ナンバー途中経過
……売上表を二度見した。 私がお休みした2営業日の間に何がっ⁉
「ア、アーニャ……なんでバレットさんがナンバー10に……」
「ああ! バレットさんの元カノが沢山来たよー。 ベロニカさんが『バレット被害者の会』メンバーに教えたみたい」
「ええっ⁉ 被害者の会が発足してるの⁉」
「あはは! 冗談でそう言ってるだけっぽいから大丈夫! なんか同窓会みたいになってたよ?」
元カノさん達は仲がいいの⁉ バレットさんだけ針のむしろの同窓会……地獄だ。 でもバレットさんはあのひょうひょうとしたノリで乗り切ったんだろうな。
「あとはお客さんが買ったバレットさんの姿絵を見たオバサン達がチラホラ来てたからねー。 看板に載っちゃうかも!」
確かに、うちのお店に通っているお客様のお母さんや、さらにはおばあちゃんまで来てたのをちょこちょこ見かけた……。
「……魔王様ぁ、バレットさんはナンバー10に数えるんですかぁ?」
「ははは! パウリーも若者向けの服だけを作ってる訳じゃないしな、看板に載せてもいいんじゃねー?」
「えぇ……」
バレットさんの看板、指名手配の看板みたいになるのでは……。 被害者が続々と名乗りを上げそうだよぅ!
「今月アレンくん厳しいねー!」
「あ、ホントだ。 えっと、今ナンバー5かぁ」
「看板効果はあったけど、新規のお客さんは単価が安いからねー! フトリゼッタさんと貴族が減ったのが痛いね!」
アーニャの言う通りだ。 改めて売上表を見てみる。
ざっくりと、ミアさん191万、ルフランさん159万、ネフィスさん123万、ヴァンさん118万、アレンさん91万、セシルさん90万。
看板効果とはみゅエルさん祭り、名刺祭りがあったからトップ3人は好調だ。 ヴァンさんはお客様が多いから今月も安定している。
7位からは60万を切る。 ホストクラブは意外と売り上げの差が大きいのだ。
先月ナンバー下位の人達はギリギリ生活できるかできないかくらいの売り上げだった。 売り上げとは別に支給されている3ヶ月間の日当が出ている間に、どれだけお客様を掴めるかが勝負だと魔王様が言っていた。 ナイトは顔だけじゃダメらしい。
ちなみに10位のバレットさんは約36万。 多分マリンさんが11位のアッシュさんをナンバー10に押し上げてくれるだろう。
「アーニャ、ネフィスさんヴァンさんは今月二つ名をもらえそうだね」
「うん! もう考えてるから楽しみにしてて!」
……ヴァンさんはナンバー5に入らない方がずっと夢を見ていられるから幸せだと思う。 ネフィスさんは二つ名が欲しくないのにほぼ確定してしまい、お給料と引き換えに色々と葛藤している気がする。
そして今日の営業が始まり、キラキラカリンさんが帰ってはみゅエルさんが来店した。
ひぃ! ギリギリ被らなかったよぅ! 毎日ヒヤヒヤする!
「おい、しゅり、決戦日は何入れる?」
「はにゃ?」
「まだ飾り入れてねぇだろ、あいつがハートベアより高いの入れてくるから負けんなよ?」
ネフィスさん……恐喝とかで訴えられないのかな? オラオラと紙一重だよぅ!
あいつっていうのはキキさんの事だな。 別卓、つまり他の席のお客様の名前は言わないのがマナーだ。
「はみゅう~……しゅりは可愛いにょがいい!」
「よし、ボトル棚行くぞ」
「あっどこ行くのぉ~ネフィスきゅんっ!」
ネフィスさんに付いて行くシュリエルさんは飼いならされたペットみたいだ。
「みゅうも見に行く?」
「みゅ? 見るだけにぇ☆」
アレンさんも便乗してる……。
ボトル棚に来た4人はあれがいいこれがいいときゃっきゃしている。
「くましゃん可愛い~♡」
「あいつが入れたろ」
「にゅ……じゃあこのハートにょぉ♡」
「それは決戦日にあいつが入れる、被るぞ?」
「にゅう……」
「ユニコーンかペガサスにしろ」
ネフィスさん~! 全然選ばせてないよぅ!
「あっ! あにょキラキラのやちゅがいい〜♡」
「ユニコーンデコは500万、ペガサスデコは1000万だ。 さすがしゅりだな!」
「はにゃっ⁉ ムムムッムリだよぉ~!」
「冗談だ、ノーマルペガサスでいいか? 可愛いだろ」
「……いくりゃ?」
「200」
「高いのだぁ~!」
「じゃあユニコーンだ」
「でもぉ~これあにょ女と被りゅぅ!」
カリンさんの事だ。 シュリエルさんはネフィスさんの誘導尋問によってユニコーンとペガサスを悩んでいる。
「ねぇみゅう、ペガサスってまだ誰も入れてないんだよ? みゅうが入れたら最高額だね!」
「えっ⁉ みゅうが一番⁉」
「そうだよ。 みゅうが入れてくれたら嬉しいな!」
……アレンさん恐ろしい。 今まで出た最高額はお姫様のくまさんデコだけど、持ち帰ったから証拠は無い。 クラリゼッタさんのシャンパンタワーもとっくに跡形など無い。
そして確かにペガサスは出た事がない、もし入れたら今月は最高額だ。 嘘は言っていない、完全犯罪だよぅ!
「にゅにゅぅ……でも高いよぉ……」
そして4人は席へ戻り、決戦日に何を入れるか水面下で心理戦が繰り広げられていたけど、聞いてて疲れるので集音魔法を解除した。
「はみゅエルちゃんユニコーンとかペガサス入れるのかな⁉ カリンちゃんもペガサス入れそうだよね!」
「そうだねアーニャ。 あ、メイリアさんに飾りボトルの在庫を確認しておかなきゃ」
そしてはみゅエルさんのお会計が終わり、お見送りをしたアレンさんネフィスさんがダッシュでキッチンへ来た! 何々⁉
「「ガラガラガラガラガラガラガラ!」」
……2人ともものすごい勢いでうがいをしている……まさか……。
「メイリアちゃん! 何でもいいから毒消しちょうだい! 死ぬ! 毒で死ぬ!」
ネフィスさんが叫んだ。 アレンさんも顔色が悪い。
「決戦日までメイリアちゃんいないよ!」
「げぇ! マッジかよ! アーニャちゃん解毒魔法かけて!」
「私の聖属性魔法は効かないんだよね~魔族だからかな⁉」
いや、聖属性はなぜかちゃんと発現出来てるよ……おネエに効かないだけだよ……。
「マジかよ! メイリアちゃんーーー!」
「ネフィスくんとアレンくん、ブヒエルちゃんに馬車チューしたのー?」
ぎゃぴ! アーニャ余計な事聞かなくていいようっ!
「……アレンとした方が100万倍マシだぜ」
「ネフィス……僕を調教するのはやめてね?」
そんな事を言いながら2人は念入りに口をゆすぎ、フロアへ戻って行った。
分かってたけどぉ……ナイトさんって大変だな。 きっと交換条件で出されたんだ……私まで涙が出てきた。
アーニャと「ラウンツさんのベビードールよりキツイけど最強装備よりはマシかな⁉」なんていう世界一どうでもいい当社比を真剣に話し合って今日の営業は終わった。
ちなみに魔王様はずっとクックッと笑っていた。
はぁ……明日はアレイルで卵採りかぁ……やだようっ! うわーん!




