やっぱりカッコイイ魔王様!
「まだ隠してるだろ」
「…………」
「怖いんだろ? 失敗するのが」
「……完璧な作戦をお届けします……」
「俺は完璧な作戦なんて求めてないぞ?」
「……え……」
「いーか、メイリアの作った殺虫剤を利用すると決めたのは俺だ。 全責任を持って実行するのは魔王である俺様だ! メイリアが作った殺虫剤で虫を殺せようが殺せまいが、それは俺が知った上で利用する。 いいとこ取りは俺の得意技、メイリアが取れるなんて勘違いするなよ? だから責任なんか俺にぶん投げて好きなだけ研究しろ!」
魔王様……っ! カッコイイ! さっきまでメイリアさんの事情聴取みたいだったけど、ちゃんとメイリアさんの事を考えてくれてた!
横にいるメイリアさんを見たらうつむいて震えてる。 ……泣いてるの?
「メイリア、花を成長させるのは無理しなくていい、虫害の地域を絞り出せば量を減らせる。 虫害のバッタは探す、実験出来なくてもそれは織り込み済みで俺が交渉する。 お前が危惧している事なんて俺様にかかればチョロいぜ! メイリア、チームワークだ! 責任はみんなで分け合って負担する、だからメイリアは自分が出来る範囲だけで頑張れ!」
「……はいっ……!」
メイリアさんが顔を上げて笑った! よかった!
「お、メイリアでも泣いたり笑ったりするんだな。 可愛いぞ! ははは!」
「…………」
もぉお! 魔王様なんでそういう事言うのっ⁉ メイリアさんが元の無表情に戻っちゃったよぅ!
「じゃーとりあえず虫害の地域とか調べておくな。 あ、ルルがメイリアの魔法で卵を孵化させるのは難しいって言ってたからそれは無理すんなよ? 気楽にやれーじゃあな!」
そう言って魔王様が立ち上がった。 えっ⁉ もう⁉ いつもの事だけどっ!
「メ、メイリアさん、私も一緒に頑張りますから! 何でも言ってくださいね! エタフォだって開放する覚悟はあります! で、ではっ!」
あうっ! つい物の例えでエタフォを出したけどホントに使う事になったらどうしよう! 恥ずかしいよぅ!
とりあえずそそくさと魔王様に付いて行き退室した。
「魔王様! 私の魔王様への忠誠心が爆上がりですよ! ちゃんとメイリアさんの事を考えてくれてたんですね!」
「フフン! うちはホワイトだからな! てかそもそも子供のメイリアには荷が重すぎんだよ」
私もメイリアさんもすでに16歳の誕生日は迎えた。
「15歳から大人ですぅ! というかそれを言うなら最初から私にも無茶振りしないでくださいよぉ!」
「俺からしたら15歳は立派な子供だ。 ニーナの負担はちゃんと減らしてやっただろ」
「あ……そうでした」
いや、でも何か違う! 最初に持ってくる話が大きいんだよぅ魔王様はっ! ホストクラブで人界征服とかホストクラブで人界征服とか。 無駄に振り回されてる気がするのは私だけっ⁉
そういえばなんで魔王様は人界征服メンバーに私やメイリアさん、お兄ちゃん、アーニャを選んだんだろ。 みんなひよっこなのに。
「ニーナ、メイリアの事教えてくれてありがとうな。 メイリアにも親友が出来たな」
そう言って魔王様が私の頭をくしゃっと撫でた。
親友……? い、いいのかな……私が勝手にそう思ってても……。 いや、メイリアさんも勝手に私で人体実験してたからこれくらいは許されるはず! うん、メイリアさんは私の親友だ!
「よし、アリアに念話するか」
ひぇ! 魔王様もう次の行動を! 今日はもうお腹一杯だよぅ!
「……。 じゃあアポ取ったから昼メシ食ったら行くぞニーナ」
「ぎゃぴっ! やっぱりっ!」
あああああ! 何でいつも私を同行させるのぉ!
そしてメイリアさん以外のみんなで魔王様と昼食を食べ、私が「ごちそうさまでした」と言った瞬間にいました。 4回目の来賓室。 オルガ城の。
「ようアリア!」
「ここっここんにちは!」
「ごきげんようなのじゃ」
お姫様に促されソファに腰掛けた。
「早速本題に入るのじゃ。 アレイルの虫害地域じゃがはっきりとした情報は無い、大体の情報だけ渡しておく。 宰相」
宰相さんが魔王様に地図のようなものを差し出した。 ほうほう、アレイルの真ん中あたりで起こったんだ。
「サンキュー、面積はこれに書いてあるくらいか?」
「どうじゃろうな。 だが虫は北から南へ移動したらしい。 風に乗って来たのではとの見解じゃ」
「へー。 じゃあいずれオルガまで虫が来たりすんのか?」
「むぅ……その可能性は、ある」
えっ⁉ たたた大変だよぅ! 食料を輸出している場合じゃないんじゃ……。 魔王様を見るとニヤニヤしてる、なぜっ⁉
「これとは別に人界の詳細な地図ってもらえないか? 俺らは大体しか知らないんだよな」
「む? 地図は命綱じゃ。 次はおぬしが話をする番じゃぞ?」
「ああ悪い、地図は戦争で相手が有利になるもんな。 じゃあ地図が必要な理由を話そう」
ん? あ、地形や町が分かると魔界が人界に攻め込む時に有利になるから渡せないって事かな? 魔王様はそんな事しないけど。 ……いや、昔ルーガルを攻めちゃった前科があるんだった。
「ん-簡単に言うとだな、俺らはバッタを殺す殺虫剤を開発した。 それをオルガが買ってアレイルに撒け。 費用算出のために色々と面積の情報が必要だ」
「…………なんじゃと? 待て、理解が追い付かぬ」
うん、そうだよね!
まず魔王様は、殺虫剤が飛蝗やトカゲにしか害をなさない事、突然変異種の耐性はまだ未確認な事を説明した。
「突然変異種への効力は置いておいて、なぜそのように都合のいいものがあるのじゃ?」
「魔界も昔虫害が起きたことがある。 うちの錬金術師が優秀でな、過去の研究資料の存在を覚えていたからあとは完成させるだけだった、それだけだ」
「ふむ、まぁよい。 して? なぜ我が国が金を出し、実行せねばならぬのだ? いや、魔族ではアレイルを混乱させてしまうという事は分かっておるのじゃが」
「うん、だって戦争を回避できるぞ? 戦争より安くつくだろ」
「……そういう事か。 しかしのう……逆にアレイルに力を与えるとも言える」
「やっぱそこに行きつくか。 理由が食糧不足だけとは考えられないもんな」
……えっと、食糧不足の他にもアレイルが戦争をする理由があるから、その理由を潰さないと虫害を止めても戦争は避けられないって事かな? むしろお腹いっぱいのアレイルと戦うことになると。
ええ……せっかくメイリアさんが殺虫剤を作ったのに。 しょぼん。
「はぁ、先にアレイルと話をしなきゃダメだなこりゃ」
「我が国との会談はできるであろうが、アレイルは腹の内を見せんじゃろう……」
「俺がその会談に勝手に乗り込む。 俺の独断だから問題無いだろ?」
えええ! いきなり強硬手段⁉ 今までコッソリしてたのに!
「なにっ⁉ 何をするつもりじゃ!」
「話し合いだ」
そう思えるのは魔王様だけぇ!
「魔王がいきなり出てきては話し合いどころじゃなかろう!」
「えー、オルガは俺と話してくれたじゃん」
「ぐ……それは段階を踏んでいたからであっての……。 アレイルは武力行使するやもしれぬぞ?」
「そっちの方が都合がいい、俺様の力を見せつけて吐かせる」
魔王様が魔王らしい! 魔王様が人族にお力を見せつけるところ……見たい!
「はぁ……これ以上の事は父上と話してくれ。 わらわの手に負えぬ……」
「オッケー! じゃあ国王の予定押さえたら教えてくれな! あ、そうだ最後に、キキューって花が大量に必要になるから群生地域だけでも教えてくれよ」
あっ! そろそろお話が終わる! 心の準備を!
「む? 殺虫剤の素材か? それくらいならば検討しようぞ」
「おう、よろしく! じゃあまたな!」
お姫様に挨拶をしようと立ち上がった瞬間、ディメンションへ転移していた。 ああ……挨拶は間に合わなかった。
それにしてもアレイルとお話なんて出来るのかなぁ……? 私は連れて行かれませんようにっ!
あっ……でも魔王様のお力は見たい! どうしよう迷う!




