完全犯罪(合法)
メイリアさんの魔力を辿ってドブグロの店内に入ると、カウンター奥のテーブルでメイリアさんリサさんがドルムさんとお話していた。
私も中に入れてもらって合流成功。ククク……。
「ただいま戻りました! どんな感じで進んでますか?」
「あっ! ニーナ、作戦はバッチリコン!」
「……リサさんがどうしても魔王様の名刺が欲しいって言うからドルムさんにお願いした……ついでに私の分も……」
「ふふふ……なるほどですね! ドルムさんっ! 私の分もついでにお願いします!」
「任せるんじゃ! メイリアは上手い事ハイドをハメおったの……がっはっは! あやつがこれを知った時の顔を想像したら笑いが止まらんぞい!」
ドルムさんもノリノリだ! 完全犯罪は上手くいきそうフフフ……。
「ドルムさん、言い出しっぺはリサって事でよろしくコン! じゃないとメイリアとニーナが怒られるコン!」
「うむ、わかったぞい。 しかし……ぐはは!」
笑いの止まらない私達4人はカードの素材や装飾、姿絵の表情やポーズをたっぷり2時間ほど話し合った。
「……ドルムさん……私とニーナのは宝石付きだから200万ディル位もらってもいいと思う……」
メイリアさんが値付けをしてくれた。
私もそれくらいの予算は覚悟している! 魔王様とのお給料交渉に成功し、ずっとお給料を貯めこんでいた私は小金持ちなのだ! アレイル出張手当も交渉してよかった!
「なにっ⁉ そんなに儲かるのか⁉」
「だ、だって素材代だけで50万するんでよね? 縁の金細工や原石の宝石加工もありますし、もっと高く売ってもいいくらいですよ! メイリアさんの提示額は妥当です!」
「リサは全財産はたいても20万しか出せないコン……ゴールドで金細工にしたいコン……」
リサさん……全財産を魔王様の顔面に貢ぐんだ。私もペガサス並だから人の事言えないけど。飾りボトルを入れるお客様の気持ちがやっと分かった……!
リサさんのは試作品第一号として作る事にして、オマケ価格の20万でメイリアさんが話をまとめてくれた。絵はリサさん自身が描くからタダだ。
「うむ、リサのはそれで受けるぞい!」
「わぁい! ありがとうコン!」
「……ドルムさん……今後オーダーを受注する際の値段設定は、金細工無しで素材代の2倍、金細工はプラス50万を目安にするといいです……。
……でも魔王様名刺は、威厳を保つためにどんな素材でも最低額は金細工無しで10万、有りで60万……。……宝石付きはその都度クレイドさんに相談してください……。
……販売代金の中からリサさんに10万支払ってもらうからそれもプラスして下さい……」
つまり最低額は20万。魔王様の顔面を装備できるんだからこれでも安いくらいだ。
「おお……わかったぞい!」
「わぁい! リサの絵が10万ディルもするコン! いっぱい稼いだら豪華なのも作るコン!」
ちなみに純金は柔らかいので、暴走するドルムさんにメイリアさんからストップがかかった。結果、混ぜ物をして硬度を上げる事になったので純金よりお安くなり万々歳だ。魔王様名刺は永久保存するから硬度が高い物でなくてはならない。
「じゃあリサさん、ミアさんに宣伝よろしくお願いしますね! ミアさんのお客様も絶対ドブグロに発注しに来ますから、ドルムさんもよろしくお願いします!」
「わかったコン! リサは今からニーナとメイリア希望の素描を書くコン!」
「ガッポリ儲けるぞい!」
「……ありがと……」
「ありがとうございます! ではまた!」
そして私とメイリアさんはディメンション2階の自室へ帰った。
むふふ……魔王様名刺楽しみだな。私のは黒のカードに金細工をして赤で描いてもらうんだ! そしてルビーを散りばめて……魔王様イメージと金と赤のおめでたい色でよくばり三色キラキラ名刺だ! そして姿絵の表情は……ぐふふ……えへへ……。
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翌朝、朝食を片付け終わったらアーニャが「発表があるからみんなこっち来て!」と言い出した。
みんなでダイニングテーブルの横に集まる。……嫌な予感。
「ジャーン! 四天王3人の装備を買ってきたよ! マントも!」
そう言ってアーニャとお兄ちゃんが亜空間から取り出したのは、真っ黒なフード付きロングマント3着と、十字架が刺繍された黒と白のフリフリワンピース、至る所に髑髏が描かれたシャツやなぜか破けていてチェーンなどが付いているズボン。
これは絶対アーニャとお兄ちゃんのだ! なんでこういうデザインを目ざとく見つけてくるのぉ⁉ アーニャの魔眼は本当にあるのかもしれない。
そして最後に残っているコレが必然的に私の服という事に……イヤァアアアアアアア‼
「見て見てっ! ニーナの可愛くないっ⁉ ブヒエルちゃんのお店で買って来たんだ!」
「あらニーナちゃんにピッタリ! はみゅエルちゃん、お洋服だけは可愛いものね。うふふ……」
「キャッ! ニーナちゃんがお人形さんみたいになっちゃうわネッ☆」
アーニャが淡いピンクと白のフリフリワンピース(リボン特盛)を私の身体に当てがり、ルルさんラウンツさんとキャッキャし始めた。
私の意識は飛びそうだ、メイリアさんの細腕に支えられ辛うじて立っている。テーブルの上にチラリと見える白のフリフリニーハイソックスや無意味に厚底なピンクの靴、リボン付きヘッドドレスも私にトドメを刺した。
コーディさんが哀悼の笑みを浮かべ、ススス……と後ろ足で自室に戻って行く。あ、諦めないで……助けて……。
「ア……アーニャ……私……『普通の服』って言ったよね……?」
「うんっ! 装備じゃなくて『普通の服』を買ってきたよ! イメチェンしないとニーナだってバレちゃうでしょ⁉ 私とレイスターもついに封印を解くよ!」
アーニャと「普通の服の定義」について事前に話しておくべきだった……。
「これは封印解放じゃなくて、いつもなら絶対着ない服を買っただけだろアーニャ!」
そう言うお兄ちゃんは封印を解く大義名分ができて嬉しそうだ。口元のニヤニヤが隠せないでいる。
でもそんな事より私の服ぅ! ミュリエルさんと同じぃ! アーニャに任せた私の不覚……ッ!
「わ、私自分で買ってくるから!」
「ダメよっ‼ ニーナちゃんはこれで決まりよっ!」
「ひぃ!」
ルルさんが叫んだっ!
「ニーナちゃん? これを、着・て・ちょ・う・だ・い……?」
ニーーーッコリとした顔で私の両肩を掴むルルさんの指がく、食い込んでる……! そして何者にも有無を言わせないその蠱惑的な笑みに、私は……負けた。
「はひぃ……」
そしてすごすごと自室に戻った私はその時知る由も無かった。
ルルさんとメイリアさんも完全犯罪を企て始めた事に……。
次回は二つ名発表なのですが、7/30(金)はお休みします、ごめんなさい! どうしても読みたい小説があるんです(∩´ω`∩)




