メイリアのターン!
「あわわわわ!」
腕を欠損した軍人さんは血の気の引いた顔で唇が真っ青だ! 叫ぶ気力もないみたい。 ポーションか何かで最低限の止血はしてるみたいだけど……。
するとメイリアさんがカウンターに片手をついてヒラリと飛び越え、軍人さんの口にポーション瓶らしき物を突っ込んだ。
「なっ! 何を! …………腕が!」
にょきにょき生えてきたよぅ!
「……秘薬は300万ディル……払うか払わないかはあなた達が決めて……」
……きゃあー! メイリアさんが男前すぎるっ‼
「くっ! …………感謝する」
「必ず払うわ! ありがとう!」
「ベルラ! 勝手に決めるな!」
「もうっ! 兄さんったら! ……ごめんね、今は手持ちが無いの。 私がうまく言っておくから待ってて……」
「……ん……」
サッとカウンターに戻っていく後ろ姿までカッコイイ……。
「キングバジリスクにやられたのか?」
お兄ちゃんがライオットさんに話しかけた。
「ああ、毒をもろに食らったところをやられてしまった。 俺がいながら……クソッ! 倒した事には倒したが、硬い鱗に剣が効きにくくて相性が悪かったな……」
「魔法使わなかったのか?」
「今回は魔術師は置いてきた。 軍でも貴重だからな、何かあったら困る」
人族はあんまり魔法が使えないのかな?
「そうなのか……」
「兄さん! 宝はあった?」
「あったぞ。 ……あ」
ライオットさんがメイリアさんの方へ向かって行き金塊を渡した。
「これで足りるか?」
あれメイリアさんが金貨を潰したやつぅ! 返ってきちゃった!
「……ん……」
「ポーションのような物もあったんだが……こんなのが出るダンジョンは初めてだな。 何か分かるか?」
分かるも何もメイリアさんが作ったよ!
「……高級ポーション……欠損以外の怪我は治る……」
「高級ポーションだと⁉」
「えっ! ……このダンジョンはそれだけでも冒険者が殺到するわよ」
「アラッ! 嬉しいわぁ!」
「おっ! 冒険者に来てもらえるのか?」
「……多分来る事になるだろう。 新しいダンジョンが出来たことは国王様と冒険者ギルドに報告しておく。 あとは知らん」
なんかツンデレだなライオットさん。
「国王様に報告するから撤収するぞ!」
「「「はっ!」」」
「またね、ニーナちゃん、アーニャちゃん……と……」
「メイリアちゃんだよ!」
「メイリアちゃんありがとう」
「……秘薬売っただけ……」
「ふふっ。 じゃあね」
「さ、さようなら」
ライオットさんとベルラさん達はすぐに野営セットを片付けて、後から来たキングバジリスクの解体素材を持って来た軍人さん達と合流したら帰って行った。
アーニャが「……払うか払わないかはあなた達が決めて……」と何回もメイリアさんの台詞を練習してる……。
どうやらアーニャの中の「カッコイイ台詞集」にランクインしたみたい。
「メイリアちゃんお手柄だったわね! ところで高級ポーションがこれから必要になりそうだけど、希少な物じゃないのかしら?」
あ、そっか……高級ポーション目当てで冒険者が来るならメイリアさんが作らなきゃいけないんだ。
「……高級ポーションなら素材は平気……でももっと深い階層だとそれ以上のポーションが必要……それはあんまり素材が無い……」
「10階層以降のボスは別の宝を用意しないといけないかもしれないのか……魔王様に相談しようぜ。 あと今日はもう誰も来ないだろうから魔界に帰れないかな……」
お兄ちゃんはおうちで寝たいらしい。
「魔王様に念話するわね」
ルルさんが魔王様に念話したところ、あてがあるので明日魔王様がこちらへ来るとの事だった。
「ルルさん! 今日は魔界で寝れるんですか⁉」
「あ……ごめんなさい聞き忘れたわ……」
お兄ちゃんとコーディさんが絶望してる……。 一体テントの中で何があったの?
野営の準備をしてご飯を作り、食べたら男女に別れてテントの中へ入る。 洗浄魔法で体や服を綺麗にしたら寝袋でおやすみなさい。
「私達が街でホストクラブを開けるようになったら、ダンジョンの管理はどうするんですかね?」
「そういえばそうね……魔王様はそこもあてがあるのかしら……」
「確かに! メイリアちゃんは飾りボトルとダンジョンのポーションも作らなきゃいけないし、大丈夫?」
「……大丈夫……お店が暇な時に片手間で作れる……」
「すごいね……。 あ! 今日のメイリアさんカッコよかったね」
「うんうん! ……払うか払わないかはあなた達が決めて……シビれるぅ!」
「…………」
メイリアさんは顔を真っ赤にして寝袋に潜ってしまった。
「そろそろ寝ましょうか。 また明日魔王様からの無茶振りがありそうだわ……」
ルルさんそれってフラグってやつじゃ……。
「おやすみ!」
「おやすみなさい」
──────────────
広場で朝食の片付けをしていたら魔王様がお店の中へ転移していらっしゃった。
「おはよう。 メイリア、大金貨10枚と金塊とかを渡しておくな。 助かったよ、これから何とかするからしばらくよろしく頼む」
「……はい……」
「魔王様おはようございます。 これからの計画を教えて頂いてもよろしいかしら?」
「ん、ちゃんと考えてきたぞ。 本当はダンジョンが落ち着いてから実行するつもりだったんだが……。 簡単に言うとドワーフと獣人をここに呼ぶ」
「えっ! ド、ドワーフや獣人ってホントにいるんですか?」
お話の中だけの世界だと思ってたよ!
「いるぞ。 昔人界を探索した時に彼らの隠れ里を見つけた」
「イケメンいるかな⁉」
「アーニャはイケメンから離れろよ……」
「アーニャを連れてってやるから自分の目で見ろ。 話を続けるぞ」
アーニャは立膝をつき両手を組んで天を仰いでいた。
ちょ、聖なる者とか呼び出さないよね? その祈りのポーズはやめて欲しい。
「ドワーフ達の隠れ里はな、人界の東側にあるキャラリア山脈の中のダンジョンにある。 だが昔行った時にはすでにダンジョン崩壊の兆候があったんだ。
それで俺は彼らが移り住むためのダンジョンをたくさん作ってみたんだが、人が住めるようなダンジョンは中々出来なくてな……」
「だから魔王様はディアブロが出来てお喜びだったんですね」
「おう、弱い魔物しかいない森なら住めるからな」
「ドワーフちゃん達がここに移り住むとどうなるのかしらぁ?」
「ドワーフは鍛冶が得意だから武器を作って宝箱に入れてもらう」
「なるほど……今まで出回っていなかったドワーフの武器なら値が張るわね。 ゆくゆくはダンジョンの経営も彼らに任せるという事かしら?」
「ルルの言う通りだ。 だがこのダンジョンに移り住むかは彼らが決める事だからな……」
「……ドワーフ達……何で隠れてる?……」
「ああ、それな。 簡単に言うと昔人族が彼らをいいように利用したから人間不信な訳だ。 特に獣人は純粋だから騙されやすい」
「なら魔王様とアタシ達が後ろ盾になれば、人族も手を出せないから来てくれるんじゃないかしらっ⁉」
「そうなるといいな。 他に彼らにメリットがあるとなおいいんだが……」
「はい! 要は口説けばいいんだよね? ならプレゼントだよ!」
「わ、賄賂ですか……?」
「コーディさん人聞きが悪いよ! 友好の証だよ!」
「……アーニャはたまに核心をつくな。 実は彼らは物に弱い、純粋だからな。 俺達が彼らを利用するんじゃなくて、共存するつもりなら受け入れてくれるかもな」
「仲良くなるのならアタシに任せてっ!」
「あ、うん。 さて何が喜ぶかなー……ドワーフならやっぱ酒とか鍛冶素材だよな。 獣人はモフモフのちっこい魔物が好きだな……」
「……魔王様、この森でモフモフを捕まえようとしてませんでしたっけ? あと、邪龍退治の時の素材って残ってませんか?」
「……それだ! よくぞ思い出した! 俺はニーナが覚えているか試したんだ、うん」
……絶対忘れてたよね?




