ナンバー0
「アレンさんルフランさん、もう名刺が出来上がりましたよ!」
営業前ミーティングが終わったらニーナちゃんが僕とルフランに名刺を渡してくれた。
「わぁ! すごい! これで2500ディルなんて安すぎるくらいだね!」
「スゲェな……俺が輝いてるぜ。 二つ名も書いてないし……」
ルフランは二つ名が無い事に安堵してる。 あはは。
「えへへー! リサさんとドルムさんはすごいんですよ!」
ニーナちゃんがフンス! と得意げに鼻を鳴らした。
うちの妹みたいだ。 ニーナちゃんってどこか抜けてて、僕がイメージしてた魔族っぽくないんだよな。
「ありがとう、早速お客様に渡すね!」
ヴァンやミア達みんなに見せて見せてとせがまれ、案の定みんな羨ましがっていた。
先にもらえるなんて、やっぱりなんだかんだナンバーワンは色々と便宜を図ってもらえるな。
さて、ナンバー0は記念で自分用に取っておけと代表に言われたけれど……ナンバーワンの僕用はナンバー1の名刺でいい。
ナンバー0はもう渡す人を決めている。
『クラリゼッタ様こんにちは。 今よろしいですか?』
『……忙しいのだけれども? 手短に』
『すみません。 僕の姿絵が描かれた金属のカードが出来上がりました。 ナンバー0、つまり一番最初に作られた一枚をクラリゼッタ様にお贈りしたいのですがご迷惑ですか?』
『姿絵なんて困るわ。 ……カード? 大きさは?』
大きさを説明するとクラリゼッタ様は長考された。
『差出人はクーで送りなさい』
『ふふっ、かしこまりました、クー姫様』
『…………』
あ、切られた。
前に会話の中でクラリゼッタ様の幼ない頃のあだ名を知り、ふいに「クー姫様」と呼んでみたら「無礼ですわよっ⁉」と顔を真っ赤にされた。 意外と嫌いじゃないらしい。
今も真っ赤な顔をしているのかな?
足が付かないようにコッソリ転送する手段が無いかルルさんに相談してみよう。
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「あれ? ニーナお店お休みするんじゃなかったの?」
営業が始まってバックヤードに待機していたらアーニャにツッコまれた。
うう……昼食で胸を張って殺虫剤の件を話し、「魔王様から大事なミッションを任されたので、私とメイリアさんとルルさんはお店をお休みします!」と宣言したのに気まずいよぉおおお!
「け、結界を維持するお仕事があるよ! まだ本格始動してないだけ!」
「つまりまたクビにされたんだね!」
「違うもん! 本や名刺のお仕事もあるもん! そういえばアーニャ、ラウンツさんが最初に発注したベビードールの詳細知らないよね? 1着しか見てないよね? あと2着あるんだよ? 知りたいよね?」
「あ、あー……ニーナは忙しいね! うん! 頑張って!」
フッ……こっちは世界一知りたくなかった情報をパウリーさんからもらっているのだ! ……最強装備の方の発注内容は絶対に聞かないようにしよう。 いのちだいじ。
「お前らホント仲いいな……。 お、ルルどうした?」
魔王様のお声で振り向くと、ルルさんがバックヤードに来ていた。 お休みじゃなかったの?
「アレンくんから念話でちょっと頼まれて。 ニーナちゃん、悪いけど夜中にクラリゼッタさんの部屋へこれを置いてきてくれないかしら?」
そう言ってルルさんが私に渡したのは封筒だった。 裏に「クー」とだけ書いてある。
そういえばさっきアレンさんがコーディさんにペンとかを借りてたな。
「も、もしかして……また不法侵入ですか? クラリゼッタさんに結界の魔道具を作動させられると死人が出ます!」
私は屋敷に侵入してるからいいけど、他のみんながダイニングに集まる事にっ! そしてラウンツさん最強装備のお披露目……ひぇえええ!
「うふふ、秘密のミッションよ! 結界の魔道具は私かシャナちゃんの魔力でしか充填できないからもう使えないわ。 アレンくんとクラリゼッタさんのために、ね?」
魔道具は実質使い捨てだったらしい、よかった。
でも私が不法侵入する事に変わりは無いよぅ……。
「そうなんですね……はい、わかりました。 ところでなぜクラリゼッタさんへ? アレンさんは関わらない方がいいのでは?」
「大人の世界ね。 障害があると燃える恋かしら? うふふ」
そう言い残しルルさんは2階へ帰ってしまった。
……え? 恋? 誰が? アレンさんとクラリゼッタさんが⁉ 噓でしょぉぉぉおおお!
「キャー! アレンくん実はババ専⁉」
「アーニャ失礼だよぅ! ……でも本気なのかな? 魔王様はどう思いますか?」
「フッフッフ……内緒だ!」
「えー! 教えてよ魔王様!」
「気になりすぎますぅ!」
結局魔王様はニヤニヤするだけで何も教えてくれなかった。
そして営業が終わり晩御飯を食べ、私は秘密のミッションへ。 ……ドキドキするよぅ!
「お兄ちゃあん……ついてきてよぅ」
「えー……面白そうだからいいぞ!」
「ホント⁉ ありがとう!」
面白そうだからっていう動機はどうかと思うけど、まぁ1人よりはいいや。 アーニャも野次馬したがったけどうるさいので無視した。
「あ、魔王様に転移お願いするの忘れたよぅ!」
「あー……まぁ〈影移動〉ならどうにでも入れるだろ」
「お兄ちゃんはどうするのっ⁉」
「まぁ見てろって」
とりあえず貴族門の近くまで来た。 ここなら門番から見えないだろう。
「じゃっ俺は先に行ってるな!」
そう言ってお兄ちゃんは身体強化と〈縮地〉で高速移動し闇夜へ消えた。 ……人族なら目で追えないな。
私も〈影移動〉で塀をつたい貴族街へ。
って……あああ! クラリゼッタさんのお屋敷どこっ⁉
ハッ! お兄ちゃんの魔力を追えばわかるかも! お兄ちゃんが来てくれてよかった……。
そうしてなんとかクラリゼッタさんのお屋敷へ到着。 前に隠れた木陰にお兄ちゃんがいた。
「ニーナおせぇな! 迷子になってたか?」
「え、えっと、じゃ行って来るね!」
「はぁ、へっぽこ……」
クラリゼッタさんの部屋なら覚えてる。 スルスルと天井の高さへ上がり、目だけひょっこり出す。
あ、クラリゼッタさん寝てる、よかった。 えっと、封筒はどこに置けばいいんだろ? テーブルの上でいいかな?
小さなテーブルに移動し、手だけだして封筒を置いた。
よし! ミッションコンプリート! お兄ちゃんの所へ戻ろう!
「お兄ちゃん、テーブルに置いてきたよ!」
「お疲れ! なんか潜入って楽しいよな!」
「私はヒヤヒヤするからもうやりたくないよぅ! ところで封筒の中身は何だろうね? 手紙にしては重かったけど」
「あーたぶん名刺だろ。 でも手紙も入ってるかもな!」
「あ、名刺か。 お兄ちゃんはアレンさんとクラリゼッタさんが恋してると思う?」
「バカだなニーナ。 アレンはナイトだぞ?」
「え……でももうクラリゼッタさんはお客様じゃないでしょ? この恋は応援した方がいいのかなぁ? でもクラリゼッタさん既婚者だし……」
「はぁ……好きに妄想してろよ。 アーニャと賭ければ?」
「あっ! アーニャは本当の恋に賭けるね! ってことは……うーん……えー?」
「とにかく帰るぞ。 俺は眠い」
再び闇夜に消えたお兄ちゃんを追いかけてディメンションへ帰った。
明日6/19(土)はお休みします。




