2回目の決戦日 アレン回想 前編
アレン回想編なのではみゅエルが来店した所からさかのぼります。3話完結。
「こんばんゎなのだっ☆」
「決戦日楽しみにして来たにょ~♡」
ああ、あの声はみゅう達が来たな。席に着いていた指名客との会話にキリがついたところでみゅうの席へ向かう。
「みゅうお待たせ! 来てくれてありがとう!」
「アレンきゅんっ! きょぉはあの子たちにかちゅのだ☆」
「あはは、あそこは手強いよ?」
「ふっふっふなのだ~! しゅりと作戦を考えてきたからお任せなのっ☆」
う~んなんだろう。まぁ代表が暴言を吐かないように釘を刺してくれたから大丈夫かな。それより終わった後のフォローを考えなきゃ。
ネフィスもゆっくりとした足取りでこちらの席へ来た。無愛想な顔はいつもの事だけど、嫌々なのが僕にはバレてるよ?
「じゃあルフランのナンバーワンをお祝いしてモエリ紅白持ってこーい!」
カリンちゃんの先制攻撃だ! ルフラン、カリンちゃんの事は頼むよ。
みゅうとしゅりのキキちゃんカリンちゃんへの対抗心はものすごいようで、コールが始まるまでの間、会話のほとんどがカリンちゃん達3人を見下すものだった。
娼婦に違いないとか誰にでも股を開いてるとかセンスが無いだとか頭が悪そうだとか、聞くに堪えないな。人の悪口を言う人は、それが自分自身にも当てはまっている事に気付いていないピエロになってしまうのに。
でもこうやって人をけなす事で自分達の価値が相対的に上がると思っているんだろう。そういう人間は一定数いる。でもそういう人種に考えを改めさせようとしても無駄だ。自尊心を満たすためにとりあえずみゅうのいい所を無理やりひねり出して褒めてあげた。
ヴァンのマイクが始まったので「ちょっと行って来るね」とカリンちゃん達の席へ向かう。ネフィスはいつの間にかダッシュで向かっていた……。
カリンちゃん達の席をナイト全員で半円状に囲み、右手を頭上に掲げ上下に振りながら拡声魔法でコールをする。
僕はみゅう達に見えないよう、カリンちゃんの真ん前をネフィスと陣取って壁になった。もうネフィスとは阿吽の呼吸だ。
ヴァンのマイクは勢いとリズムがあって僕は好きだ。ナイト全員コールは体に染みついている。
「「「それでは! 『それでは!』 素敵な! 『素敵な!』 姫から! 『姫から!』 一言! 『一言!』 頂きまっしょい! 『オーイ!』」」」
「モエリ紅白だけで終わらないからね? 今日、確実に、息の根を、止めるッ‼」
カリンちゃんはコッ! と舌を鳴らし首を掻っ切るジェスチャーをした……。カリンちゃんも相当お怒りのようだ。
こんなこともあろうかとカリンちゃんの真ん前を陣取っておいて正解だった。
ネフィスはため息を漏らしながらキキちゃんの隣に座った。僕はみゅうの席に戻らなきゃ。
「むぅ! アレンきゅんっ! ユニコーンとペガサス入れりゅっ!」
カリンちゃんの挨拶代わりの煽りで2人の闘争心に火が点いた。
「しゅりちゃん、もうすぐネフィス戻って来るから待ってて?」
「うにゅぅ~~~! ムカツクのだぁ!」
「なんでらしゅとおーだーなのぉ? 早く飾りボトル欲しいよぉアレンきゅん!」
「うんあのね、決戦日のラストオーダーは特別なんだ。ラストオーダーで勝負が決まるからね。だから今入れたらラストオーダーでは何も出来ないよ? そっちの方が悔しくないかな?」
「みゅ……それはいやぁ」
「みゅうはプリンセスらしく優雅にワインを飲んでいたらいいよ。ユニコーンとペガサス本当にありがとう、嬉しいよ。これなら勝てるね!」
「うんっ! アレンきゅんだぁいしゅきっ☆」
「可愛いね、みゅうは」
この2人は今日ユニコーンとペガサスしか入れないから、今入れてもラストオーダーでカリンちゃんの前でなす術もなく負けて怒り狂い、僕とネフィスが鎮める事になる。
それならラストオーダーで戦わせて「勝てると思ったのに残念だったね」いう風に持って行った方が楽だ。
この間の交換条件で、「決戦日は2人でユニコーンとペガサスを入れる」と言われたから今日の伝票は1枚。つまりネフィスと折半だから総計390万の半分、約200万が僕の売り上げだ。
「ユニコーンを2本入れるのはあの女と同じ飾りだから嫌、ペガサス2本は流石に高い、だから2人でペガサス1本」と言われネフィスと頑張って交渉した結果、なんとかユニコーンとペガサスになった。……代償は……忘れる事にする。
カリンちゃんは絶対に1人で300万は使ってくるから、実質みゅうとしゅりの個人戦は負け確定だろう。
キキちゃんはモエリ黒とクリハー予定だから、キキちゃんには勝った事にできる。そもそも被りはネフィスだからカリンちゃんは関係無い。そういう風に持っていってなだめよう。
しかし……やっぱりV2は難しいな。今日で400万いければいい方、そもそもルフランの方が実力は上なんだ。でも看板の名に恥じぬよう、ナンバー5には意地でも入る。
さて、みゅうのラストオーダーは確定しているから、もう他の席へラストオーダー交渉に行きたい。
レオに念話して呼んでもらった。
「アレンお借りします!」
「みゅう……ごめんね、決戦日はどうしてもお客様が沢山来るから……応援、してくれるかな?」
「みゅ? やだやだ! みゅうはユニコーンとペガサスいれりゅんだよっ⁉ 他のコとは違うもんっ☆」
うん、2人で入れるね。はぁ、でもエースな事に変わりはない、しょうがないからもう少しここにいよう。
内勤に3回呼ばれてやっと抜けられるのがいつものパターンだ。その点、ネフィスのオラオラはすぐ抜けられるから便利でいいな。
指名客の席をひと周りしてついに内勤が「ラストオーダーです!」と声を掛け始めた時に、ラウンツさんから念話で『V1卓ご指名行ってちょうだいっ☆』と次に着く席を指定された。
指名客に着く順番はナイト個人の裁量でやらせてもらっているのに珍しいな。……ん? V1卓は空席だったはず。誰が来てくれたんだろう?
そう思いながらVIPへ歩みを進めると、そこには黒いワンピースを着た小柄で細身の女の子がいた。ミテコにすら見える。
初めて見る子だ。看板に載ってから初回指名は珍しい事じゃないけれど……。
ともかく女の子の隣に座る。
「ご指名ありがとうございます! 『恋の無限螺旋階段へエスコートします』アレンです! お名前を伺ってもよろしいですか? プリンセス」
初回客は大体これを待ってるからいつも通り笑いに変える。
……あれ? 返事が無い。笑ってもくれない。
女の子は下を向いてポツリと言った。
「……クー……です……」
ミテコ=「身分証提示困難」の略。 ホストクラブに入れる年齢じゃないという意味です。
7/16(金)はお休みします。




