2回目の決戦日 駆け込み来店!
誰が来たのっ⁉ もうナイトさん達の太客は揃っているはず!
チラリと入口を覗くとそこにはふくよかなご婦人が……マママ、マーガレットさんんん!
「おやっ⁉ マーガレット姫……どうして……」
バレットさんがマーガレットさんに気付いて入口まで来た。
「わ、わたくし考えましたの! バレット様が席に着けなくても、わたくしが一人で勝手にお酒を嗜む分には問題ないのではなくって⁉」
マーガレットさん……お金だけ貢ぎに来た!
「しかし……」
バレットさんが後ろに振り返った視線の先にはVIP席……。 店の奥にあるとはいえ、ダンスホールのせいで見通しのいい店内は入口にいるマーガレットさんからもバッチリ見えている。
うう……実は2席空いてるんだよぉ! 貴族のお客様はある程度戻ってきたけど、まだクラリゼッタさんの件が尾を引いていて完全には戻って来ていないのだ。
マーガレットさんが一般人だったら「一般席は満卓です」って断れたのに!
「席は空いているのですわね⁉ わたくし、ヘルプも不要でございますわ! 一人でお酒を頂くだけならさしてご迷惑にならないでしょう⁉」
マーガレットさんがグイグイ来てる! そんなにバレットさんを看板に載せたいのぉ!
「ははは! バレット入れてやれ!」
魔王様がバックヤードのカーテンをめくって入口に向かって顔を出し、バレットさんに許可を出した。
「……かしこまりました。 ではプリンセス、ご案内いたします。 いやぁサプライズでこんなに嬉しいのは初めてですよ!」
「喜んでいただけてよかったですわ!」
バレットさん……指名手配看板決定だな。 声は嬉しそうだけど冷汗をかいている気がする……。
「魔王様、そろそろラストオーダーいきますか?」
マーガレットさんが席に座って落ち着いた頃にコーディさんが言った。
「長引きそうだからな、もういこう」
ピポン!
ひぇ! また来た! 誰っ⁉ もうラストオーダーだよぅ!
開いた扉の先にいたのは裾の長い黒のワンピースを来た女の子。
あれ? 初めて見る人だ。 女の子は胸の前でぎゅっと両手を握ってオドオドと視線を泳がせている。
ナイトさん達はみんな席に着いているのでラウンツさんが入口にやって来た。
「おかえりなさいませプリンセス。 当店は初めてでいらっしゃいますか?」
「ひっ! ま、まぞく……本当に……」
「大丈夫です、人族に危害は加えません。 店内には沢山人族のお客様がいらっしゃいますよ。 姿絵のご購入ですか?」
「違う……中に入りたいの」
「ありがとうございます。 ただ……本日は決戦日というイベントなので初回のお客様は残念ながらお断りしております。 明後日から営業再開しますのでまたお越しいただくのはいかがですか?」
「だっ! だめなのっ! 今日じゃないとっ!」
「……?」
ラウンツさんが首をかしげた。
「お、お金ならある……」
少し間をおいてラウンツさんが「ちょうどお席が空いておりますのでご案内します。 少しここでお待ちいただけますか?」と言った。
えっ⁉ VIPに案内するの⁉ 見るからに一般人だよぅ!
「ま、魔王様! ラウンツさんに念話したんですか?」
「おう、ちょっとVIPに断りを入れてくる」
「VIPじゃ貴族と揉めますぅ!」
私の声は無視され魔王様はVIPへ向かった。
「ルフランくんとアレンくんの看板効果かな⁉ それとも店前の姿絵⁉」
アーニャはワクワクしてるけど、私はあの子が貴族に目を付けられないかビクビクするよぅ!
そして魔王様がバックヤードへ戻って来た。
「VIPの貴族には田舎貴族の娘だって言って納得させたから大丈夫だ」
大丈夫じゃないよぅ……。 もう一度カーテンから女の子を覗いた。
スカートの長い裾を足に絡ませながらもたもたとラウンツさんに付いて行くその後姿は貴族に見えない……そんなにナイトさんに会いたかったのかな?
「ラストオーダーです!」
お兄ちゃん達内勤さんの声がフロアに響く。
ひぇ! 戦争が本格的に始まるっ!
ぴゃっ! とカーテンを閉じて何となくルルさんの背中に隠れた。 カリンさんは何を入れるのかな?
「ルフラン! 後はペガサスでいけそうじゃない⁉」
「……あの子……カリン、ペガサスとあと何入れられる?」
「え? えっと……モエリ黒なら……」
「今月は確実にナンバーワンを取る、いいか?」
「よくわかんないけど……絶対ナンバーワン取ってね!」
「ありがと! カリンを勝利の女神にしてやる!」
「いっちゃえーーー!」
カリンさん……350万持って来てる……。 ルフランさんおめでとう。
「あっ! ニーナ、ラストオーダー盗聴するのは無しだよ! ねっ? ルルさん!」
「うふふ……これが決戦日の楽しみですものね」
「う……わかったよぉ。 カリンさんのだけ聞いちゃった」
〈集音〉解除。
「もうっ! 言わないでね⁉ 私今月は────」
〈空間固定〉!
「アーニャも絶対予想を言っちゃダメッ!」
固定を解除した。
「……もうっビックリしたー。 わかったよー! 呪いかけられたくないからね!」
「楽しそうね? うふふ」
「ルルさん……全く楽しくないです……」
「ニーナの呪いは強力すぎるんだよ……」
「強力な呪い? 今度術式を教えてほしいわ」
「ルルさんの目が潰れるのでやめた方がいいです!」
術式ではなくただのラウンツさんのベビードールデザイン画を渡す事になる。
「ぶはは! ルル、お前が考えてるようなもんじゃねぇよ」
魔王様が呪いの正体を言ったら、ルルさんは「それは死ぬまで解呪できない呪いね……最強だわ」と慄いていた。
しかも術者は呪いの内容を知っていないといけないので術者が一番強力に呪縛されている。
お兄ちゃんも『残夢の呪縛』を名乗るならこの呪いを使えるようになった方がいいと思う。 今度教えてあげよう、フフフ……。
そんな話をしている間に内勤が全ラストオーダーを取り終わったようだ。
「モエリ白からいきます! 2卓3卓5卓────」
コーディさんのオーダー復唱によってキッチンは戦場と化した!
「音楽いっくよー!」
あわわ! シャンコラッシュは集音解除してても爆音で聞こえてくるんだよぉ!
コーディさん私に逃げ場を! キキマカリンさんとはみゅエルさんの戦いは観戦したくないっ!
今日のコーディさんは鬼気迫った顔でオーダーの復唱をしながら伝票を捌いている!
お邪魔にならないようそっと横の椅子に座った。
「「「いーよいしょ! 『いよいしょ!』 始まりました! 『始まりました!』」」」
始まっちゃったね……。 モエリ白からどんどん色んな席でシャンパンが開けられていく……。
何度目かのシャンパンを取りに来たラウンツさんがツヤッツヤの笑顔でこう言った。
「カリンちゃんのコールは2回に分けるわよぉっ☆」
「ラウンツさんさっすが~!」
先月アレンさんがやった技だ! ってことは……姫の一言があと2回あるの⁉ ひぃ! はみゅエルさんと戦わせる気満々だよぅ!
「ラウンツさんが提案しましたね⁉ やめてくださいぃいい!」
「アタシはカリンちゃんの味方よっ☆」
みんなカリンさん大好きすぎるっ!
「「「いーよいしょ! 『いよいしょ!』 こちらも始まりました! 『始まりました!』 素敵な! 『素敵な!』 シャンパン! 『シャンパン!』 ぶち込んで! 『ぶち込んで!』 くれたのは! 『くれたのは!』 こちら! 『こちら!』 素敵な! 『素敵な!』 姫と! 『姫と!』 王子の! 『王子の!』 お席に! 『お席に!』 なんと! 『なんと!』 なんと! 『なんと!』 なーんと素敵な! 『なーんと素敵な!』 モエリブラック頂きました! 『ありがとうございます!』 ディメンション全員集合! 『集合ー!』」」」
ついに最終兵器カリンさん第一弾発射!
うわーーーんっ! 誰も止めてくれないよぅ!
カリン「私は変身の度にパワーが遥かに増す。私はその変身を後2回残してる。この意味がわかるな?」
もう、カリンちゃんが主役でいいよ……。




