おとうさん公認
コナーさんはよくエルドラド2階層をウロウロしているなと思ったら、農業関係を取り仕切っていたらしい。暇人だと思っててごめんなさい。
コナーさんが魔王様から渡された紙に売れる物リストをスラスラと書いてくれ、サンプルの作物もくれた。
「よし、じゃあニーナ行くか!」
「も、もうですか⁉」
「……魔王様……キキューの成長促進だけでも進めておきたいです……」
「あー、決戦日終わったしな。よし! とりあえず魔界は手配しておこう、久しぶりの里帰りだな!」
「……ありがとうございます……」
ひぇ! 私は連れて行かれませんようにっ! すでに休日が潰れてるのにっ! あ、でもお父さんお母さんには会いたいかも。
なんて考えていたら魔王様にディメンションへ転移させられていた。私だけが。
ちょ……魔王様名刺のミッションがあるのにぃ! 魔王様邪魔ぁ! こっそりメイリアさんに念話でお願いしておいた。
魔王様に言われてアンナさんのお父さん、アントンさんへ念話する事に。ヒュドラ買取の際に来ていたモンテナ商会の旦那さんだ。
アンナさんのお父さんは同じ「アン」が付くしモンテナ商会は最後に「ナ」が付くからアンナさんの名前から連想してなんとか思い出した。
『あ、あのぅ……魔族のニーナと申しますがアントンさん今お話よろしでしょうか?』
『……おおニーナさん! うちのアンナがそれはそれはお世話になっているそうで!』
ひぇ! こ、これは皮肉⁉ ごごごっごめんなさい! 沢山お金使って頂いてます!
どどど、どうしよう! 「うちのアンナをたぶらかしたのはお前かーーー!」とかって怒られちゃうのかな⁉
『アンナが持って帰って来たキウイとやらを早速試食しました! 仕入れをさせて頂けるとか⁉ その件でしょうか?』
あ、よ、よかった。アンナさんの夜遊びはお咎め無しらしい。
そしてアントンさんに、魔王様とお話したいと伝えたらいつでも来てくださいと言われた。むしろ今すぐ待ってます的な勢いだった……。さすが商人さん、お金の匂いには敏感だ。
「魔王様、モンテナ商会のアントンさん今すぐ来てほしいくらいの勢いでしたよ……」
「よし、さっさと終わらせて看板とムーバーイーツだ!」
パウリーさん達、生きてるかな……。ムーバーイーツってなんだったっけ?
アントンさんに聞いたお店の場所までぽてぽてと歩き始めたら魔王様に「遅ぇ! 走れ!」と言われた。しくしく……仕方なく身体強化で走って向かった。
着いたお店は……すごく……大きいです。5階建てでディメンションよりずっと大きい。
「魔王様がいきなり中に入ったら人族のお客さんが混乱しそうですね」
なんて話していたら店員さんらしき人が出てきた。アントンさんに言われて私達がいつ来てもいいように待っていたらしい。……やっぱりすぐに来て正解だった。
そしてこの歓迎の手回しの良さ……ククク……モンテナ商会もすでに魔王様の支配下だ!
店員さんに連れられて、お店の3階の客室らしきお部屋に通された。階段を上る途中に見えたけど、1階が食料品で2階が魔物素材売り場だった。規模がすごいなぁ。
「よう! 魔王のアーデルハイドだ! アンナがうちの店の獣人に沼ってるけど大丈夫か?」
ぬ、沼? ハマってるって事かな? 的確な表現だ……。
「お待ちしておりました! アンナの父のアントンと申します。 いやぁ、前のアンナは『旅芸人を追いかけて旅商人になる』と言った友達に付いて行こうかな~なんて言っておりましたが……今はむしろ街から出たくないと言っているので助かっています!」
……言い出しっぺは絶対ルナさんディアナさんだ! アルテミスさんっていう旅芸人を推してるもんね。
「そうか! ははは! 娘は手元に残しておきたいよな。アンナが推してるミアはずっとこの街にいるから安心しろ!」
「ミア殿はたまにうちに遊びに来ていますよ。獣人の女の子なら安心です!」
アルディナさんの家族は「街を飛び出しそうな娘をお金で解決できるなら」と夜遊びを容認したんだな……ディメンションに意外なバフ効果を発見。
そしてミアさんとの関係がすでに親公認になってる……。女の子だからってのもあるかもしれないけど。
そして魔王様とアントンさんはエルドラドにしかない作物の取引交渉を始めた。
相変わらず魔王様の値段設定はエグい……コナーさんから渡されたサンプルのビワやザクロという果物などを試食したアントンさんが唸っている。
「今回はたまたま収穫時期が重なったけど、今後は作物によって時期がバラバラだからモンテナ商会にちょこちょこ卸す分しか量が無いな~!」
うん、メイリアさんのおかげで全部一気に実ったね……。
「はて? 冬の果実ではないのですか?」
「うん、植えた時期によって収穫時期も変わる。エルドラドはダンジョンだからなんか特殊らしいぞ?」
キャラリアも常春だったらしいけど、作物を植えるとその作物に必要な一定期間が経ったらなぜかちゃんと実ったらしい。同じダンジョンのエルドラドもそうなんじゃないかとコナーさんが言っていた。
「季節ごとに新しい果実を買い付けできると……?」
「おう! ここにしか卸せないってことはアントンが独占出来るぞ? だから一箱20万ディルでも倍以上に化けるだろ! 大店のモンテナ商会の腕の見せ所だ! ブノワ商会より大きくなっちゃうかもな~!
……な? 楽になっちまえよ……」
ブノワ商会……はみゅエルさんの実家で街一番の商会だ。
「くっ……確かに独占できるならば……っ! 分かりました、その話で受けましょう!」
アントンさんが落ちた。いつも通り魔王様が魔王様らしい。最後は輩みたいな口調だったけど……。
「ところでさ、ここってアレイルに食糧輸出してるか? 大店だから国からなんか依頼来てるだろ?」
「おお、国から大量に発注が来ていますよ。アレイルへ輸出していますが国境まで遠くて大変です」
「だよな。……ちょっと俺様がサクッとアレイルに食糧を置いてくるから輸送を任せろよ」
「えっ⁉」
「俺は亜空間魔法が使えてどこへでも転移できる、と言えば分かるか? しかも無料だ!」
「どこへでも転移……流石魔王様……。しかし無料とは……タダより怖いものは無いというのが商人の常識です」
確かに! 守銭奴の魔王様がタダにするなんて裏があるに決まってる! わ、私がアントンさんを守らねばっ!




