勇者作ろうぜ作戦
お兄ちゃんとアーニャがダンジョンから帰って来て、もうダンスの練習時間だという事で「勇者作ろうぜ作戦」はいったんお開きになった。
今日はもう4週目5日だ。 せめて決戦日の後にして欲しいよぅ!
費用の見積もり計算のために虫害地域の情報をまとめなきゃいけないし、お姫様からはキキューの情報待ちだし、卵を孵化させて実験しなきゃいけないし、ルルさんの広域展開術式も完成していない。
一体魔王様はいくつ同時進行する気なのっ⁉
あっ! 私は名刺と姿絵と製本のお仕事もあるんだった!
確かにお仕事は欲しかったけど……閑散期と繁忙期の差が激しいんだよぅ!
とりあえず魔王様とダイニングで、やる事リストとざっくりとしたスケジュールを書いていたらお兄ちゃん達が昼食のために戻って来た。
あと今日はメイリアさんも部屋から出てきた。 もう人面野菜は食べなくていいのかな? とりあえずメイリアさんがご飯を食べてくれる事に安心した。
みんなで食卓を囲み、魔王様が「勇者作ろうぜ作戦」を話し始めた。
「えっ⁉ 私が月の女神⁉ やったー! 黒の聖典に神を名乗る時の台詞も書いてあるよ! まさかこんなに早く日の目を見る事になるとは……クックック」
「なんでお前女神のシミュレーションまで妄想してたんだよ……魔族だろ……」
お兄ちゃんが呆れながら言った。
魔王様が絡むと途端にアーニャの黒の聖典が役に立ち過ぎる……謎だ。
「えーだってホラ、実は自分は反対属性の生まれ変わりだったりとかみんな一度は考えた事ない?」
「…………ねぇよ」
あ、お兄ちゃんはあるな。
「アタシは逆に、実は乙女だって目覚めたからそういう妄想はしたコト無いわネッ☆」
誰だ! ラウンツさんを目覚めさせたのはっ!
「ルル、術式はどれくらいで出来そうだ?」
魔王様が話を進めてくれた。
「もうほぼ出来ているわ。 決戦日までに一度メイリアちゃんと試してみたいわね」
「オッケー、流石ルルだな! あとは……聖剣を作るのは時間がかかりそうだからドルムに頼んでおくか。 メイリア、バッタの実験はいつ出来そうだ?」
「……数週間で孵化するかと……ニーナ、このあとエルドラドで結界を張ってほしい……」
「は、はい、いいですよ」
「バッタの実験が終わってからオルガとアレイルの会談があるとベストだな、国王に言っておくか。 後は……勇者は早めに探し始めねぇとな」
勇者……ホントに効果あるのかなぁ?
「イケメン探しなら任せて!」
「魔王様がどんな演出で勇者を作るのか楽しみネッ☆」
「おっ、そうだ! 魔族の四天王を作ろうぜ! 四天王を倒させる演出をすれば一発で勇者の地位は確立されるだろ!」
あああ! また余計な仕込みをっ!
「魔王様! してんのーとは何ですか⁉」
お兄ちゃんがワクワクしながら魔王様に聞いた。
「四天王ってのはだな、選ばれし魔王直属の最強幹部4人の事だ! ちなみに最初に勇者に殺られた奴は『殺られたか……だか奴は四天王の中でも最弱……』って他の幹部に言われるのが鉄板だ! 実は一番美味しい役だぞ!」
「スゲェ! 俺四天王最弱やりたいです!」
ええ……そのポジションは本当に美味しいの?
「おっ! じゃあレイスターはなんかコードネーム名乗っていいぞ!」
「コードネーム! 二つ名みたいなものですか⁉ やった! 『残夢の呪縛』がいいです!」
お兄ちゃんも温めてた二つ名があったんだ……。
「はいはい! 私は『片翼の堕天使』!」
アーニャが前に言ってたやつだ。
「アタシは『破壊の乙女』がイイかしらっ☆」
四天王が着々と決まっていく……。
「あと一人誰にすっかぁ〜……ニーナだな! 弱そうなちびっこが実は四天王最強ってポジだ! 光栄に思え! ははは!」
「ぎゃぴっ⁉ 私まで変な集団に勧誘しないでくださいぃ!」
「ニーナは確か『エタフォをこの身に宿すへっぽこの化身』だったよね? 魔王様!」
ひぇ! アーニャってば前に私に付けられた二つ名を覚えてる!
「そんなだったか? クソダセェな! ははは!」
「魔王様のセンスですぅ!」
「しょうがないから私が温めてた『刹那の雪月華』を使っていいよ! エタフォっぽくてよくない⁉」
「私は四天王なんかやりませんっ!」
「無事全員のコードネームも決まったし楽しみだな! ははは!」
強制加入っ⁉
「みんなのお芝居楽しみにしているわね、うふふ」
「ルルさんまでっ! 私と代わって下さい! ルルさんにも『黒薔薇の女王』って二つ名があるじゃないですかぁ!」
「だって……ニーナちゃんのエタフォを見たいもの、ふふっ」
「……また見たい……」
「僕はお店があるので参加できなくて残念です……っ!」
メイリアさんコーディさんまで……。 誰も味方がいないよぅ! うわーーーん!
そして私はメイリアさんと一緒に、リサさんから名刺を受け取ってエルドラド2階層へ。 飛蝗の卵を孵化させるために土に埋めるのだ。
「……ニーナ、新しく結界をお願い……エルドラドの畑に飛蝗が飛んでいったら大変……」
「わかりました! 〈結界〉! えっと、メイリアさんだけオッケーな感じで、飛蝗は絶対ダメッ! って感じ~むむむぅ~!」
飛蝗、ダメ、ゼッタイ! いつもより強力な結界を張った。
メイリアさんが結界の中へ入り、亜空間から取り出した卵を土に埋めている。
結界大丈夫だよね? 念のため結界をドンドンドンドン! と叩いてみた。 よし、私は入れない。
……またメイリアさんが私を残念そうな目で見てるっ!
「こ、これは結界の確認でですね……」
「……ん……ニーナの結界、信じてる……」
メイリアさんのフォローが目にしみる。
そして一緒にメイリアさんの部屋へ帰り、メイリアさんが魔王様とキャロルさんから渡された虫害地域の地図をまとめる作業のお手伝いをした。
「そういえばメイリアさん、オルガの食糧ってアレイルの南で流通が止まっているらしいです。 なんででしょう?」
「……多分、南側の村の分しか量が無いからだと思う……」
「国が買ってるんですよね? まんべんなく配らないのかな?」
「……実際に運んでいるのは役人じゃなくて商人とかだと思う……だからわざわざ北まで行かない……」
「……世知辛いですね。 あ! そういえば今月はユニコーンとペガサスが何本も入りそうです。 在庫ってありますか?」
「……はい……」
メイリアさんが亜空間から取り出したユニコーンとペガサスを3本ずつ受け取った。
「さ、さすがですね……ちょっと1階に行って来ます! 名刺も渡さなきゃ」
メイリアさんの部屋を後にし、営業中の1階へ降りた。
「バレット様が仕立て屋の看板に⁉ わたくし是非応援したくってよ!」
あ、バレットさん指名のマーガレットさんだ。 ふくよかなお身体が武者震いしている……。
「はっはっは! 嬉しいお言葉ですが、ナイトの宣伝のためですから。 私は辞退します」
バレットさん、指名手配されるのが嫌なだけなんじゃ……。
「でも可能性はあるのですわよね⁉」
「私は決戦日に席に着けませんから……他のナイトがナンバー10になるでしょう」
「……くっ! 何という事……!」
マーガレットさんは唇をかみしめている……。 諦めてください! バレットさんのためにも他のナイトさんのためにもっ!
厨二病界隈での ♰刹那♰ の人気は異常。




