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広域展開術式の実験

 今日は5週目1日、明後日は決戦日だ。

 いつも通りメイリアさんとエルドラドに行って、そのあと私だけ姿絵の追加納品を取りに行ってディメンション2階へ帰って来た。


 ……魔王様とメイリアさんがダイニングにいる。 うう……またお仕事の匂いがっ!

 魔王様はオルガのキキュー群生地域情報と王様の手紙を受け取って来て下さったらしい。


「キキュー採集や運搬の見積もりは魔界の財務部で出す。 メイリア、ルルの術式は完成したか?」


「……まだです……」


「よし! ルルに聞こうぜ!」


 するとルルさんがお部屋から出てきた。 魔王様が念話で呼んだんだな。


「魔王様、術式は完成したわ。 ……これ以上改良出来ないくらいに」


 何だろう、ルルさんがちょっとしょんぼりしている。


「そうか。 メイリア、実験してみるか?」


「……はい……」


 そして魔王様はルルさんと私も一緒にエルドラド2階層へ転移させた。




「おっ! コナー! ちょっと聞いていいか?」


 あ、いつも農作業をしている犬の獣人さんのコナーさんだ。 私とメイリアさんのお話を粘り強く聞いてくれたいい人だから覚えてる。


「ハイド様! 何ですかワン?」


「今から2階層にある植物を成長させっからよ、いいか?」


「えっ⁉ ぜひやってほしいワン!」


「おっけ! ルル、術式の範囲ってどれくらいだ?」


 ルルさんが名残惜しそうに魔術式の描かれた紙をメイリアさんに渡した。


「……メイリアちゃんが指定しただけ出来るわ。 メイリアちゃんの負担を考えて制限をかけたかったけれど……無理だったわ」


 ルルさんが悔しそうに言った。 メイリアさんは眼球を上下左右目まぐるしく動かし術式を見ている……真剣だ。

 少ししてメイリアさんが魔王様に(うなず)いた。 も、もう術式を読み解いたの⁉


「じゃあ俺がメイリアに魔力供給すっからよ」


 魔王様がメイリアさんの背中に右の手のひらをあてた。


「……いきます……」


 メイリアさんが両手を前に出した。

 すると風もないのにぶわっと圧力を感じた。 魔力感知をしなくても分かる……メイリアさんからものすごい魔力が放出されている!


 植物はメイリアさんの足元から始まり、扇状に成長し始めた! わぁ~すごいすごい!


「……ふっ……ふっ……」


 メイリアさんを見ると脂汗をかきながら苦しそうにしてる! あああ! 頭が割れるほど痛いって言ってたもんね! 無理しないでぇ!


「メイリアちゃん! もうおしまいよ! 実験なんだから!」


「……まだ……足りない……」


 ルルさんの言葉を無視してメイリアさんが魔力放出を続けてる……。 魔王様止めてぇ!

 もう私の目に見える範囲の小麦や野菜はつやつやと実り、遠くの草木までにょきにょき成長している! 雑草の高さは私の腰くらいまであるよぉ!


「おいメイリア、もう終わりだ」


「っ⁉ ……これで最後……っ!」


 メイリアさんがバッ! と両手を左右に広げるとザザザザァーーー! っと後方まで一気に植物が伸びた!


「バカッ!」


 魔王様がメイリアさんから手を離したと同時にメイリアさんが地面に倒れ込んだ!


「……ッガァッ! ……ガハッ!」


「メイリアさんっ!」

「メイリアちゃん!」


 メイリアさんの目鼻口から血がっ! ひえぇえええ!


「あわわ! ポーション!」


 ルルさんに膝枕されたメイリアさんに、私が持っていたポーションを飲ませてあげる。

 ……ずっと使う機会が無かったから古いけど大丈夫かな? ごごごごめんなさい! これしか持ってなかったんですぅ! でもメイリアさん特製だから大丈夫なはず……。


「おいコナー! 治癒魔法使えないか⁉」


 魔王様が叫んだ。


「ぼっ! 僕は出来ませんワン! 今誰か呼びますワン!」


 くぅ……魔族は治癒魔法を使える人がほとんどいないんだよぉ! 例え魔術式があっても聖属性を使える人でないと発動できない。

 あ……アーニャなら出来そう。 でも魔術式が理解できないだろうな……と思っていたらシアさんがものすごい速度で駆け付けてくれた。 一歩が10メートル位ある……もはや跳躍だ、さすが獣人さん。


「ニャァ⁉ メイリアどうしたニャァ! とにかく〈癒しよ〉……。 私のは初級治癒魔法ニャァ、あとはゆっくり休ませるニャァ……」


「シア、ありがとな。 とりあえずメイリアの部屋に運ぶぞ。 ルルはメイリアの魔法の効果と範囲を調べてから戻って来てくれ」


「わかったわ」




 魔王様と一緒にメイリアさんの部屋へ転移した。


「……俺の魔眼で見た限り大丈夫そうだけど……まさかここまでとは思わなかったぜ。 メイリア、悪い事したな」


 魔王様がメイリアさんをそっとベッドへ寝かせながらそう言った。

 魔王様の哀しそうで、でも慈愛を含んだ表情を見るのは久しぶりだ。

 確か最初に見たのは私が物心ついた頃、お兄ちゃん達とは血が繋がっていないと伝えられた時────


「ニーナ、メイリアの様子を見てやってくれ。 俺は男だから外にいるわ。 何かあったら呼べ」


 魔王様のお声にハッとする。


「か、かしこまりました……」


 パタリ……とドアの閉まる音がした後には静寂だけが残った。 メイリアさんの呼吸は安定している、よかった。


 メイリアさん……あれを何回もやるの……? でも途中まではなんとか大丈夫そうだったから、その時の範囲が大体……いや、ルルさんに任せよう。 今はメイリアさんの身体だ!


 まずはメイリアさんに洗浄魔法をかけて血と汗を綺麗にし、氷と水魔法で冷たく湿らせたタオルで頭を冷やす。

 タオルがカチンコチンに凍らないよう微調整するのは私にとって難しかったけど気合いでやってやった。 キャロルさんの根性気合論は正しいかもしれない。

 2か月間おしぼり作りで鍛えた複合魔法がこんな形で役に立っては欲しくなかった……。


 メイリアさんの身体が熱い。 ふ、服は脱がせた方がいいのかな? でも身体を動かしていいか分からないし……。

 とりあえず服を緩め、風邪をひいた時にお母さんにやってもらったように頭と脇を濡れタオルで冷やした。


 時折タオルを取り換えながら、じっとメイリアさんの様子をうかがう。 目、覚ますよね……?




 西陽に気付いてふと窓を見たらもう夕方だった。

 茜色の空……見ているとたまに胸がぎゅっと苦しくなる時がある。 何故だろう。


「……ニーナ……」


 声に振り返るとメイリアさんが目を開けていた。


「メイリアさん! たたた! 体調は⁉」


「……ずっと寝てた……もう大丈夫……」


「メイリアさんの大丈夫は信用できません!」


「……ふふ……ほら、大丈夫……」


 そう言ってメイリアさんが白い粉を亜空間から取り出し、あっという間にペガサスボトルを造り上げた。


「あ、回復したんですね? 本当ですね? ……よかったです」


 ふっ……と体の力が抜けた。


「メイリアさん……あんなになるまで無理しないって約束してください」


「……反省してる……」


「反省ではなく約束をして下さいっ!」


「……何とかするから大丈夫……」


「むぅ……。 とりあえず魔王様に報告してきますね! メイリアさんは寝ててください!」


 ダイニングへ飛び出すと魔王様とルルさんがいた。 2人で話をしながら待っていてくれたみたいだ。

 メイリアさんの様子を話し、魔王様からとりあえず私ももう休んでいいと言われた。 今日の事は魔王様とルルさんが話し合ってくれるらしい。


 私はお言葉に甘えて自室に戻……あ! アレイル北側の食糧問題!


「魔王様魔王様! アレイルの北側にですね! 食糧を運びましょうよ!」


「ダァーーーッ! ニーナ戻ってくんな! 休め! 食糧な! わかったわかった! 俺がムーバーイーツしてやるよ!」


 シッシッ! っと追い払われトボトボと部屋へ戻った。

 ムーバーイーツ? 何の事だろう……。 まぁいいや、伝えるべきことは伝えた。 疲れたので寝よう、明日は決戦日前の前哨(ぜんしょう)戦だ!




魔王様転生前の時代には〇-バーイーツ無かったんですけどね。 フィクションなのであったって事にしましょうw


次回! 「2回目の決戦日前哨戦! 前半」

でもごめんなさい! 7/4(日)はお休みします。

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