ただのエグゼクティブエンペラーだ!
これが軍人さんが言っていたビラだ。 ビラにはこう書かれていた。
[オルガは魔族と手を組んだ! 世界の悪に正義の鉄槌を! 今こそ立ち上がれ! 魔族の少ないうちにオルガを叩け! これはオルガと魔族が癒着している証拠である! オルガの王族が魔族に資金供与した!]
その文字の下には「クラリゼッタ・ルド・バラデュール様 会場契約金 10,000,000ディル ディメンション」の領収書の絵が。 ご丁寧にディメンションが魔族経営の酒場であることまで書かれていた。
「こんなの嘘ですっ!」
「ニーナ、分かっている。 お前が発行したのは会場代10万ディルだろ? これは改ざんされている。 そもそも絵だしな」
「っていうか、私クラリゼッタさんのフルネーム知りませんっ! クラリゼッタ様としか書いてないですぅ!」
「……ツッコむのそこかよ。 まぁ分かった、全部改ざんされてるって訳だな。 俺らが進出する前にウチの店の宣伝ご苦労様だぜ」
「宣伝とは逆になってますよぅ……。 そういえば軍人さんが、誰がビラを撒いたんだろうって言っていました。 このビラの事だったんですね」
「よし、ニーナの報告を聞こう」
魔王様にそう言われ、私がアレイル城で聞いた事をお話しした。
「……ルーガルか。 ルーガルが戦争を扇動してんのか……? ちょっと考える、ニーナお疲れ。 やっぱ役に立つな! 偉いぞ!」
わしわしと魔王様に頭をなでられた。 えへへ。
「ルーガルが黒幕⁉」
「マジかぁ~ルーガルヤバー!」
アーニャとキャロルさんがルーガルヤバいヤバイと騒いでいる。
ラウンツさんとお兄ちゃんはルーガルを攻め落とす算段を相談し始めた……。 ダメだよ、燃やしたらディメンション系列店が出店できなくなるよ。
「アレイルはオルガと戦争するコン……? リサ達もオルガ国民コン……」
ポツリとつぶやいたリサさんの言葉でみんながシンと静まった。
そうだ……オルガの問題はエルドラドの問題でもある。 やっと崩壊寸前のキャラリアから移住して落ち着いた所なのに。
戦争になったらエルドラドの住民も徴兵されるのかな……?
「大丈夫だリサ! 戦争なんて俺が蹴散らすから安心しろ! 俺が責任をもってお前らを保護するってミア達に約束したからな!」
あ、そうだ。 魔王様は戦争になるかもって分かってて移住を早めたんだった。
一体魔王様はいくつ責任を引き受けるおつもりなんだろう? 私なら人の命がのしかかっている責任なんて怖くて無理だ。
「さすがハイド様コン! 悪い奴が来たらリサもやっつけるコン!」
「だからそうはさせないって! リサは戦うのも好きだよな、ははは!」
とりあえず帰ろうぜ、と仰った魔王様の転移でディメンションへ帰った。
──────────────
そして次の日、気付いたらまた私はオルガ城の来賓室にいた。
……だからなんで私を連れてくのっ⁉ 今日はラウンツさんも一緒だけど。
「よう国王! アレイルとの会談決まったか?」
ぎゃぴっ! 王様! 急いで挨拶した。
「調整中じゃ。 ……本当に乗り込んでくるのか? 我が国だけでなんとかならんかのぅ」
「ルーガルの噂は聞いてないか?」
「ルーガル?」
王様はキョトンとしている。 宰相さんはいつもより一層真剣な顔になった。
「アレイルはルーガルと何かしらの契約をしているようだぞ。 ルーガルは軍事国家で武器や魔道具の開発が盛んだろ? 多分武器を大量生産したはいいが金が無くなって他国に売る方向へシフトしたんだろ。 武器製造大国が利益目的で戦争を起こすのはどこの世界も一緒だな」
えっ⁉ 武器を売るために戦争を起こすの⁉ 武器って戦争に備えて作るものじゃないの⁉ 目的と手段が逆になってるよぅ! どういう事っ⁉
「……は? ルーガルは武器を輸出するために我が国とアレイルに戦争を起こそうとしていると……? 国は玩具ではないぞ! 人の命を金に換えるというのか⁉ なんだその悪魔的な発想は! ルーガルは狂っておる!」
魔王様以外のみんながゴクリ……と息を飲んだ。 王様の言葉はみんなの考えを代弁していた。
「多分流れはこうだろ。 アレイルからしたらオルガはドワーフの武器を手に入れて魔族とも繋がった。 アレイルは、軍事力の上がったオルガと軍事国家のルーガルに挟まれる形になった。
それに目を付けたルーガルがアレイルに武器輸出の提案をしてアレイルはそれに乗った。 アレイルからしたらルーガルの武器を手に入れるって事はルーガルにも対抗できるって事だからな。
だがルーガルは武器さえ売れればいい、だからアレイルとオルガを戦わせたい。 そこで出てきたのがアナーキーだ、アレイルから入ってくればオルガはアレイルに不信感を持つからな。 アナーキー輸出がアレイルの意思だったのかはまだ分からないけど。
そしてさらに予想外の虫害で追い詰められたアレイルは、持て余している武器で国民の腹を満たすために戦争しようか右往左往してるってとこか」
魔王様の説明により大体の出来事が繋がった。 よく推理できたなぁ魔王様……さすが王の器だ。
「……ドワーフの武器に目がくらんだ儂が発端か」
「おっと、後悔は無しだぜ。 それを言ったら人界に来た俺のせいだ」
でも魔王様はドワーフさん達をキャラリア崩壊から助けた。 それだけは誇れる。
「……そうじゃな、過去の事を言っても始まらん」
「虫害さえなければ戦争は回避できたかもな。 ルーガルもここまでうまく事が運ぶとは思ってなかったんだろ、こんなものまで用意してたぜ」
そう言って魔王様は例のビラを王様に差し出した。
「これは……ルーガルが?」
「それはアレイルに撒かれていたビラだ。 アレイル国王にとって戦争の動きは想定外みたいだぞ? だからルーガルの仕業だろ。 クラリゼッタの領収書はルーガルが入手したな」
えっ、物盗りはルーガルが犯人?
「待て、アレイル国王の意向をなぜ知っておる」
「ニーナが盗聴した! ははは!」
みんなの視線が私にっ! サラッと犯人バラすのやめてよぅ!
「わ、私は魔王命令でっ!」
「はー! 俺はホストクラブをやりたいだけなのによー! 魔族を悪者にされたらアレイルにもルーガルにも出店できないぜ!」
私の声は無視されたっ!
「人界で魔族が悪者なのは昔からの共通認識じゃ。 ……悪とはなんじゃろうな」
「俺はただのエグゼクティブエンペラーなのによ~。 確かに昔ちょっと魔王的な事はやったけどさ~血の気の多い魔族をまとめるのも大変なんだよ!」
「え、えぐぜぷてぶ……?」
王様が混乱している。 魔王様は頑なにエグゼクティブエンペラーを名乗るつもりらしい。
「ホストの帝王の事よっ☆」
「ほ、ほすとの帝王……?」
ラウンツさんー! ますます王様が混乱してるよぉ!
「よし! 俺が世界の警察になってやるか! 役職が増えちゃうな~!」
魔王様が意味不明な事を言い出したっ! けーさつって何っ⁉




