うん、知ってた
ああ……特にメイリアさんから念話もなく営業が始まってしまった……。 仕方なくバックヤードへ待機。
「……アーニャ、ニヤニヤしないでようっ!」
「まだ何も言ってないよ! ……ブフォ!」
「くっ……! きょ、今日は名刺と男本を取りに行ったもん!」
「おとこぼん?」
「姿絵を製本したものだよ、まだお客様いないから見てきたら?」
そう言った瞬間、アーニャは〈縮地〉でホールへ向かった。
「キャー!」
……アーニャの黄色い悲鳴が聞こえる。 あ、戻って来た。
「魔王様! 私も一冊欲しい!」
「あん? 来月100冊作るから本屋で買え。 3万5千ディルだ!」
「高いよ!」
「初版は50冊限定だ!」
「買う! 発売する時は最初に知らせてね!」
……アーニャがまんまと魔王様の罠に引っかかってる。
そして今日もミミマカリンさんが一番乗りで来店した。
「へぇ〜こんなの出来たんだ。 ……でもさヴァン、これでお客さんに呼ばれても『姿絵詐欺!』って言われるだけだよ! こんなにカッコよくないし!」
「ミミリンヒデェ! 俺の姿絵買ってくれたじゃん!」
「あたしは先に実物を見てるから偽物ってわかってて買ったの! 男本を先に見た初回には詐欺っしょ⁉」
ミミマカリンさんの席に男本が……いつの間に。 ヴァンさんが「姿絵詐欺! 姿絵詐欺!」と騒がれている。
「俺はこれで初回ゲットして今月こそ二つ名をもらうんだ! ミミリン今月頼むよ~!」
「えー! ヴァンには『ちんちん魔法のヴァン』って二つ名があるじゃん!」
「だからそれはイヤだーーー! 俺は『絶望の残像』とかがいい! これでも前はシーフで────」
「『絶倫の男根』でよくね?」
「……ちんちんから離れてくれよぉーーー!」
「「「キャハハハハハハ!」」」
ヴァンさん……カッコイイ二つ名がもらえるといいね……。
「魔王様! ヴァンくんがナンバーに入ったら二つ名何にするー?」
「そんなの『ちんちん魔法のヴァン』に決まってるだろ!」
「あははっ! 魔王様エグい!」
ええ……すでにヴァンさんの二つ名はアーニャと魔王様により決定されてしまった。
ヴァンさん……頑張ってもちんちん魔法から抜け出せない運命、可哀そう。 でも何となくそんな気はしてた。
ピポン!
あ、アンナさんだ。
「アンナ! 僕の名刺が出来たニャ! ナンバー1は一番最初に指名してくれたアンナにあげるニャ!」
あ……これは何が起こるか未来予知できる。
「えっ⁉ ……キャーーー! ミアくんが輝いてる! 輝いてるよっ! くれるの⁉ 神対応! 家宝決定! 永久保存するっ!」
「僕のはナンバー0ニャ、これニャ」
「待って⁉ 何枚もあるの⁉ ナンバーって⁉ 顔が違う! ちょっと他も見せて!」
ああ……やっぱり。 ミアさん30枚全部見せるんだろうな。
「待って⁉ 全部オリジナル⁉ ……くっ! 買い占めたい!」
「ニャ? 好きなのあげるニャ!」
「そしたら全部だよっ! ちょっと待って2人を呼ぶから! あ、ナンバー1は私の確定ね!」
ルナさんディアナさんが召喚されるという私の未来予知は当たった。
「アルディナちゃんだけで30枚売り切れそうだね!」
「売り物じゃないよぅアーニャ……。 ミアさん全部あげちゃいそうだね」
「ははは! ありえるな! ミアにはしばらく1人1枚って言っとくか。 アンナ達なら2、3枚やってもいいけどな」
「アンナッ! グッズが出来たってホント⁉」
しばらくしたらルナさんディアナさんが来た。 チラリと覗いてみる。
「ミアくんからのプレゼントだって! 見てっ!」
「待って⁉ 無銭⁉ 神プレ!」
「……くっ! 尊い……!」
「代表から1人3枚までって言われたニャ!」
「待って⁉ 3枚しか選べないの⁉ コンプさせてぇ!」
「ナンバー1はもうもらっちゃった! ごめんね!」
「くっ……アンナは最古参だから諦めるしかないね………」
いつも通り3人が何を言ってるか分からないけどなぜか分かる。
そしてアルディナさんは舐めるように名刺を1枚1枚吟味し始めた……。
3人からは「選別なんてムリゲー!」とか「くっ……!」など苦悶の声しか聞こえてこない。 ディアナさんはいつも以上に苦しそうだ、はぁはぁ言いながら時折ソファに横たわっている。
うん、こうなる事は知ってた。
「「「おかえりなさいませプリンセス‼」」」
「……! は、初めてでいらっしゃいますね? お席へご案内いたします」
「ここでは初めてね」
ん? バレットさんが珍しく緊張してる、どうしたんだろ?
そっとフロアを覗くと……あああっ! 製本所のベロニカさんっ! バレットさんの元カノーーー!
今日お店のシステムを聞かれた時からそんな気はしてたけど……。
「魔王様ぁ! ベロニカさん来ちゃいましたぁ!」
「ははは! やっぱり来たな!」
「えー誰々⁉」
「バレットの元カノだ! このあいだ殺人予告してたぞ!」
「キャー! バレットさん何やらかしたんだろうねっ!」
案の定アーニャがワクワクしてる。 ベロニカさんはグラス割ったりしないよねっ⁉
「あら? うちで製本した姿絵じゃない」
「はは……この中でお好みのナイトがいましたら呼びます、そのためにあります。 ちなみに私はナイトではないので! 内勤の仕事がありますので選べません!」
「バレット……魔王がバレットも指名できるって言っていたわよ? 呼ぶわ。 貴方を。 今ここで」
ひぃ! ベロニカさん怖いよぅ! ノーと言わせない迫力がある!
「……勘弁してよベリー! 昔の事は悪かったって! 今は結婚して幸せだって聞いたよ……過去は忘れるためにあるのさ!」
こんな弱腰のバレットさんなんて見たくなかった……ナイスミドルのイメージがどんどん崩れていくよぉ!
「その減らず口は相変わらずね! 貴方に三股された次に付き合ったのが今の主人よ。 お礼にもう1回殺してあげるわ!」
あああっ! 三股被害者の一人だった! バレットさんは日替わり定食を勝ち取ったって言ってたから、三股のまましばらく付き合ってたんだろうな……。
「店内での殺人は禁止です! 伝票で殺してください!」
バレットさんんんっ! それお客様同士で有効な技ぁ! バレットさんには回復魔法でしかないよぅ! あと店外でも殺人は禁止ですっ!
結局、「伝票で殺す」の正確な意味を聞いたベロニカさんにバレットさんはますます怒られた。
だけどいつの間にかシャンパンが入り、2人は楽しそうな時間を過ごしている。 ……熟年の技は健在だ。
これからもバレットさんの元カノが来ちゃったりするのかなぁ……。 いったい街中にあと何人いるのっ⁉
そして何とか名刺を選び終わったアルディナさんが、お礼にとモエリ赤3連発をした。
「ミアくんっ! いつも神対応ありがとう!」
「死んでいい⁉ ってかもう死んだ! 今日100回くらい死んだ!」
「毎日推しの顔面装備できるなんて神プレ! これからも貢ぐっ!」
推しの顔面装備……。
「いやー! 7500ディルが20万に化けるんだからすごいよな!」
「魔王様さっすが~!」
……魔王様の罠が留まる所を知らない。
そして営業が終わり、晩御飯にメイリアさんを呼んだけどご飯はいらないと引きこもっている。 エルドラドで育てた野菜などを食べているから食事は不要らしい。
……メイリアさん大丈夫かな?
「うん、知ってた」三連発。




