相手の武器の事前調査は必要よネッ☆」
案の定四天王3人が騒いでいる。ラウンツさんは事前調査無しでもゴリ押しで勝てると思うよ。
ルルさんメイリアさんは行かずに部屋で休むらしい。私も休みたいけど……休みたいけど……ッ!
「ま、魔王様、私も、その、四天王なので調査のため……」
「おっ! やっとニーナに四天王の自覚が芽生えたか! 嬉しいぞ、うん」
魔王様名刺がバレないように監視するためだようっ! 魔王様にはまだ秘密にしておきたい! まずはリサさんの名刺を作製して「もうオーダー受けちゃったもんね」という既成事実を作らねば!
「で、では部屋でちょっと休みますので行く時は呼んでくださいね! 絶対ですよ⁉」
急いで自室へ戻り、こっそりメイリアさんに念話で相談したら私の意見に賛成してくれた。
ドルムさんには「もう少ししたら魔王様がドブグロへ行くのでまだ隠しておいてください」と念話しておいた、ふぅ。
30分位休んだらもう外は真っ暗に。
魔王様に呼ばれ部屋を出たらすぐドブグロへ転移させられた。うぅ気持ち悪い……もう転移はお腹一杯だよぅ……。
「ドルムー! 聖剣取りに来たぞ!」
ドルムさんが奥の部屋からバッ! と顔を出し、一瞬私と目が合ったけどすぐに逸らされた。フフフ……分かってますよドルムさん。
「出来とるぞい! こっちに来るんじゃ!」
魔王様と四天王4人でぞろぞろとカウンター奥の部屋へ向かうと、テーブルの上にむき出しの剣が置いてあった。
「うわっ! 近寄ると気持ち悪ィな!」
魔王様が叫んだ。あ……気持ち悪かったのは転移酔いだけじゃなかった、聖剣から感じる聖属性魔力のせいだ。
「ぎゃぁ! 聖なるオーラが出てるっ!」
「気持ち悪いけどカッコイイな! 俺の邪龍剣の方がカッケェけど」
「ンン~、結構気持ち悪いわネッ!」
そのお言葉は失礼だけどベビードール姿のラウンツさんにお返ししたい! 今日私は瞼の裏で密かに戦っていたのだ!
あ、それより魔王様名刺! ……よし、辺りを見渡したけど作製中の素材や図面は置いていないみたいだ。
「ドルム、これの説明をしてくれ」
魔王様が銀とも白とも言えない色の両手剣を手に取った。1メートル位ありそうな刀身はほのかに虹色に輝いている。
「うむ! 柄にセイクルーガという聖魔石を使っておる! これだけ高純度な物は中々無いぞ⁉ キャラリアで見つけてずっととっておいた物を大奮発した、すごいじゃろ⁉ がっはっは!」
椅子に腰掛けドルムさんの作品自慢を聞くこと10分、どうやらすごい強い聖属性の魔石が柄に着いているので、柄を握って魔力を流せば使用者の魔力が聖属性へ変換され放出されるらしい。
……うん、1分で説明できたよね? まぁドワーフさんの作品は本当にすごいらしいから語りたくもなるのだろう。四天王3人は目を輝かせて話を聞いてるしまぁいっか。
私含め、みんなドルムさんにはお世話になっているのでその後の作品自慢も延々と付き合った。ちなみに聖属性は気持ち悪いので魔王様が結界を張ってくださった。
「おいドルム、ニーナが舟を漕いでるからそろそろ帰る。これ代金な、サンキュー!」
ハッ⁉ いけない、寝そうだった!
魔王様が聖剣を亜空間へしまい、代わりに取り出したのは……だ、大金貨10枚以上あるぅ! 勇者育成計画にお金かけ過ぎだよぅ!
「おお! 儲かった儲かった!」
「じゃーなー!」
魔王様の転移でディメンション2階に帰ったら、ルルさんメイリアさんが晩御飯を作って待っていてくれた。お腹に優しいクリームリゾットだ、ありがたい。
コーディさんはまだ1階で営業中。
食べたらお風呂は洗浄魔法で済ませて、すぐに横になって寝た。なんか魔王様の叫び声が聞こえた気がしたけど疲れていたので微睡みに身を任せた。
そして私はまた忘れていた。アレイルで重要なミッションを任されていたことを。
おまじないは歯医者さんでよくあるアレですね。
次回、ルル視点かもです。




